情報化新時代 変わる地域社会

<情報化新時代 変わる地域社会>第10回 大阪商工会議所(下) 他の地域機関や事業者との連携目指す

2004/07/12 20:43

週刊BCN 2004年07月12日vol.1047掲載

 大阪商工会議所が経営情報センターを開設し、地域と中小企業の情報化支援に乗り出して33年目を迎える。1986年に始めた地域流通VAN(付加価値通信網)「大商VAN」は、卸売業420社、小売業945社のEDI(電子データ交換)を支援。第3セクター系のVAN事業者が事業の撤退を図るなか、地域流通VANとしては全国最大規模のプレゼンスを維持している。その半面、企業の経営を取り巻く環境は変化し、中小企業のIT化は喫緊の課題でありながら、試行錯誤の状態にあるのも確か。このため大商では、中小企業が「IT化の実利」を享受できるよう、他の地域機関や事業者との積極的な連携により「総合ネットワークサービス機関」への展開を図っている。(山本雅則・大阪駐在)

実効ある中小企業のIT化に向け 総合ネットワークサービス機関へ

■「ザ・ビジネスモール」を全国展開

 前回取り上げた企業間取引支援サイト「the商談モール」は、中小企業の新規顧客開拓や取引先拡大の可能性を探る仕掛け。しかし、中小企業がIT化により享受できるメリットは、もっと大きい。実は「the商談モール」は、大商が中心となり、商工会議所のネットワーク整備を目指す「ザ・ビジネスモール」のメニューの1つに過ぎない。

 ザ・ビジネスモールは、98年に通商産業省(現・経済産業省)の補助事業に採択された「中小企業向け取引支援等広域情報ネットワークシステム」がベース。99年に近畿商工会議所連合会で「近畿ビジネスモール」としての検討が始まり、00年2月に「ザ・ビジネスモール」として全国展開した。

 ザ・ビジネスモールに参加する各地の商工会議所などの登録団体を通じ、その会員企業データをデータベースに登録する。その一方で、EC(電子商取引)市場や情報サービスなどとも連携し、IT活用の方策に悩む会員企業の利便性を高めた。全国に約500ある商工会議所などの団体のうち、170以上の団体が参加し、登録企業数は約35万社に上っている。

 「20年以上前に1度、パソコン通信が普及し出した頃に2度目の提唱を行い、ようやく3度目の正直でザ・ビジネスモールとして立ち上げることができた」と語るのは、経営情報センターの開設時から中小企業の情報化を手掛けてきた福島健彦・経営情報センター運営顧問。

 中小企業の実態を知らない「官」の主導ではなく、日頃から接点をもつ商工会議所がイニシアチブをとってIT化を進める方が理にかなっているとの想いが強かった様子。ザ・ビジネスモールが始動し、35万社のデータベースを構築するまでになったことで、「仲間づくりの仕掛けはひとまずできた」(福島顧問)と評価する。その半面、活用度合いの面からは依然満足できる状態にはない。

 「公的機関の調査では、70%の中小企業がITの活用に取り組んでいるとの結果が出ている。しかし、アンケートを実施しても、使っていない企業は回答しない。従業員50人以下の企業で、最低でもADSLを使って、ネットワークにアクセスしているのは10社に1社あればいい方」(同)と実態を指摘する。実際、会員企業数の少ない小規模な登録団体から寄せられる声には、「まず、パソコンに触れるようにもっていくだけでも大変」というものもある。IT化を先送りできる環境ではなくなってきているにもかかわらず、第1歩を踏み出せずにいる企業が多い。

■実利がIT化促進の動機付けに

 中小企業を「IT化の土俵」に乗せる仕掛けの1つとして、ザ・ビジネスモールに組み込んだのが、提携サイト。現在、EC市場は、食品・食材、紙・紙材、販促商品、物流、中小製造業、半導体、総合など8つのサイトと連携。情報サービスでは、与信管理、電子証明書発行、Eラーニングなど25のサイトと連携している。サイトによっては、ザ・ビジネスモール登録企業に対して、割引料金を設定しているところもある。この結果、参加商工会議所の地域特性や産業構成にもよるが、EC市場や情報サービスの説明会を開催すると、会員企業側も積極的に反応し始めている。

 松田聡・経営情報センター所長は、「中小企業は、どこからIT化に着手したらいいのか分からない、どこに話をもっていったらいいのか分からない、といった場合も多い。大商あるいはザ・ビジネスモールが相談に乗ることができ、解決策を提示したり、場合によっては橋渡しをしてくれる、ということが認知されれば、中小企業側の動きも変わってくるはず」とみる。IT化による実利を知らしめることが、IT化促進の動機付けになるということだ。

 このほか、ザ・ビジネスモールでは、中小企業とASP(アプリケーションサービスプロバイダ)事業者とのマッチングも行っている。大商が01年に、大阪府や近畿経済産業局、ASP事業者などと設立した「大阪府中小企業IT化推進協議会」によるASP利用普及サービスを、ビジネス支援サービスの一環としてメニューに取り入れた。投資リスクが低く、運用管理要員も不要なASPは、中小企業にとってメリットがあると考えられるが、そこまでたどり着いている中小企業は少ない。46のASP事業者が提供するサービスを紹介するとともに、最適なASPはどういったものか、といった相談にも乗っている。

 ザ・ビジネスモールには、中小企業がIT化に動き出すきっかけとなる複数のメニューを組み込んである。しかも、すべてが全国の参加団体およびその加盟企業の利用が可能。ASP支援の事例に見られるように、本来なら、近畿を対象にした機関が手がけたサービスも受けられる。「縦割りの自治体は連携できないが、商工会議所は民間の機動性と公的な信頼という武器を使い、取りまとめ役になれる」(福島顧問)のが強み。

 個別の機関がもつネットワークを有機的に結び付け、より実効性のある施策を目指す。それが、大商の描く「総合ネットワークサービス機関」だ。

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