総IT化時代の夜明け SMBの現場を追って
<総IT化時代の夜明け SMBの現場を追って>2.仙台水産(下)
2004/11/08 16:18
週刊BCN 2004年11月08日vol.1063掲載
「リアルタイム経営」は卸売業界の必須事項
仙台水産の音声現場入力システムで“キーデバイス”となっているNEC製のタッチパネル式パソコン「パネリーナ」は、当時カタログモデルとして存在していなかった。仙台水産の依頼を受け、NEC東北支社が旧NECカスタムテクニカ(現在のNECパーソナルプロダクツ)に直接働きかけ、仙台水産での度重なる現場テストを繰り返し、NECの技術力を結集して開発した“ワンオフモデル”だった。松村エキスパートは当初から、「仙台水産での運用に成功すれば、きっと『仙台水産モデル』として全国の卸売業者に展開できる」と見込んでおり、全国展開するための販売計画を立ててNEC本社を説得した。
きっかけは99年秋、仙台水産の佐藤浩・情報システム部部長が、「音声入力でリアルタイム処理をしたい」と、仙台水産に営業で通う松村エキスパートに依頼したことに始まる。当時、業務用のモバイルパソコンは、シャープ製の「コペルニクス」しかなかった。そこで佐藤部長は、この端末にNECの不特定話者向け音声認識モジュールの搭載を求めた。
これを受けNEC東北支社は、コペルニクス版音声認識端末を開発して導入した。だが、「CPUのパワー不足と周辺機器接続の障害が多発した」(松村エキスパート)ため、コペルニクスの活用を約3か月で断念する。ただちにNECでコペルニクスでのノウハウを生かし音声入力システムを搭載したパソコンの開発に着手。これには、旧NECカスタムテクニカがNEC本社の音声エンジン販売事業部(現在の社会情報ソリューション事業部)と技術協力。こうして、NEC独自のパネリーナが誕生した。今は、量産品として販売されている。
苦労の末に完成したパネリーナをコペルニクスに代わり仙台水産に順次導入。02年12月までに仙台水産の遠海、近海、大物の固定せり、移動せりの鮮魚部すべてに設置が完了した。
仙台水産の音声現場入力システムは、せり人が商品を落札するたびに、データの発生時点でデータベースへ速やかにエントリーされ、リアルタイムにデータウェアハウスに蓄積される仕組み。従来のバッチ処理ではできなかった落札の最新情報を、多角的にリアルタイムで複数のユーザーが双方向に活用できる卸売システムだ。
「せり人が落札した瞬間、仲卸、小売などに落札情報が伝わる。小売店では、この情報を基に、いち早く店舗の陳列を検討できる」(佐藤部長)と、卸売市場だけでなく、流通全体の改革につながったことを強調する。
仙台水産でグループ企業のSCM(サプライチェーンマネジメント)を統括する熊谷純智・取締役経営企画本部副本部長は、「音声現場入力システムの導入により、せり人の市場外の営業活動を1日4時間以上確保できるようになった。リアルタイム経営を進め、せりと同時に即座に情報を伝え、小売側からの情報収集も活発化することで、顧客満足度を上げることに成功した」と、同システムの効果を語る。
水産卸売業者はここ数年の魚価下落により、売上高の確保に苦心している。このため、事務処理費など販売管理費の削減は、利益を生み出すために必要不可欠だ。しかも、「卸売市場法」の一部改正で、現在の卸売手数料“五分五厘の原則”(売値の5.5%を徴収)が09年4月から弾力化されることになっており、卸売市場の再編促進に関する規定も盛り込まれた。卸売市場にも「自由化の波」が押し寄せているわけだ。
農林水産省の淺浦真二・総合食料局流通課卸売市場室水産物係長は、「国内の生鮮食料品は、市場外流通が増えてきている。だが、食料の安定需給には、卸売市場を再生して商品を安定的に卸売市場から供給する必要がある」と話す。このため、規制のない市場外流通に対抗する目的で、競争力をつけるためにも卸売市場の業務を効率化して経営体質を強化する必要性が高まっているのだ。
仙台水産の音声現場入力システムを受注したNEC東北支社は、こうした業界を取り巻く状況の変化に対応し、これまでに「仙台水産モデル」を、青森中央水産(青森県青森市)や古川水産(宮城県古川市)など約10社に納入した。さらに、全国の水産、青果卸売市場数社が検討を開始しているという。「仙台水産モデル」は、卸売市場の“スタンダード”なシステムとして今後も拡大しそうな勢いを見せている。
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