情報化新時代 変わる地域社会
<情報化新時代 変わる地域社会>第5回 静岡県浜松市(上) 合併により新規システム開発は凍結
2004/06/07 20:43
週刊BCN 2004年06月07日vol.1042掲載
“情報資産をいかに守るか” その結論はメインフレームの継承
■新市のシステムは浜松市に統合浜松市や浜北市、天竜市など12市町村は、「天竜川・浜名湖地域合併協議会」を組織し、05年7月1日付での合併に向けて本格的な準備作業を開始した。新市の情報システムについては、浜松市のシステムに統合することで作業を進めている。
浜松市企画部情報政策課の山下堅司・情報交流・支援グループ長は、メインフレームで構成するシステムにこだわった点について、「情報資産をいかに守るかという点で、ホスト系の優位性は際立っている。それに12市町村の合併によるデータ移行などを考えると、リスクをとることはできない」ことを挙げ、あえて保守的なメインフレームで構成するシステムの採用を決めたと言う。付け加えるならば、「リースの更新時期と重なった」ことも理由の1つとか。
「元々、浜松市の基幹系システムはNECのメインフレームを使って、庁内で職員が開発してきた。職員がシステムのプログラムを熟知しており、安易に他のシステムには移行できない」(山下グループ長)。庁内でシステム開発をしているため、浜松市の情報政策課のスタッフはシステム開発グループ11人、企画部門4人、市民情報化担当4人、グループウェアなど庁内の情報系システム担当が6人、さらに管理職2人の27人という大所帯だ。「合併のために若干スタッフが増えた」とは言うものの、市の単位で見れば相当な規模になる。
これまでは管理職をはじめ企画部門も情報システムの担当者が就くケースが多かった。最近では、「他の部門の出身者が情報政策課に来ることが多くなった。市のIT化のために情報政策課が担当する部分が増え、他の組織の業務に通じていることが必要になったため」(山下グループ長)という。
■「ボトムアップ」の情報活用も
浜松市の場合、全ての情報システムについて、予算化も含めて何らかの形で情報政策課が関わるという。そのためには、各課の業務内容に通じており、コントロールできるだけの〝発言力〟が求められるわけだ。こうした方針は、北脇保之市長のトップダウンで決められていくことも多い。
しかし、実際の運用面となると、「ボトムアップかな」と山下グループ長は事も無げに言ってのける。浜松市は、01年度から05年度までの5年間で情報化を完成させる「浜松市情報化計画」をまとめている。電子行政システムの構築から市民サービスの向上に貢献する情報化まで、ありとあらゆる情報化のプランを盛り込み、毎年度ごとの計画を示している。情報政策課が情報化をリードしてきたことで、この計画についても「計画の内容を前倒しで進め、70%程度は完了してしまった」という。
現在は、05年7月1日に決まった合併に備えて新市のシステム開発に着手する段階。このために、新しいメインフレームを導入するという。新市の基幹システムを新しいメインフレーム上で構築し、移行と同時に全面的に切り替える。
既存のメインフレームについては、「07年を目指した、政令指定都市への移行に備えたシステム開発を行う」(山下グループ長)とし、新旧2台のメインフレームを活用していく。オープンシステムなど新しいシステムに移行できないのも、2段階のシステム開発を同じプラットフォーム上で行う方がリスクが少ない、という意味もある。
あえて既存の情報システム資産を生かすことが、スムーズな開発体制を運営できるように見える。そのためにはシステム開発スタッフを大勢抱えておく必要も出てくるわけだ。ただし、今年度については、「合併に備えて新規システムの開発は凍結」(山下グループ長)とか。
レガシー(旧式)と呼ばれるメインフレームを中心としたシステム構築は、情報化に対して保守的なような感じを与える。
しかし浜松市は、ITをその手段として、「市民協働条例」を定めており、市民参加型の情報化を進めている。電子市役所の構築についても、「内部事務の効率化のためのシステム連携を含め〝攻めのシステム〟を構築するための戦略プランを固める」(同)と、合併と政令指定都市への移行という大きな山を越えて、情報化先進市を目指す。
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