OVER VIEW
<OVER VIEW>回復に向う国内ハイテク企業決算総括 Chapter2
2004/06/14 16:18
週刊BCN 2004年06月14日vol.1043掲載
国内総合ITメーカー決算
■日米ともに不況から回復へ向かう日立製作所、NEC、富士通の国内総合ITメーカーの2003年度(04年3月期)決算はすべて、営業損益ベースで増収増益となった。東芝だけがパソコンなどの低価格化で減収となった。純損益でも黒字転換を果たした国内ITメーカーであるが、売上高純利益率は富士通が1%をキープしたものの、他はすべて1%以下の超低空黒字だ。国内ビジネスに90%以上依存する日本IBMの純利益率5.3%と比べても、国産メーカーの利益率はまだきわめて低い(Figure7)。
東芝を除いて売上高が伸びた国内ITメーカーだが、伸長率は3-5%にとどまっている。売上総利益も前年に比べ微増と微減に分かれる。したがって、04年3月期決算は国内ITメーカーにとって成長による収益回復ではなく、人員削減や事業所の廃統合などリストラクチャリング効果での損益分岐点低下によるものと考えられる。4社とも軒並み、販管費も減少しているからだ。
また、ITメーカーにとって重要な研究開発費も富士通でみると、前年度の2857億円から12.2%減少して2509億円となっている。したがって、当決算ではリストラクチャリングと経費削減によって営業利益が回復したといえる。もちろん03年度には経営戦略も従来とは大幅に変えたメーカーが目立った。
NECの金杉明信社長は、「これまで当社は脱ハードを強調しすぎた。今後はハードも重視し、積極的に投資していく」と戦略転換を説明する。世界市場でみると、00年がIT投資のピークだった。00年中盤より、世界的にIT投資は減少し続け、03年の中盤にようやく減少も底を打ち、緩やかな投資回復に向かい始めた。世界的IT投資削減によるIT不況に日本より大きな打撃を受けたのは、投資落ち込み幅の大きかった米市場に主力を置く米国メーカーだ。米有力ITメーカーでIT不況打撃をほとんど受けずに右肩上がりの成長を続けたのはウィンテル市場で独り勝ち様相を強めるデルのみだ。IBM、ヒューレット・パッカード(HP)、サン・マイクロシステムズは不況の直撃をまともに受け、それぞれ売上高を大きく減らした。
このうちサンを除くIBM、HPはわが国のIT専業の富士通、NECと同じように03年度から売上高が回復し始めた(Figure8)。IT不況では国内メーカーだけでなく、米国メーカーも一時的には国内メーカー以上の影響を受けた。したがって、03年からの市場低成長期における戦略の優劣をITメーカーは問われているといえよう。
■ITセグメントも、やっと増収基調へ
03年度国内総合ITメーカーの通信事業を含むITセグメント売上高前年度比は、富士通が1%増にとどまるが、NECと日立製作所は大きく伸びた。一方、日本IBMの売上高は5.4%と減少した。これはOEM(相手先ブランドによる生産)事業減少やHDD事業の日立製作所への売却にともなう輸出の減少によるもので、国内通常営業は横ばいであった。日立製作所の21.8%という大きな売上高伸長は、IBMから買収したHDD事業売上高が加わり、アウトソーシングなども堅調に推移したからだ。しかし、国産メーカーITセグメントの売上高営業利益率は一番高い富士通でも4.2%で、日本IBMの9.8%の半分以下だ(Figure9)。
富士通以下の国内総合メーカー3社のIT売上高は伸びているものの、営業利益率はNECのみが伸び、富士通、日立製作所はともに下がった。これはハードだけでなく、ソフトウェア、サービスでも価格低下の影響が強くなったことを語る。
富士通のソフトウェア・サービスの売上高は2.3%伸びたが、営業利益は逆に21.4%と大きく減少した。これに関し同社は、「価格競争激化、採算悪化した受注案件の増加、Linuxなど先行投資負担が増加した」と説明する。
さて、国内総合ITメーカーで最もIT事業色が強いのは富士通である。富士通の営業事業部門はソフトウェア・サービス、プラットフォーム、電子デバイスの3セグメントに集約されたからだ。この富士通のセグメント別売上構成は、エンタープライズ市場で強みを発揮している米IBMと世界で最も類似している(Figure10)。
IBMのソフト・サービス比は63.9%で富士通の43.9%を大きく凌駕するが、富士通のITサービス売上高は米IBM、EDSに次ぐ世界第3位である。富士通の黒川博照社長もNEC金杉社長同様にハードへの回帰を訴え始めており、今後、富士通の事業構成が現在以上に米IBMに近づくとは考えにくい。
■規模・利益率で米IBMと格差大きい富士通
富士通は、世界で米IBMと最も類似したビジネスモデルであるが、その売上規模と利益率では大きな格差がある。米IBM総売上高は9兆8044億円に対し、富士通の売上高は半分以下の4兆7668億円だ。とくに、富士通と米IBMと売上規模の大きな格差があるセグメントはサービス、ソフトウェア分野だ。セグメント間売上高を含めIBMグローバルサービス売上高は、5兆19億円、ソフトウェアは1兆7516億円で合計6兆7535億円、富士通の同売上高2兆1463億円の3.1倍となる。
また、ハードウェアでは富士通は通信プラットフォームを含むので、IBM売上高は富士通の1.6倍だ。デバイス、テクノロジーでは逆にIBMがHDD事業などを売却したため4043億円で、半導体量産にも力を入れる富士通8046億円の半分にとどまる(Figure11)。一方、セグメント別利益率では、IBMが富士通と比べるときわめて高い(Figure12)。
サービス・ソフトウェアでIBM税引前利益率13.5%に対し、富士通の営業利益率は半分以下だ。また、ハードウェアはIBMも価格低下に苦しんでいるが、利益率は富士通の4.6倍と高い。
とくにIBMはソフトウェア事業の売上高規模が富士通(推定値)の5倍で、税引き前利益率も23.9%ときわめて高いことが大きな強味だ。また、金融セグメントでのIBMの高利益率にも留意する必要がある。これから従量課金制ユーティリティサービスに向うIT業界では、ITメーカーの金融力量が重要な経営資源になるからだ。いずれにせよ、国内ITメーカー決算は回復途上にあるものの、利益率ではIBMなど米国メーカーとの格差はきわめて大きいといえよう。
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