e-Japanのあした 2005

<e-Japanのあした 2005>6.学習コンテンツの流通

2004/10/11 16:18

週刊BCN 2004年10月11日vol.1059掲載

 文部科学省が今年度から始めた「ネットワーク配信コンテンツ活用推進事業」で、学校に学習コンテンツを配信する「コンテンツ配信センター」の開所式が9月30日、東京都三鷹市教育センターで行われた。3年継続事業の初年度に参加したのは全国25地域、約600校で、センターにはすでに約1000件のコンテンツが登録済み。文科省では来年度も新規9地域を追加するべく予算要求しており、同事業の全国展開によって学習コンテンツの流通基盤が整うことが期待される。(ジャーナリスト 千葉利宏)

 昨年7月のe-Japan戦略IIのなかで教育の情報化については、(1)学校のIT環境の充実、(2)良質なネットワーク型の学習コンテンツを初等中等教育機関等へ流通させる環境の整備、(3)国の学習情報ポータルサイト機能の確立──の3点が「実現のための方策」として示された。(1)については高速インターネット接続、校内LAN整備等が進められており、(2)に位置付けられるのが今回の事業である。教育用コンテンツ配信に関する事業としては、これまで、総務省が中心となって8地方自治体が参加した教育用コンテンツ配信実験「エデュマート」が実施されてきたが、昨年度で終了となっている。今回の事業は、エデュマートと直接関係するものではないが、e-Japan戦略IIに掲げられた内容((2))を踏まえ、学校や教員など利用者の視点から、配信よりもコンテンツの充実を重視した新しい仕組みが構築されたものである。

 最大の特徴は、コンテンツ配信センターが三鷹市教育センター内に設置・運営されることになった点だ。住民基本台帳ネットワークシステム(住基ネット)などをきっかけに、どの自治体でもネットワークセキュリティには一段と神経質になっており、コンテンツ配信が目的であっても、学校が直接、民間業者とネットワーク接続することを問題視する意見は多かった。今回の事業も実施主体はIT関連企業や教材会社など約400社が加盟する社団法人、日本教育工学振興会(JAPET・坂元昂会長=東京工業大学名誉教授)だが、センターを公的機関に設置することで自治体も安心して接続できるというわけだ。

 さらに利用方法にも工夫が施された。利用者IDを生徒・児童、教員、教員管理者の3つに分けて、教員IDにはコンテンツの内容を評価できる「お試しモード」、教員管理者IDには実際に購入するかどうかを決める「決済メニュー」が表示される仕組みだ。また、教材などを備品費で購入する場合、ほとんどの自治体が条例で「備品はラベルを貼って管理する」と定めているが、ネットワーク配信されるコンテンツにはラベルを貼ることは不可能。「コンテンツ購入の障害になることが判明して、参加25地域では条例改正などの対応を取った地域もある」(大島克己・三鷹市教育センター所長)と、現場レベルでも利用環境を整えてきた。

 評価専門調査会の第2次中間報告では、校務処理の原則100%電子化が考えられることが提言された。三鷹市でも来年度には校務処理を電子化できる環境を整える予定だが、「まだ利用することは決めていない」(大島所長)という。教職員の出勤管理も“はんこ”で行うことが条例などで定められ、現状では電子化しても効率化があまり見込めないからだ。

 文科省では、教育の情報化を推進するため「“情報モラル”授業サポートセンター」やJAPETに委託して「“IT授業”実践ナビ」を立ち上げるなど情報提供による支援体制を強化してきた。しかし、ポイントは教育現場がITの活用による学習効果の向上、教材作成や校務処理の負担軽減などメリットを実感できるかどうか。今回のコンテンツ配信事業は最初の導入部分であり、今後の利用状況を見ながらきめ細かな対策が求められることになりそうだ。
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