情報化新時代 変わる地域社会
<情報化新時代 変わる地域社会>第24回 東京都世田谷区 ITで出張所を変える
2004/10/25 20:43
週刊BCN 2004年10月25日vol.1061掲載
証明書自動交付機を導入し 普及率の高い印鑑登録証を活用
■“まちづくり”のウェートを高める世田谷区は今年2月に、「新たな出張所のあり方に関する報告」をまとめ、議会承認、条例改正を経てこのほどその移行計画をまとめた。世田谷区を27か所の出張所でカバーする体制には変更を加えないものの、その業務内容を見直すのが「新たな出張所」の骨子だ。
この計画では、27か所の出張所のうち窓口業務の取り扱い件数の多い太子堂、北沢などの7か所の出張所はそのままに、それ以外の20か所については証明書の発行業務を証明書自動交付機に置き換えてしまうことになっている。「出張所の業務の7割は窓口業務。そのために、重要な〝まちづくり〟という仕事のウェートが高まらない」(澤谷昇・世田谷区世田谷総合支所区民部地域窓口調整担当課長)ことが、出張所改革の要因だ。
この新たな出張所計画の中心にくるのが、証明書自動交付機の設置。27か所の出張所のほか、総合支所区民係など全部で32か所に合計で38台、それも単年度で設置する。まず、11月1日から総合支所区民係、北沢出張所、成城出張所など9か所で試行導入し、その後05年2月には残りの全出張所と分室など30施設に、さらに4月に桜ヶ丘区民連絡所と文化生活情報センター総合案内窓口の2施設に設置する。一部では時間外の証明書発行も可能になる。これらに関わる費用は、「自動交付機1台に換算して約290万円」(岡本達二・世田谷区地域情報政策担当部地域行政担当課長)とか。
その証明書自動交付機で使用できるカードは3種類。住民基本台帳カード、自動交付のために発行する専用の自動交付機カード、そして中心となるのが印鑑登録証カードだ。印鑑登録証を選んだことについて澤谷課長は、「約80万人の区民のうち約49万人が印鑑登録証をもっている」と語り、今のところ2600枚程度しか発行されていない住基カードに比べはるかに普及しているからだという。専用の自動交付機カードについては、「住基カードを持たず、印鑑登録証ももっていない区民専用」(澤谷課長)ということで、「発行枚数は少ない」とみている。
■人員を福祉業務などにシフト
受けられるサービスは、印鑑登録証ならば住民票の写し、印鑑登録証明書、課税および納税証明書の3種。自動交付機カードでは住民票の写しと課税および納税証明書、住基カードでは3種の交付を受けることができる。
印鑑登録証を自動交付機カードとして利用できるようにするには、本人確認のうえでカードに暗証番号を設定する必要がある。各出張所に出向けば、その暗証番号を登録し、すぐに自動交付機で証明書の発行を受けられる。「窓口の発行手数料は300円だが、自動交付機は普及を促すために250円と安く設定した」(岡本課長)ほか、「高齢者のように扱いが不慣れな区民のために、操作を指導する職員を置く」とも。自動交付機38台を設置することで、岡本課長は「初年度は20%程度の利用を目指すが、将来的には50%が自動交付機利用になるようにしたい」と語る。大量導入での費用対効果を高めるためには、急速に浸透させることが重要だ。
自動交付機導入を機に、住基カード普及を図る方策もあるのでは?とたずねると、「今の住基カードではメリットが少ない」という。さらに、インターネット経由での証明書発行などを導入する考えについても、「料金の収受をどうするか。MPN(マルチペイメントネットワーク)という話もあるが、どのような方法にしろセキュリティの問題などクリアしなければならない課題が多い」(岡本課長)と、電子申請まで一気に加速する考えはなさそう。今回の新たな出張所への移行計画でも、条例改正などの議会審議のなかでセキュリティの問題はクローズアップされたという。
自動交付機の大量設置で、平均11人程度の職員がいる出張所の人員は半分程度に減らせるという。それらの人員は福祉など今後、より重視しなければならない業務にシフトできる。「新規採用を抑えており、定年による自然減などで世田谷区全体で70人程度の人員削減が図れる」(澤谷課長)計算だ。あえて住基カードを重視せずに、普及率の高い印鑑登録証のカードを活用する方法を選択したことで、自動交付機の活用に拍車がかかると期待している。
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