情報化新時代 変わる地域社会

<情報化新時代 変わる地域社会>第25回 大阪府池田市(上) 「行政はサービス業」

2004/11/01 20:43

週刊BCN 2004年11月01日vol.1062掲載

 自治体の情報化では、ハード面を中心にシステムの充実が図られる場合が多い。不要・不急とは言わないまでも、全体のバランスを欠くようなシステムを導入し、結果として「宝の持ち腐れ」状態になってしまった例も少なくない。大阪府池田市の場合、住民基本台帳ネットワークシステムのような基本的なシステム以外は、「市民の目線に立ったシステム」を第一義に掲げて整備を進めている。背景には、「行政はサービス業」という認識があり、職員に浸透しているということがあるようだ。それがユニークな発想や整備手法にも結びついている。(大阪駐在・山本雅則)

市民の目線に立ったシステムを 「池田発」のアイデアで施策次々と

■箱ものより情報化

 池田市の情報化施策は、比較的早い時期からスタートしている。基幹系では、1984年4月から税や国民健康保険で、メインフレームによるオンライン処理を開始。89年4月に池田市住民情報システムを稼動させている。

 情報系についても、自治体間の競争や差別化のポイントになるとみて、95年から地域活性化を目指した高度情報化施策を打ち出した。96年には民間企業との共同出資で「池田マルチメディア」(03年12月に豊中コミュニティーケーブルテレビと合併し、豊中・池田ケーブルネットに)を設立、インターネットプロバイダ事業やCATV(ケーブルテレビ)放送などを手掛けるようになっている。

 「情報基盤の整備にも資金は必要だが、箱もの(公共施設)よりは有意義と考えた」とは、野村靖仁・総合政策部IT政策課課長。市職員、市議会議員を経験した倉田薫市長がトップダウンで情報化を進めたことも、他の自治体に比べ、柔軟に動き易い環境を醸成した。こうした環境が、池田市の情報化施策を加速させ、98年には郵政省の地域イントラネット基盤整備事業の補助を受け、全国初の試みとして地域イントラネットシステムを構築。翌99年には行政情報センター内にギガビットネットワークをバックボーンとしたグループウェアを導入した。

 住民サービスに関する施策も99年にスタートした。同じ北摂にある他の2市2町と連携した広域的ネットワーク「大阪とよのネットシステム」だ。市長・町長の連絡部会で、池田市が地域ポータルの開設を提案、旧郵政省の広域的地域情報通信ネットワーク整備促進モデル事業として整備した。

 「豊中市もCATVを立ち上げるなど、他の地域に比べ熱心だったこともある。モバイルやユビキタスを意識し、地域コンテンツの充実と情報発信という、やや先を見据えた実験的地域ポータルを目指した」(野村課長)という。ターゲットは情報端末を当たり前のように使う若年層。パソコンや携帯電話、街頭端末から観光や公共情報のほか、地元の店舗なども検索できるようにした。「03年度のアクセス件数は6万7176件。携帯電話からのアクセスが最も多く、街頭端末の利用頻度は低いことなどが判明」(小松伸・IT政策課副主幹)しており、今後の住民サービス施策展開へのヒントが得られた。

■「ANSINメール」、6月からスタート

 一方、行政にとって若年層とともに重要な対象は高齢者。特に近年増加している独居老人の問題だ。この対応として99年に着手したのが、通信・放送機構(現・情報通信研究機構)との実証実験「ペット型ロボットによる福祉支援情報通信システムの開発展開事業」だ。これも池田市のコンセプトがベース。

 「まず、話す機会の少ない独居老人がペット型ロボットと音声でコミュニケーションをとることができる。同時に、キーワードを設定して、残ったログからネガティブな発言を拾い、福祉部門からのケアやサポートにつなげるため、安心感を与えることができる」(野村課長)のが狙い。もちろん、マンパワーの足りない福祉部門を効率的に運用できるという行政側のメリットも得られる。

 実証実験は、今年3月で終了しているが、最終的にはロボットにメールを送ると音声合成して老人に通知したり、老人がロボットに指示すると電話をかけてくれる、という段階まで進んだ。「できれば高齢者のゲートウェイとして量産型に発展させたい。機能を特化させれば安くていいものができるはず」(野村課長)という。他の自治体からの反響も多く、池田発でパブリックドメインに公開できれば、との思いも強いようだ。

 共通するのは、シンプルなコンセプトで、使い勝手のいいサービスをという思想。今年6月から運用を開始した「ANSINメール」制度も、まさに延長線上にある。

 大阪教育大学付属池田小学校で起きた殺傷事件が契機となり、子供の安全にかかわる情報を登録されたパソコンや携帯電話などに配信する制度。事件後、市民や市職員、民間の交通機関などと連携して構築したセーフティネットワークとメーリングリストを組み合わせたもので、決して複雑なものではないが「伝言ゲームのように尾ひれが着くことなく、最終的に市が情報を集約し、責任を持つようにした」(野村課長)のがポイント。すでに、このシステムの通報から容疑者逮捕に至ったケースもあるが、目指すところは「発信ゼロ」。強固なコミュニティが形成されているということが認知され、犯罪の抑止力になればいいということだ。「ANSINメール」についても、他の自治体からの見学が相次いでおり、アイデアを生かす「池田発」は定着しつつあるようだ。

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