変貌する大手メーカーの販売・流通網

<変貌する大手メーカーの販売・流通網>第11回 シャープ デジタルAVパソコンで対抗

2004/09/06 20:43

週刊BCN 2004年09月06日vol.1054掲載

 シャープは今年度(2005年4月期)から、パソコン事業で同社の強みである液晶を生かすため、大幅な組織変更を実施し、新たな路線を歩み始めた。パソコンを“キーデバイス”として、同社のデジタル製品全体の底上げを図るのが狙いだ。液晶部門とパソコン部門を融合した新たな組織として「液晶IT事業部」を新設、デジタル製品のSCM(サプライチェーンマネジメント)を1つの部署で担うようにして、コスト削減とスピード化を順次進めている。中核となるパソコンは、従来の主力だった「薄型軽量ノートパソコン」だけでなく、液晶を融合させた「デジタルAV(音響・映像)パソコン」のラインアップを強化し、他の大手メーカーに対抗する考えだ。(谷畑良胤●取材/文)

「液晶」を生かす戦略を強化

■「液晶IT事業部」を新設、高い権限で施策を推進

 シャープは今年4月1日付で、同社の強みである液晶を、需要が好調なテレビだけでなく、パソコン事業でも積極的に活用するため、大幅な組織変更を実施した。“液晶のシャープ”の技術力と優位性を発揮した製品づくりとSCM改革で、「デジタルAVパソコン」を武器に、ノートパソコン市場でシェアを現在の1ケタから2ケタ以上に早期に引き上げることを狙っている。

 4月1日の組織変更では、これらを具現化するため「パソコン・モバイル事業部」と「液晶ディスプレイ事業部」を統合し、「液晶IT事業部」を新設した。

 このうち、パソコン事業専門の推進役としては、液晶IT事業部内に「パソコン事業推進センター」が設置され、パソコンの商品企画、設計、開発、生産、物流、販売に至る「最終的な店頭販売の手前までの全工程を一貫して担当する部署を設置」(笛田進吾・パソコン事業推進センター所長)し、事業戦略の見直しを図った。同センターはシャープ内では、初めての「事業部内事業部」と呼ばれ、高い権限を持ち施策を推進できる体制となっている。

 従来のパソコン事業の主流は、「薄型軽量」を売りにしたビジネス仕様パソコン「ムラマサ」を中心に、パソコン量販店や企業向けに流通させることだった。だが、今年5月に1平方メートルあたり約500カンデラの高輝度を実現し、テレビに採用しているASV(アドバンスト・スーパーV)方式ピュアグリーン・ブラックTFT液晶を搭載したXVシリーズを出すなど、他社には追随できない新機軸を打ち出した。XVシリーズにはテレビチューナーやDVDなども標準搭載し、「液晶テレビと同等レベルのパソコンを製品化した」(笛田所長)と、差別化路線を歩み始めた。

 ムラマサについても、6月に発売を開始した「CV-50F」は、デジカメ写真や地図、電子ブックが高精細で見られる「高輝度ワンダーピクス液晶」を搭載。デジタルAVパソコンを鮮明に打ち出し、ビジス用途だけでなく、映像や音楽も楽しめる多機能な薄型軽量ノートパソコンとして売り出し、新しいユーザーを獲得する考えだ。

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■量販店と直接交渉、四半期単位で発注数量を決定

 パソコン事業推進センター主導で、パソコンを含め複写機などシャープ製品のSCMで販売面を担うのが、子会社2社と昨年開設したEC(電子商取引)のダイレクト販売サイト。複写機を中心としたドキュメントソリューションを提供する子会社1社でも、パソコンを販売している。

 大手パソコン量販店やパソコン専門店、地域家電店に対しての販売は、シャープエレクトロニクスマーケティングが担当。法人市場向けには、シャープシステムプロダクトがパソコンや複写機、独自のソフトウェア、大手ITメーカーのハードウェアなどを組み合わせシステムインテグレーションを行う。また、シャープドキュメントシステムは、同社の複写機やPOSシステムなど事務機器とERP(統合基幹業務システム)やCRM(顧客情報管理)システムを組み合わせた販売と保守・サービスを行う。

 量販店向け販売を担当するシャープエレクトロニクスマーケティングは、大手ディストリビュータを介さず、すべて量販店側と直接交渉し取引を行い、四半期単位で量販店と発注数量を決める。4月の組織改編で、パソコン事業推進センターがSCM全体にタッチし始めてから、部材から完成品まで、パソコンの在庫回転日数を短縮したほか、「よりスピーディに納品する体制を継続的に模索する」(笛田所長)と改革を継続しているという。

 シャープエレクトロニクスマーケティングでは、営業と店頭販売支援担当者を大型の量販店向けには商品別に、中小の量販店や専門店向けには各店舗別にそれぞれ配置している。店頭販売では、積極的に量販店と勉強会を開き、店頭販売の企画を立案している。このため、ある調査会社が量販店に実施したCS(顧客満足度)調査で、ここ数年、シャープが首位をキープしているという。

 法人市場では、シャープシステムプロダクトが大手ディストリビュータからサーバーなどハード製品を調達し、直販とシステムインテグレータを通じたチャネル販売を行っている。同社が得意とする分野は、流通業や生命保険などだ。だが、「法人市場では、一般企業のシステム構築を得意とする大手ITメーカーとは違う、医療や教育など『特定分野』の新たな顧客獲得を強化する」(笛田所長)と、画像の質を前面に打ち出した3次元対応液晶搭載の「RDシリーズ」などで新たな市場を掘り起す。

■デジタル製品を底上げするパソコンは“キーデバイス”

 また、シャープドキュメントシステムは、パソコンや複写機など事務機器を活用した電子文書管理や社内文書のペーパーレス対策に関する「ドキュメントソリューション」に加え、システムのリモート監視をするASPサービス、複写機のサプライ品販売などを行っている。

 シャープのパソコンは、全売上高の70%が量販店とダイレクトによる販売で、法人向けが30%を占めている。だが、「パソコン販売台数全体を底上げするなかで、特に法人市場の占める割合を増やしたい」(笛田所長)と強調している。

 シャープ製パソコンといえば、ムラマサのような薄型軽量ノートパソコンが“代名詞”だった。しかし、今後はデジタルAVパソコンの比率をアップし、製品ラインアップをいっそう増やしていく方針だ。「当社のデジタル製品を底上げするキーデバイスはパソコン。現在はノートパソコンだけだが、積極的に新たな製品を出していく」(笛田所長)と、これまで新パソコンの開発に消極的だったシャープが方向を大転換しようとしている。
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