OVER VIEW
<OVER VIEW>回復に向う国内ハイテク企業決算総括 Chapter3
2004/06/21 16:18
週刊BCN 2004年06月21日vol.1044掲載
国内AV・精密機器メーカー決算
■デジタルブームの効果が見えないAVメーカー決算長らく低迷していた有力国内電機・AVメーカーの2004年3月期決算は、全社が純損益ベースで黒字化し、事業構造改革がある程度の成果をあげた。しかし、デジタルAV機器ブームが吹き荒れるなかで、特に大手ソニーの大幅減益や松下電器産業の2%台の低い営業利益率などからは、デジタルAVが決算に大きな成果をもたらしたとはいえない。松下電器産業の営業利益もピーク時の半分程度に過ぎないからだ。電機・AVメーカーの売上高も三洋電機、シャープが2ケタの伸びを示したが、最大手ソニーはわずか0.3%、松下電器産業も1.1%の増収にとどまり、三菱電機は9.1%という大幅な減収だった。また、AV事業パイオニアは3.5%の増収だった(Figure13、14)。
しかし、AVメーカーは大幅な人員削減などのコスト削減で原価率が低下し、松下電器産業の売上総利益は前年度比4.3%向上し、総利益率も同29%と、念願の30%台が視野に入った。日本のハイテク企業は米国のIBMなどに比べると総利益率が大幅に低いことが指摘されており、この点の改善が急がれる。デジタルAVの追い風をいち早く受けたのは、液晶への集中で過去最高益を更新したシャープだ。同社は部品から製品までを一貫して社内で開発生産する垂直統合モデルをさらに一歩進めて、技術の外部流出を防止するブラックボックス化が功を奏し、営業利益で22.3%、純利益で86.3%という大幅増益を達成した。
一方、AVの勇、薄型テレビに出遅れたソニーは営業利益では46.7%減という大幅減益となった。また、大幅減収となった三菱電機はシステムLSIの日立製作所との合弁、ルネサステクノロジへの移管後の補てん事業拡大および、重電システム事業の構造改革に課題を残した。ソニーの決算が振るわなかったのは、いろいろな要因が絡むが、同社の主力事業であるエレクトロニクスとゲーム、音楽、映画などがすべて減収になったことが大きな要因だ。わずかとはいえ、デジタルブームの中でのエレクトロニクスの減収のもたらす影響は大きい。さらにピーク時の02年3月期に1兆円を超えていたゲーム売上高が、世界的なゲーム市場の低迷で7802億円と大きく減少したことも、ソニーの戦略舵切りが出遅れたことを示す(Figure15)。
ソニーは松下電器産業などと異なり、家庭用AV機器をベースとした、ゲームソフト、音楽、映画などコンテンツのネット流通「Eディストリビューション」を次世代主力ビジネスと位置付けている。ブロードバンド先進国のわが国で、Eディストリビューション成果を早く誇示できることがソニーにとっての課題といえよう。
■優良企業が揃う電子精密機器メーカー
キヤノン、リコー、セイコーエプソンが顔をそろえる日本の電子精密は、ハイテク業界一の優良児だ。これら3社はプリンタ、デジタルカメラ、カラーネットワーク複合機など、時代をリードする最先進分野のリーダーである。この業態の主力製品はいずれも新しいIT産業の有力商品であり、従来的ITに縛られる伝統的ITメーカーより成長の余力はずっと大きいといえるだろう。
キヤノンの総利益率50.3%は、日本の電子精密機器の強さの証である(Figure16)。キヤノンの売上高伸長で目立つのはデジカメなどカメラセグメントで、売上高前年度比は34.5%増、金額にして1678億円の増加となった。また、セグメント別営業利益率はカラーネットワーク複合機を持つ事務機が21.4%、そして高級デジタルが主力のカメラが19.3%ときわめて高い。同社はデジカメとプリンタをパソコンを介さず直接繋ぐ需要の刈り取りに注力し成功している。
キヤノンは連結ベースの特許権収入を公表していないが、単独でも当収入は217億円に達している。同社は米国特許取得でも常にトップIBMを追う2位につけており、知的財産重視を今後の国策とする日本でも、この面からもキヤノンは産業界をリードする立場にある。
■海外売上比率きわめて高いキヤノン、ソニー
世界のITメーカーを含むハイテク業界決算を分析すると、キヤノンなど国内電子精密の営業利益率は、米国ITの勝ち組、IBM、ヒューレット・パッカード(HP)、デルの荷重平均を2ポイント以上も上回る(Figure17)。これら国産メーカーはグローバルに見ても最も利益率の高い企業グループといえよう。
これに対し、デジタルAVの恩恵をまだ大きく受けていないAVメーカーの同利益率は、低いといわれる国内IT専業を下回る結果となった。AVはこれまでの低迷要因の残りの整理が終わり、売上高も大きく伸びるようになれば電子精密と並ぶ、国内リーディング産業に踊り出ると期待される。
国内ITは米国発信技術の後追いから脱却していないのに対し、AVでは米国に替わって、日本や欧州が新しい技術発信基地であるからだ。そのためにも、国内AVの売上高伸長が平均的に10%に近づくことが必要だ。また、AVメーカーのフリーキャッシュフローを見ると、松下電器産業が前年度より2835億円減ったにも拘わらず、04年3月期では4037億円と抜きん出ている。
これに対し、ソニーのキャッシュフローは486億円と松下電器産業の8分の1以下だ。さて、グローバルに市場戦略を展開しなければならない国内ハイテク企業の海外市場売上高比率を見ると、そこでは業態別の強弱が説明できるだろう(Figure18)。海外ウエイトが圧倒的に高いのは国内より海外でブランド力の強いキヤノン、ソニーが70%以上を海外で売り上げる。その他のAV、電子精密の海外依存は50%前後で横並び状態だ。
これに対し、米国技術依存のIT専業NEC、富士通は国内市場に70-80%依存し、ITとAV兼業の日立製作所、東芝はAVとITの中間に位置する。わが国のハイテクでも、自社技術に依存でき、しかも海外メーカーより量産するAV・電子精密はグローバルに売上高を伸ばせる戦略が問われている。このため、マーケティング投資余力も必要といえよう。
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