総IT化時代の夜明け SMBの現場を追って
<総IT化時代の夜明け SMBの現場を追って>1.仙台水産(上)
2004/11/01 16:18
週刊BCN 2004年11月01日vol.1062掲載
「仙台水産モデル」が卸売業者を変える
仙台水産の鮮魚を扱う「固定せり」と呼ばれる売り場では、せり人の横にNECが開発したタッチパネル式パソコン「パネリーナ」を持ち、ヘッドセットマイクを着けた女性職員が立つ。せり人の声に応じて、「ジュウヨンバン、マグロ、ハチゴー、イッポン」とマイクに向け声を発する。すると、この声を認識したパソコンの画面には、「14番、マグロ、8500円(キロ単価)、1本」と、落札した仲卸業者の識別番号、商品名、落札価格、数量が瞬時に表示される。入力情報はその場で「荷渡票」としてプリントアウトされ、落札した商品に貼られていく。せり人や仲卸業者の声、フォークリフトの音が入り混じり、せりの現場は騒々しい。その騒音は、新幹線通過時の1.5倍の120デシベルを超すという。そんな環境でも、音声現場入力システムは女性職員の声を見事に拾い上げる。
このシステムは、卸売業者の業務全体に革新をもたらす可能性を持つとして、今では「仙台水産モデル」として、全国の水産、青果といった卸売業者にこのモデルと同様のシステムが相次ぎ導入されている。
今年6月9日、「卸売市場法」が一部改正され、「効率的な流通システムへの転換が図られるよう」にと、大幅に規制が緩和された。卸売業者は「自由化の波」(農林水産省)にさらされ、ITを活用した商流・物流の効率化と弾力化が至上命題となっている。
この改正を見越し、「水産卸売業が昔ながらの“度胸と勘”で通用する時代は終わった」(島貫社長)と、仙台水産はいち早くIT化による流通全体の合理化に着手。それ以前は、年間340万件にものぼる手書き伝票をコンピュータに打ち込んでいた。この作業に必要な人件費などデータ処理費は年間で約7000万円。これを音声現場入力システムの導入でカットした。この効果が、全国の注目を集めているのだ。
音声現場入力システムが使われるのは、せりだけではない。夜明け前の朝3時頃、生産者から入荷した商品の種類と数量をシステムに登録する「荷受」作業が始まる。これも音声入力で行う。荷受作業に続いて、脂の乗り具合や鮮度をチェックし「上場下付(じょうじょうしたつけ)」と呼ぶ商品の陳列作業を行う。
せり落とされた商品は、ただちに上場下付作業で入力した情報と照合。せりで落札するたびに、荷受情報をもとに、商品の種類別に落札価格と売上高、さらに利益までがリアルタイムに算出される。せりが終わった午前8時頃から行う事務処理は、「ちょっとした確認程度」で、30分ほどで済む。
従来は、書類にまとめた荷受情報をもとにせりを実施し、落札後の荷渡票も手書き伝票だった。荷受からせりまで一通り業務が終了すると、今度は事務所で手書き伝票を手作業で照合した後、オペレータ10数人がデータベースに入力していた。せり終了後の午前8時から午後2時頃までこの事務作業が続く。多くの卸売業者は、今でもこの事務負担を抱えたままだ。
「手書き伝票を使っていた時は、転記ミスや誤入力などが起こっていた。そのため、せりの後に行う鮮魚部門の後方作業は煩雑を極めた。音声現場入力システムの導入で、誤記録発生率は10分の1以下に減った」(仙台水産の佐藤浩・情報システム部部長)と、業務効率の大幅な改善につながった。
仙台水産は、他の卸売市場に先んじて、いち早く関連会社や取引先との社外ネットワークを構築。社内の各部門はLANで結ばれ、関連会社や取引先との情報交換や受発注業務は、専用回線を通じてオンライン化されている。朝早く、せり人が落札したと同時に、商品情報は仙台水産の流通網に発信されているのだ。
島貫社長は、「経営のローコストオペレーション化と食の安全、生鮮食品に対する消費者ニーズの多様化している。これらの変化に対応するために、IT化は欠かせなかった」と、ITの必要性を説く。
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