変貌する大手メーカーの販売・流通網

<変貌する大手メーカーの販売・流通網>第12回(最終回) 総集編 SMB戦略の強化が鮮明に

2004/10/04 16:18

週刊BCN 2004年10月04日vol.1058掲載

 「変貌する大手メーカーの販売・流通網」は、昨年11月の連載開始から、パソコン大手メーカー11社の現状を紹介してきた。企業向け販売で国内シェア上位のNEC、富士通、日本アイ・ビー・エム(日本IBM)は、中堅・中小企業(SMB)市場向け販売をさらに強化する施策を相次ぎ打ち出すなど、ここにきて、法人戦略で中堅・中小企業への傾注を深めている。日本ヒューレット・パッカード(日本HP)は10月から、日本市場向けには初めてコンシューマ向けパソコンを出荷開始する。シャープも、これまで主力のノート、モバイル型だけでなく、需要が高まるAV(音響・映像)パソコンでデスクトップ型への新規参入をこのほど表明した。連載開始から約1年という短い期間のなかでも、パソコンメーカーは確実に進化の道を辿っている。(谷畑良胤●取材/文)

コンシューマはAVが主流へ

■SMB市場に力を入れる富士通、小口のシステム案件獲得へ

 富士通は6月14日に記者会見を開き、「SMB市場におけるシステムインテグレーションのシェアを2004年度(05年3月期)の14.4%から、06年度(07年3月期)に20%へ拡大する」と、強気の成長戦略を打ち出した。富士通のSMB市場拡販を担うパートナーの商談期間を現在の平均4.7か月から平均3か月へと短縮し、小口のシステム案件を多く獲得する方針だ。

 商談短縮の手段として富士通は、パートナー支援プログラム「パートナーアリーナ」を新たに導入。システムインテグレータやISV(独立系ソフトウェアベンダー)のパートナーが開発した業務パッケージと富士通プラットフォーム製品を組み合わせて事前の動作検証を実施し、最適な組み合わせとなる「Pi(プラットフォーム・インテグレーション)テンプレート」を開発し、中堅・中小企業が求める「スピーディな業務システム構築」を実現させる。

 また、同時に全国のパートナー1700社の売上拡大をコミットする部隊「パートナービジネス本部」を240人体制で新たに組織している。

 NECや日立製作所は、「情報と通信の融合」を推進している。これは、自社の得意分野のプラットフォームを共通化して、SMB市場のシステム構築の大半を強みのIP(インターネットプロトコル)ベースに切り替えて、競合他社との差別化を図る戦略だ。

■NEC、日立は「情報と通信の融合」 日本IBM、J2EEのアプリ開発支援

 NECは6月に、SMB市場向けシステム構築を今後3年間ですべてIPベースにすることを表明。すでに大手企業向けに進めていたIPベースの「ユニバージュソリューション」のSMB市場向けに低価格・短納期の「ソリューションパック」の提供を開始した。このソリューションパックで今後3-5年内に約4000システムの販売を目指す。

 これまでデータ系と音声系に分かれていた既存パートナーの販売網についても、NECは各パートナーが両方を扱えるよう徹底していくほか、IPベースのシステムに利用するSMB市場向け業務アプリケーションをISVやシステムインテグレータと共同開発する「アプリケーションプログラム」を開始し、パートナーの囲い込みを急ぐ。

 日立は、NECがソリューションパックを発表した半月後、同社のIP製品を体系化してシステム構築する新たなソリューション「コミュニマックス」の提供を開始した。「コミュニマックスは主にSMB市場に向け拡販する」としており、NECと真っ向から競合することになる。日立は、コミュニマックスによるIP-PBX(構内交換機)やIP電話、ルータの機器販売とシステム構築で、06年度(07年3月期)までに、売上高を03年度(04年3月期)の約3倍の1500億円に伸ばす。

 日本IBMは昨年10月に発表した新パートナー戦略で、「自立型のパートナー」を揃えるため、ハードを販売・流通するだけの「特約店」制度を廃止した。1次店に自立型パートナーを据えるため、売上高や技術力、システム検証施設の設置などの各目標を約束できるシステムインテグレータだけに絞り、新たな1次店として約120社を誕生させた。

 今年6月に日本IBMは、「ISVと協業する仕組みがなかった」として、IBMのデータベースやウェブアプリケーションサーバーなどミドルウェアとISVのJ2EEベースのアプリケーションを組み合わせて製品化するための開発支援制度を強化した。これらを担当する日本IBMのゼネラル・ビジネス事業ソリューション事業営業本部には、IBM製ミドルウェアに対応したISVのアプリケーションを全国のパートナーと協力して販売する数値目標を人事評価に位置づけ、SMB市場戦略で攻勢に出ようとしている。

■伸びるテレビ搭載パソコン 各社、競って新機軸打ち出す

 一方、パソコンの9割以上をコンシューマ市場で販売してきたソニーは9月、企業向け販売へのテコ入れを表明した。かつて02年4月にソニーマーケティングに初めて企業向け販売の専属ビジネスユニットを新設したものの、直販中心で伸び悩んできた。この反省から、今後はインターネットによる受注や代理店販売を拡充する方向だ。

 コンシューマ市場向けパソコンの販売・流通網では、ソニー、松下電器産業、東芝が量販店への直販中心で、NEC、富士通、日立がディストリビュータ経由と直販を併用する状況に大枠で変化はない。

 しかし、個人向けパソコンが伸び悩むなか、今年の年末商戦に向けては需要増が見込まれるAVパソコンで、競って新機軸を打ち出してくる傾向が強まった。

 東芝が得意のノート型で「コスミオ」を出し、これまでAVパソコンには冷淡だったシャープは10インチ画面のモバイルノート型でAVパソコンをラインアップ、さらにデスクトップ型も投入する方針だ。BTO(受注生産)方式でパソコンを生産・販売しているエプソンダイレクトは、9月からパソコン事業強化を目的に、コーポレートブランドを市場認知度の高い「エプソン」に統一した。一般ユーザー層にプリンタなどを通じて認知されている「エプソン」ブランドとすることで、個人ユーザーの獲得を目指す。

 BCN総研によれば、テレビ機能搭載パソコンの販売台数が今年5月には前年同期比4倍に拡大した。今後も、地上デジタル放送対応や音響性能のグレードアップを図った多機能AVパソコンが続々登場しそうだ。

 企業向け市場とコンシューマ向け市場ともに、今求められているテーマは「スピーディ」である。システム構築の商談や納期の短縮化、商機を見極めた量販店への早期の納品など、システム構築のテクノロジーの発展やSCM(サプライチェーンマネジメント)の改革は継続的に行われることになる。(おわり)

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