情報化新時代 変わる地域社会
<情報化新時代 変わる地域社会>第3回 神奈川県大和市(上) 住民サービス向上に大きく貢献
2004/05/24 20:43
週刊BCN 2004年05月24日vol.1040掲載
市民参加の電子自治体へ どこからでもアクセス可能
■電子会議室を設置大和市は東京や横浜市への通勤者が多い首都圏のベッドタウン。昼間人口と夜間人口の差も大きい。市外へ通勤、通学する市民の多いことは、それだけ地元行政への関心が薄れることにもつながる。また、市民相互の間でも地域コミュニティへの参加意識が著しく低下するという現象を招きやすい。
こうした問題を防ぐために、大和市が採用したのが市民参加型の地域コミュニティとしての電子会議室「どこでもコミュニティ」。通商産業省(当時)の地域生活空間創造情報システム事業に選定され、補助金事業としてシステム開発した。
大和市は1994年に「やまと情報化プラン」を策定。さらに、95年には「都市計画マスタープラン」で、全国で初めて計画策定にインターネットで市民が参加した。このように大和市では、どうしたら開かれた行政が実現でき、市民と行政のかかわりを深められるかを長年にわたって検討してきた。そのなかで浮かび上がってきたのが、急速に普及し始めたインターネットを使った電子会議室の開設だった。初代の電子会議室は98年に開設されている。
普段の生活のなかで、市民相互の情報交換が少ないため、行政の発信する情報や、市民が発信したい情報がなかなか伝わらないという状況がある。例えば、「家の前の道路が陥没している。市役所のどこにアクセスしたらいいか」とか、「育児の相談」など誰に相談したらいいか迷うような場合、誰でも気軽に電子会議室を利用することで市役所の職員であったり、他の市民であったり、とにかく答えをもらうことができる。
この「どこでもコミュニティ」は、大和市企画部情報政策課の監督のもと、市民独自に新たなコミュニティを設けることもできる。「これまでに3385人がコミュニティに登録しており、市民独自で作ったコミュニティも20件になる」(奥津明仁・大和市企画部情報政策課課長補佐)という。
「どこでもコミュニティ」の特徴は、パソコンでなくても、電話やファクシミリなどからも音声・ファクシミリ認識サーバーを通じてアクセスできること。パソコンを使えない場所からでも、携帯電話などを使って情報提供を受けられたり、電子会議室内のテーマに対する投票や意見掲載ができる。
基本的に大和市は、市民同士の発言について〝検閲〟したり注意を促したりはしない。「介入し過ぎることで、市民のコミュニティが機能しなくなる」(村山純・情報政策課情報政策担当)からだ。また、行政に対するクレームについても、それぞれ担当課が対処することになっている。
さらに、登録ユーザーは大和市民や大和市に学校や勤務先がある人に限定されていない。どこに住んでいても、「大和市の行政の取り組みを支援してくれる人」ならばユーザー登録することが可能だ。
■市民の関心高まり政策にも広がり
「どこでもコミュニティ」の運営や行政と市民相互の活発な情報交流を図るために、01年1月に「どこでもコミュニティ市民会議」がスタートしている。コミュニティの円滑な運用のための問題点や課題の解決だけでなく、02年3月には、行政IT化計画の「大和市情報都市マネジメントプラン」も策定した。
電子コミュニティ内の意見交換も活発化している。「市民からの政策提案や、市政に対し熱心に関心を寄せるユーザーが盛んに書き込むなど、政策決定にも広がりが出てきた」(村山情報政策担当)と、市民の市政参加に効果があったと語る。目下の悩みは、22万人の人口に対して登録ユーザーがあまりにも少ないこと。インターネットが普及しても、どれだけ活用されるかは未知数というわけだ。
ただ、「インターネットにより市役所の間口が広がった。市民からの問い合わせや苦情は、電子会議室よりもむしろ直接各課に届いている」(奥津課長補佐)。各課のサイトは各課が作成し、更新もそれぞれで行っている。これも「市役所の職員が電子コミュニティに全員参加する体制の一環」(奥津課長補佐)というわけだ。
自治体は政府の方針に沿うために、財政難のなかで必死に電子化を進めようとしている。しかし、電子化することが目的となり、庁内の文書管理や電子決裁などを優先して電子自治体構築を標榜するところも少なくない。大和市は、まずコミュニティ形成の段階から、市民参加の電子自治体を志向している。
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