情報化新時代 変わる地域社会
<情報化新時代 変わる地域社会>第22回 三重県(下) 多彩なアイデアで全国展開へ
2004/10/11 20:43
週刊BCN 2004年10月11日vol.1059掲載
短期間で収益をあげる企業も 県は事業継続の検討開始
■潤沢な補助金で最大100%支援三重県は2002年度、県全域にギガビットイーサネットで構築した広域ネットワーク「三重M-IX」を構築。このネットワークを09年度まで無料開放して、県内のネット産業を育成する。これをサポートするのが03年度から始まった「ネットビジネス支援事業」だ。03年度は、県内外のベンチャー企業や一般企業4社に補助金を交付。1社が特別の事情で事業化が遅れたものの、他の3社は収益を上げつつある。
津市に本社を置く井村屋製菓(浅田剛夫社長)は、植物性素材を利用した商品群「ジアイブランド」をネット上で販売開始。ネット上だけでなく、全国の女性を中心に話題が広がるなど、短期間で事業が拡大した。
松阪市に事務所を置くベンチャー企業のエクストラコミュニケーションズ(前野智純代表取締役)は、ウェブ型クーポン券の提供システムとして携帯電話やパソコンなど端末別に発券できるシステムを構築した。「店舗へ客を誘導するサービスは、大手ウェブサイトでも展開されているが、これより情報量で勝り、商店街などの集客が伸びた」(村木信哉・三重県地域振興部志摩サイバーベースプロジェクト主査)と、喜びを隠せない。
三重県のネットビジネス支援事業と同様の事業は、岡山県や秋田県などにもある。だが、三重県の事業の特徴は、補助額が潤沢で事業費に対し県内ベンチャー企業の場合100%補助、一般企業と県外企業が50%補助となっている点。こうしたメリットを狙って、04年度の応募社数は、03年度に比べ倍近くまで伸びた。
03年度の補助対象企業4社のうち、事業化が5か月近く遅れたものの、9月からサービスを開始したのは、県外企業の1社、ビジョンテック(茨城県つくば市、原政直代表取締役)の衛星を利用した漁場情報サービス。利用を予定していた人工衛星の故障により延期となったが、漁業が盛んな三重県での期待は大きい。
ビジョンテックは、海水温とクロロフィル-a(藻類の存在量の指標)などの衛星通信による観測データを受信し、漁場情報を3次元分布で提供する技術を持つ。この技術を利用して三重県鰹鮪漁業協同組合と連携したサービスを開始した。「一時的に事業が頓挫したが、日本近海だけでなく、世界中の海洋データを収集できるため、三重県と連携して実験したサービスが世界の漁業関係者に提供される可能性もある」(村木主査)と、世界展開も視野に入れ成長が見込める分野だ。
■県の後押しで商工会なども協力
04年度は、ネットビジネス支援事業費の総額を03年度と変わらない5500万円に設定して公募した。ただ、1件あたりの支援額500万-3000万円だったものを、上限1500万円に改めた。各事業に対する支援を平準化することにしたわけだ。公募では、県内のベンチャー企業30件、一般企業7件、県外のベンチャーと一般企業6件の計43件から応募があった。その結果、審査を経て県内ベンチャー4件に各1200万-1500万円の補助金が8月に交付された。
今年度の支援対象に選ばれ、三重県内でタウン誌「月刊くじら」を発行する四日市市のくじら編集室は、早くも11月11日から、携帯電話に店舗の割り引きクーポン券などを配信する四日市市街地限定サイト「ウェブポンよっかいち」の試験運用を開始する予定だ。
同編集室の市川さつき代表取締役は、「JRの四日市駅と近畿日本鉄道の近鉄四日市駅前の商店街の活性化を狙った事業だが、県の後押しもあり、商工会や商店街の協力がスムーズだった」と、事業化が順調に進んだ理由を話す。
このほかには、MS管財(四日市市、森下育社長)の三重M-IXを利用してテレビ電話を使った在宅医療サービスや、リブネット(伊勢市、谷口とよ美社長)が開発した小中学校の学校図書館の蔵書をASP(アプリケーションの期間貸し)型で管理するシステムなど、三重県だけでなく全国的に利用できる事業があり、〝三重県発〟のネットビジネスが県外へ進出する可能性を秘めている。
三重県は一応、三重M-IXの無料開放期間を09年度末(10年3月)までとしている。だが、「5年後のネットビジネスの進捗状況や県民のネット利用の利便性が高まったかなどを考慮して、(無料期間を)延長するか有料にするか状況を見て判断する」(村木主査)と話す。
出資したネットビジネスが軌道に乗り、それに刺激を受け、別のアイデアが続々登場することを三重県は期待する。
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