情報化新時代 変わる地域社会
<情報化新時代 変わる地域社会>第17回 宮城県仙台市(上) “仙台発”新技術の創造へ
2004/09/06 20:43
週刊BCN 2004年09月06日vol.1054掲載
「仙台ITアベニュー」で産業成長の地域モデルを追求
■仙台駅周辺をIT集積地に仙台市が進めた「仙台ITアベニュー」プロジェクトは、JR仙台駅東口周辺を市の産業活性化のモデル地区として位置づけ、集積するベンチャー企業などによる新しい技術の創造が狙いだ。もともと、JR仙台駅東口からJR仙石線榴ヶ岡駅までの宮城野通りの一角にはIT関連企業140社が集まっていた。「この特性を生かし、企業間競争や連携を促進させ、ITイノベーションが起こる産業クラスター(集積地)として育成を図っていくことが仙台市の産業活性化に重要だと判断した」(阿部めぐみ・仙台市経済局産業政策部産業振興課産業創出係主事)という。01年度から03年度までの3か年計画とし、約5600万円の予算を投入、仙台ITアベニュー地区のIT関連企業を支援した。
具体的には、ネットワークワーキングやセミナーの拠点として、仙台アベニューの中心地に「イーノ・スクウェア」を設置したほか、個人や中小企業・団体を対象に開業準備のためのインキュベーション施設「Nestせんだい」を設置し、新しい技術を開発する環境を整えた。
イーノ・スクウェアでは、ITベンチャー企業に対しての投資を促進するため、ベンチャーキャピタルなどの投資家に向けたプレゼンテーションの機会を設けたり、ビジネスプランの具体化に向け、技術や経営などの専門家がプレゼンテーションを行う「IT実践経営塾」など、ベンチャーの経営スキルを上げるための実践型講習会を実施。Nestせんだいでは、経営アドバイスやコンサルティング、事業立ち上げの課題を解決する勉強会などのセミナーを用意し、ビジネスプランの作成から事業立ち上げまでを総合的に支援した。
■依然残る下請け体質
仙台ITアベニュー内の大半がソフト開発企業であるものの、残念ながらこれまでは新しい技術を駆使したソフトウェアが開発されてこなかった。仙台市が中心となって、IT関連企業の連携の場、新規創業の場を設けたものの、実際には地域産業革新や競争力の強化は〝絵に描いた餅〟に終わったように見える。
仙台市では、IT産業活性化プロジェクトで仙台ITアベニューのIT関連企業が03年度末に200社まで増えるとみていた。しかし、予想とは裏腹に昨年度末の時点で集積社数は150社弱にとどまっている。しかも、「東京など大都市圏の大手企業からの受注のある、なしに左右される企業が多い」と、仙台のIT企業の〝下請け体質〟が抜け切れていない点が問題として残るという。
成功例がないわけではない。新規事業の創出や事業強化を図る取り組みにより、実際にビジネスが拡大している企業もある。
ある輸入食品販売会社では、インターネットショップを展開していたものの、売り上げが伸び悩んでいた。そこで、市が開催するオンラインショップに関するセミナーを受講し、コンサルテイングを受けた。その結果、サイトの課題分析や改善方法を習得。昨年度(05年3月期)は、アクセス数が前年度の5倍以上に伸び、新規顧客が2倍に増えたという。また、冠婚葬祭サービス業では、手作業で行っていた見積作成・受注・顧客管理のシステム化でコンサルティングを活用。自社のシステム開発に必要なポイントやシステム導入に伴う補助金の申請指導、優遇税制のアドバイスを受けることにより、迅速にシステム開発を進めることができた。
プロジェクトは、昨年度末で終了した。今年度はIT企業支援策が予算化されていない。これではまるで、失敗プロジェクトのように映るが、実は仙台市はあきらめていない。
今年度は、来年度以降の新しいプロジェクトに向けて計画を練っている段階だ。昨年度末までの課題を踏まえ、「今後は、さらに踏み込んだ支援策の実施を視野に入れる」と強調する。
昨年度までのプロジェクトで企業が積極的に参加していたのは、セキュリティに関するソフトウェアの開発やサービスを企業間で検証する「セキュリティ技術研究会」だったという。「研究会への補助が終了したものの、自発的に研究会を続けている企業もある」としており、研究会を支援することも検討する。
阿部主事は、「市全体のIT産業活性化に向け、今後は仙台ITアベニュー地区だけに限定しない支援も必要になってくる」と、さまざまな地区でIT企業が集積できる環境を作ることが、将来的に絶対に必要となると訴えている。
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