OVER VIEW

<OVER VIEW>回復に向う国内ハイテク企業決算総括 Chapter1

2004/06/07 16:18

週刊BCN 2004年06月07日vol.1042掲載

 国内有力ハイテク企業の2004年3月期決算は、前年までの低迷からの回復を示す結果となった。00年中盤からの世界的IT不況、これに続く世界的経済不振で国内ハイテクも03年3月まで厳しい決算を強いられていた。しかし、IT投資の世界的回復や、デジタルAV(音響・映像)に次々と出荷を大きく伸ばす新商品が出現したこともあって、国内ハイテクの回復基調も明らかになった。しかし総じて、今3月期決算は大幅な増収がもたらしたものではなく、リストラクチャリングによる損益分岐点の低下が利益回復につながったといえよう。(中野英嗣)

増収僅かで、第1段階はコスト削減による利益回復

■デフレ下で、売上高も重要指標となるハイテク業界

photo 03年度(04年3月期)の国内ハイテク企業決算は01年度から続いたIT不況に回復の軌道を示すものとなった。国内ハイテク大手決算の合計売上高は前年度比2.3%と微増にとどまったが、純損益では03年の赤字562億円から3742億円の黒字に転じた(Figure1)。

 世界的に00年中盤からのIT不況が回復に転じたことは、世界市場を相手とする米国有力メーカーのIBM、ヒューレット・パッカード(HP)、デルなどの決算から読み取れる。しかし、世界市場のIT投資増は年2-3%にとどまるという、ITは低成長時代に入りながらの回復と見るべきだろう。ハイテク業界では、ITに代わって新商品売上高が大きく伸びるのはデジタルカメラ、DVDレコーダ、薄型テレビなどのデジタルAV機器だ。米国には有力ITメーカーが集中するが、AVでは有力企業はない。これに対し日本はITとAV双方に多数の有力メーカーを擁するので、日本ではデジタルAVの大きな伸びが、デジタル産業と総称されるようになったハイテク全体の成長を支えることになる。デジタルAVで日本が得意とするシステムLSIなど新しい半導体売上高も伸びているからだ。大手合計の05年3月期決算見通しも売上高で5%以上の伸び、さらに純利益は56%という大きな伸びだ。日米の売上高1兆円以上のハイテク企業社数では、日本が米国を上回る(Figure2)。

photo 米国有力ハイテク企業はすべてIT専業で、AVメーカーは見当たらない。これに対し日本ではITで日立製作所、東芝、NEC、富士通があり、AV主体ではソニー、松下電器産業以下、多数のメーカーが顔を揃える。AVで有力メーカーの存在しない米国では、HP、デル、モトローラなどが薄型テレビに参入し、インテル、マイクロソフトも得意の半導体、ソフトでデジタルAV市場を狙う戦略を明確にしている。

 さて、ハイテクはITからAVまでハードはすべて価格デフレの大きな波が押し寄せている。この市場で売上高を大きく伸ばすのは難しくなった。従って真に市場に受け入れられる企業の指標として売上高の伸長が重要になったと考えられる。その意味で世界ハイテクにおける売上高ランキングも大切となった。松下電器産業は松下電工を完全子会社化して、9兆円に売上高を伸ばすと発表している。従ってトップグループではIBM、日立製作所、HP、ソニーと松下電器産業が売上規模を争う。またデルがウィンテルで独り勝ちするので、トップに次ぐグループではデルとNEC、富士通の争いも激しくなる。

photo■AVメーカーより厳しいIT専業メーカー

 00年が世界的にIT投資のピークであったので、現在のハイテク各社の売上高がピーク時に比べどのように変化しているかも、ハイテク各社決算を見るには重要である。投資が減少し、各社の売上高が大きく減少している間、顧客の投資動向も大きく変わった。この変化のなか、不況影響を受けずほぼ右肩上がりに売上高を大きく伸ばしたメーカーがデルだ。その他の有力メーカーは日米ともに不況の直撃を受けた。ITではIBMがいち早く不況から脱し、HP回復はIBMより後れた。またサン・マイクロシステムズは不振から脱することができず、低迷を続けている(Figure3)。

 日本に目を転じると、当然のことながらITメーカーの方がAV主体メーカー不況の影響をより強く受けた(Figure4、5)。

photo photo

 国内有力ITメーカーはいずれも02年3月期決算で大幅な赤字に転落している。日立製作所、東芝は03年3月からわずかながら黒字化した。IT専業のNEC、富士通は03年3月まで赤字だったが、04年3月に黒字に転じた。04年3月売上高をピーク時と比べると日立製作所のみが伸びている。これに対しIT不況の打撃が大きかったNEC、富士通の売上高はまだピーク時に大きく及ばない。この間、有力AVメーカーでは松下電器産業が大幅赤字に転落したが、デジタルAVが追い風となって、04年3月に黒字化した。

 一方、液晶で強みを発揮しているシャープは不況の間にも赤字に転落することなく黒字を続けた。また松下電器産業を除くAV有力各社は01年3月に比べ、04年3月売上高は伸長している。特にこの3年間、三洋は売上高を25%近く伸ばしているのが注目される。

■売り上げ伸びず、リストラ効果で利益を

 IBMなど米国ITメーカーの03年度売上高は前年度比で大きく伸びている。しかしこれはドル安が売上高をかさ上げしたともいえる。IBMで見ると米通貨ドルベースの決算では10%近くの伸びだが、円、ユーロなど主要外貨に対するドル安効果が大きかった。IBMの伸びも現地通貨建てでは3%にとどまる。さて、日米メーカーの売上高純損益に目を転じると、サンを除くIBM、デル、HPの利益率は国内メーカーよりはるかに高い(Figure6)。

photo トップIBM売上高純利益率は8.5%、デルも6.4%で、黒字化したHP利益率も3.5%だ。国内勢では1.2%のソニーが一番高く、これに富士通が1.0%で続くが、NEC、松下電器産業、東芝、日立製作所はいずれも1%以下のわずかな黒字だ。IT不況前から日本のハイテクの粗利益率はIBMなどより10ポイント近く低く、これが営業利益や純利益率の低さに影響していることが指摘されていた。またわが国の有力ハイテク企業も黒字には転じたものの、04年3月決算では増収幅が小さいことが問題である。従って、黒字化は売上高の伸長によるものでなく、リストラクチャリングによる事業所や人員の大幅削減によって損益分岐点を下げ、総利益と経費の幅を増やせたからだ。

 世界的にハイテク企業は04年以降、売上高をどう伸ばすかが問われているといえよう。今年度もAVでは売上台数が大きく伸びると期待される商品は多い。しかし、AVでも競争激化で「製品デフレ、部材高騰」で製品メーカーの環境は厳しいといわれる。一方、ITではAVのように出荷台数の大きな伸びが期待される商品は少ないので、増収成果を求める環境はAVメーカーより厳しいといえるだろう。一時的にパソコン出荷台数は伸びているが、これは買い替え需要に依存するもので、価格低下もさらに激しくなっているからだ。
  • 1