情報化新時代 変わる地域社会

<情報化新時代 変わる地域社会>第18回 宮城県仙台市(下) 積極的な人材育成事業で地元IT企業を支援

2004/09/13 20:43

週刊BCN 2004年09月13日vol.1055掲載

 宮城県仙台市がIT産業活性化を図るために力を入れているのは市内におけるIT企業の人材育成だ。JR仙台駅周辺をIT関連企業の集積地とする「仙台ITアベニュー」プロジェクトのなかで、昨年度に2005年度までの3か年計画として、地元企業の競争力を高めるための研修を積極的に行うことを打ち出した。仙台ソフトウェアセンター(NAViS)や東北テクノロジーセンターを中心に、各受講者のレベルに合わせた教育プログラムを開催。宮城県が「ソフトウェア開発事業の発注方式に関するガイドライン」を策定し、地元IT企業が落札しやすい環境を整えたことからも、地元企業の技術者スキルを向上させることが急務になっている。(佐相彰彦)

経営や技術に関する研修を開催

■100種類以上の講座を用意

 地元IT企業の人材育成は、「ITベンダー企業の高付加価値化と競争力を向上させる」(阿部めぐみ・仙台市経済局産業政策部産業振興課産業創出係主事)ことが狙い。仙台市では、JR仙台駅周辺の「仙台ITアベニュー」地区に集積する約150社をはじめ、市内全体で300社程度と、IT関連企業が近隣県より多い。しかし、「システムの企画構想から開発までを一貫して担える人材を育成し、下請け企業からの脱却を図ることが急務」(阿部主事)として、昨年度から05年度までの3年間として人材育成プログラムを打ち出した。このプログラムは、昨年度で「仙台ITアベニュー」プロジェクトが終了したものの、IT企業育成を継続して行っていく必要性があるとの判断から、規模は小さいものの実現させた。

 具体的には、NAViSや東北テクノロジーセンターで研修を開催。講座は、ヒューマンスキルやITコンサルタント、プロジェクトマネジメント、ソリューション企画、アプリケーション開発、システム管理などをテーマに100種類以上で構成されており、経営者をはじめ、技術者やシステム管理者など各受講者が最終的に習得したい資格や技術に合わせ、さまざまな講座を組み合わせられるようになっている。

 例えば、コンサルティング&セールスを身に付けたい場合は、「文書作成能力養成講座」をはじめ、「提案プレゼンテーション力養成・実践講座」、「システムコンサルティング能力養成」などを受講し、ITコーディネータの資格取得のための知識を習得できる。システムエンジニアが情報セキュリティに関するスペシャリストになりたければ、「LAN/インターネット/セキュリティ管理運用技術」や「セキュリティ推進マネージャー養成講座」などを受けることにより、セキュリティを意識したシステム提案の基本スキルがアップするといった具合だ。

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■昨年度、20人がIT資格を取得

 NAViSの広島和夫常務取締役は、「地域企業の自立化に直結することを目的としている。さまざまな講座を用意することで受講者が学びやすい環境を整えた」ことを強調する。昨年度は、20人程度がITコーディネータやプロジェクトマネジメントなどの資格を取得した。

 NAViSは03年4月1日の設立以来、さまざまな業種を対象とした交流会や研究会を開催する「コーディネート・交流会事業」、セミナー・イベントなどを通じて情報化に関する普及活動を行う「プレゼンテーション事業」、民間企業や自治体などのIT関連企画や構想に関して具体的な提言や問題解決方法などを提供する「調査研究事業」を手がけ、企業のIT化に関する支援も積極的に行っている。NAViSの設立により、IT資格取得者が増えたという効果が生まれた。しかも、「ベンチャーを中心に企業のなかでは、受講したことを生かし、セキュリティ関連など独自のソフトウェアを開発しているケースも出ている」(広島常務)という。

 地元企業のビジネス拡大を支援する施策については、宮城県が2900万円以下のシステム発注案件で地元IT企業を共同受注者に組み入れることを義務づけた「ソフトウェア開発事業の発注方式に関するガイドライン」を策定している。設計図が公開済みの「オープンソース型」、部分ごとにプログラムを構築してシステムの拡張が容易な「オブジェクト指向型」のソフトウェア技術が対象。参加資格は、県内に本社をもつ企業が1社以上参加するジョイントベンチャー、もしくは地元企業の単独による受注となる。

 県がこのような施策を打ち出したのは、行政のシステム開発案件を国内大手ITベンダーが乗り出してきて受注するケースが目立ち、大手の寡占状態に陥る危険性があるためだ。しかし、こうした行政の支援にばかり頼っていくわけにはいかないだろう。市内のIT企業がソフトビジネスで拡大を図っていくために自ら強みを出していくことも必要だ。NAViSの広島常務はこの点について、「大手の受託開発などを中心に行っていたために、地元IT企業は、組込みソフト開発が強くなった。組込みソフト開発を生かし、新しいソリューションを生み出すことも必要だろう」と指摘する。
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