情報化新時代 変わる地域社会

<情報化新時代 変わる地域社会>第6回 静岡県浜松市(下) 核になる「地域情報センター」

2004/06/14 20:43

週刊BCN 2004年06月14日vol.1043掲載

 行政と住民の間をどう近づけるか──。多くの自治体で試行錯誤が続けられている。インターネットの普及で、自治体ホームページの制作と情報提供は一般化し、電子会議室の開設や首長へのメール送信など行政側が窓口を開き始めている。しかし、それだけでは住民参加型の自治体行政が進むわけではない。浜松市は、行政と市民の「協働」を条例化するなどITをベースに独自の市民参加型行政の構築を進めている。(川井直樹)

ITベースに市民参加型行政を構築 行政と市民の「協働」目指す

■「ワンストップサービス」を実現

 浜松市は2003年4月、「市民協働条例」を施行し、行政に対する市民の参加を一層進める政策を固めた。市民の行政参加を促すためには、行政側が情報発信を積極的に行うだけでなく、市民が参加しやすいような仕組み作りや市民サービスの充実を図らなければならない。行政と市民の距離を埋める対応が必要になるわけだ。

 市民サービス充実の1つが、「ワンストップサービス」の実施。電子自治体構築の目的の1つとして、住民票の申請などのワンストップサービスが掲げられているが、浜松市の場合、93年に総合窓口として市民窓口センターを設置。従来業務ごとに分かれていた窓口を一本化した。それまでは住民票なら市民課、国民健康保険ならば国民健康保険課へと、それぞれ分かれていた窓口へ行かなくても、130種以上のサービスを1か所で受けられるようになった。

 「総合窓口開設のために、住民情報を検索するための総合審査システム、ホストに障害が発生した場合の証明補助システム、窓口案内システムなど8つのシステムを開発した」(山下堅司・浜松市情報政策課情報交流・支援グループ長)とし、将来の電子申請にも対応できるシステム構築を進めた。

 早くからワンストップサービス志向し、その充実のためのシステム開発を行ってきたことから、山下グループ長は、「静岡県が進めている県と市町村による電子申請システムの共同開発、運営には参加しない」ことをすでに決めている。電子入札については開発コストの面から共同システム化に前向きだが、電子申請については「県と市町村では、申請業務の種類も内容も大きく違う」とし、国や県のレベルでは地域住民に密着していないために、市民サービスの向上にはつながらないことから電子申請共同化には参加しないという。

■CRM向上に市民の声をDB化

 浜松市からの情報発信として重視しているのが公式ウェブサイト。97年に開設したホームページ(HP)も、「市民の使いやすさを考えて日々改良している」とか。各課のページはそれぞれで作るが、各課のHPが大きく異ならないように、「80のチェック項目に沿って情報政策課がコントロールしている」(山下グループ長)。

 各課のHPで表示や表現が異なっていては、それを見る市民の側が混乱する。統一された表示など、年齢や性別、障害などに関係なく、誰もが使いやすいようにユニバーサルデザインの思想を取り入れたり、検索も容易にするなどの工夫を加えてきた。さらに、HP作成の方向性を確認するために、年3回は技術の見直しと作成ルールのチェックを欠かさない。

 電話やウェブでの市民の問い合わせやアクセスについても、01年から稼動している市民コールセンターや99年に公式HPに設けた「市長へのご意見箱」、パブリックコメントなどを活用して市と市民の間の距離を縮めている。その結果、「CRM(顧客情報管理)向上のために」市民の声のデータベース(DB)化にも乗り出した。

 市民からの情報をDB化するだけではない。「条例や議会の会議録のDBなど市にあるDB、市民の声DBと情報は増えている。これを利用するために、ナレッジ検索エンジンを開発した」(山下グループ長)と、情報の利用にも注力している。

 テキストマイニングサーバーを導入したことで、市役所の職員は市民の声をはじめとした情報を分析・解析して政策立案に役立てるとともに、HPの更新やDBの充実を図る。コールセンターは、常に更新される情報をもとに市民の問い合わせに対応する、という仕組みが定着している。

 浜松市が進める「市民協働」には、NPO(特定非営利活動)法人も政策推進に協力している。「行政でできることにも限界がある。そこはNPO法人の協力で解決している」。浜松市情報政策課が入居する「地域情報センター」では、セミナーなどに開放する会議室のほかに、1階スペースには市民が自由に使えるパソコンを設置するだけでなく、パソコン教室も開催している。そうした活動は、市主導というよりNPOが積極的に対応し、教室の運営などを行う。

 「ITにより市民協働が容易になった。子育てや高齢者支援など提供できるサービスも広がるだろう」と山下グループ長は、ITをベースにした市民参加型の行政運営で、浜松市の先進性をアピールしている。
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