拓け、中堅・中小企業市場 事例に見るSMB戦略

<拓け、中堅・中小企業市場 事例に見るSMB戦略>第22回 造り酒屋の宮﨑本店編(2)

2004/09/13 16:18

週刊BCN 2004年09月13日vol.1055掲載

 三重県最大の造り酒屋である宮﨑本店は3年前、約20年前から2度のリプレースを繰り返して利用してきた富士通製のオフコンを、クライアント/サーバー(C/S)型に再構築した。大きな転機はウィンドウズ95の登場だった。「パソコンの操作性が向上したというので、ウィンドウズを試してみたかった」と、パソコンのキーボードすら触ったことのない宮﨑由至社長でも、そう思ったという。

「ITをアナログ的に利用する」

 C/S型システムに再構築する前の数年間は、三重県楠町の本社と東京支店に1台ずつ、ウィンドウズ95をインストールしたパソコンを導入し、配送管理や在庫管理などをアクセスやワードを使って行う試用期間を設けた。「インターネットやソフトの感触がつかめた頃」(美濃部浩一郎・営業部業務課課長)に、複雑な計算処理が伴う酒税に基づく財務管理が簡単にできるという触れ込みで、いくつかの業者が宮﨑本店に業務ソフトの営業を仕掛けてきた。

 そのうちの1社は、全国の小売店で焼酎を販売するT社のシステムを構築した滋賀県内にある大手メーカー系ディーラー。このディーラーから見積りを取ったが、「あまりにも高価だった」(美濃部課長)ことで早々に断る。このほかでは、訪販系ベンダーがやはり酒税に対応した業務パッケージを持って営業に来た。もう1社が楠町と同様に酒造りが盛んな土地である石川県小松市に本拠を置くシステムインテグレータのティー・エス・アイ(TSi)。結局、この2社でのコンペになる。

 最終的にはTSiが勝利。決め手は、「安定性のあるシステムであるのはもちろん、TSiが提示した業務ソフトが扱いやすく、造り酒屋の業務を比較的理解して作られたソフトだった」(美濃部課長)と、TSiが造り酒屋向けに開発した業務管理ソフト「酒仙(しゅせん)」の印象を語る。当然、このシステム導入に宮﨑社長の決裁が必要だが、造り酒屋としては「革新」を続けてきた家系に育った“6代目”とあって、「酒仙」の導入を決めた理由について、「システム云々でなく、業務に合わせてITをアナログ的に利用できそうだった」と振り返る。宮﨑本店のIT投資やIT活用の根源は、この「アナログ的に利用する」という宮﨑社長の言葉に基づき、整備が進んでいくことになる。

 宮﨑本店はC/S型のシステムにしてから、立て続けにシステム強化を実施した。まずは、「酒仙」を導入1年後にバージョンアップ。その後、社員の大部分にパソコンが行き渡り、ディサークルの企業情報ポータル(EIP)「パワーエッグ」を導入。今年3月には、初めて電子商取引(EC)サイトを開設し、商品のウェブ販売を開始した。これらを構築したのは、すべてTSiだ。「酒仙を導入してから、窓口をTSiに一本化した」(美濃部課長)と、三重県に事業所がない石川県のTSiは、たびたび三重県を担当者が訪問することになった。(谷畑良胤)
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