視点

米国IT巨人、新市場取り込みで次の成長を担保

2004/05/03 16:41

週刊BCN 2004年05月03日vol.1038掲載

 米有力IT企業の今年第1四半期決算が出揃った。サン・マイクロシステムズを除くとほぼ軒並み大幅な増収増益基調となり、IT市場が世界的に回復しつつあることを実感させる。サンは、自社OS、プロセッサ依存の垂直統合モデルに固執、売上高激減にもかかわらず、多額の研究開発費呪縛に陥った。一方、業績向上組でも強者とそれ以外の企業では、歩む路線に大きな違いが出始めた。中下位企業は既存商品需要増が、一時的に売り上げを押し上げた。しかし、IBM、デルなど巨人の決算は、従来とは異なる戦略が着実に進展していることを物語る。

 マイクロソフトやインテルのような寡占・独占ベンダー、あるいはIBM、デルのように特定市場で競合他社を圧するトップベンダーは、一様に市場規模拡大が限界に近づいたため、収穫逓増の神通力が失われたことに危機意識を強め、戦略を大幅に転換しつつある。インテルが標榜する「ムーアの法則」はいまだ生き続けるが、半導体技術革新が生む新商品の市場拡大力は失われた。マイクロソフトが独占するパソコンOS市場も、オープンソースの台頭で価格低下から逃れられなくなった。デルが独走するウィンテル市場は、経済先進地域ではすでに買い替え需要だけに依存するサチュレーションが明白となった。

 IBMが他を圧倒する従来型ITサービス市場も、ITインフラ投資抑制で売り上げの急拡大も難しくなった。戦略転換のため、マイクロソフトはサンを取り込み、Javaと.NET併存でウェブサービス制覇を目論む。

 デルは、参入したてでシェアも小さいプリンタや、自国有力ベンダー不在の米国AV(音響・映像)市場へ、わが国の強力なAVベンダーの垂直統合とは対照的な、水平分散型製造モデルで参入した。一方、IBMは、ビジネスコンサルティングとビジネスプロセスのアウトソーシングを一体化する新サービスに活路を見い出した。従来型の市場需要拡大だけに依存するベンダーは、一時的に需要回復の恩恵を受けるものの、価格デフレによる市場規模縮小に成長を阻まれる。米国では、従来的ITサービスもオフショアリング潮流で、ここにも価格デフレの波が襲う。いずれにせよITサービスを含めて既存市場は縮小軌道上にある。価格デフレが当面及ばない新市場取り込みが、強者共通の戦略となった。
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