視点

「紺碧の空」

2004/05/17 16:41

週刊BCN 2004年05月17日vol.1039掲載

 青空文庫では、夏目漱石や芥川龍之介など著作権の切れたものを中心に、4000近い作品が公開されている。ボイジャーはおよそ15年にわたり、電子出版に取り組んできた。その両者が共同で、青空文庫用ビュワーをつくった。その名はazur(アジュール)。フランス語で「紺碧」を意味する。azurの正体は、「縦組み対応ウェッブブラウザ」である。文庫のxhtmlファイルに最適化されているが、URLを指定すれば、どこでも開ける。なんの変哲もないページが、電子本の体裁に化ける。

 7年前、「これなら電子図書館がつくれる」と青空文庫の誕生を後押ししたのは、インターネットの普及と、電子本作成ツール、エキスパンドブックだった。縦組み、ページめくり、第1第2水準にない漢字も、画像で埋め込めるなら、読むにたえる電子図書館ができると考えた。だが、ボランティアによるファイル作成の輪が広がり、この試みがある種の公共性を帯びはじめると、私企業の専有技術に頼ることに疑問が生じ始めた。文庫のファイルは、長く、広く使い回せるものがいい。そう考え、エキスパンドブックを打ち切り、テキストとxhtmlに絞った。

 そこでいったんは捨てた「読みやすさ」を、今度は公的な規格にそって再構築する試みがazurだ。幸いにもルビタグは、xhtmlにある。字下げや地付き、漢文返り点もタグで書ける。傍点や各種の傍線といった書けない要素は、タグのコメント欄を利用して、表示ソフトに伝える。かつて、外字画像として処理したものの多くは、第3第4水準を決めたJIS X 0213というこれも公的な規格にそって、処理する。

 専用ハードの登場が話題の電子出版では、各陣営のおすフォーマットへの囲い込みが進められている。一方、青空文庫では、公開されたルールとツールを用いて、標準技術によるファイルづくりを進めてきた。そのファイルを、電子出版物として表示する最後の仕上げがazurだ。これで始まりから終わりまで、開かれた電子出版の流れができたと自負している。紺碧の空には、一点の雲もない。ウィンドウズ、マッキントッシュ双方のお試し版が、ボイジャーのサイトからダウンロードできます)
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