情報化新時代 変わる地域社会

<情報化新時代 変わる地域社会>第1回 山梨県南アルプス市(上) 欠かせないキーマンの存在

2004/05/03 20:43

週刊BCN 2004年05月03日vol.1038掲載

 合併特例法の期限があと1年を切り、合併を計画中の自治体での作業も大詰めを迎えつつある。複数の自治体が1つになることは、議会の問題、人事をどうするか、庁舎の位置は、新市の名称は? など解決すべき問題が多い。編入合併の場合、中心となる市の仕組みに合わせるケースが多く問題が発生する要素は少ないが、対等合併の場合は、合併協議会の担当者に言わせれば、「ありとあらゆることで、議論が繰り返される」という。自治体運営に今や情報システムは欠かせない。市町村合併の際、情報システムの統合にどんな問題が発生するか──。昨年4月1日付で6町村が合併した山梨県南アルプス市に、合併にともなうIT統合の実態を見た。(川井直樹)

情報システム統合をスムーズに解決 最も人口の多い白根町に合わせる

■NECのシステムを採用

 南アルプス市は、山梨県西部にある。かつては狭西地区と呼ばれ、新市の名称の由来となった南アルプスの北岳を背に、北は甲府市と接した地域。ここにある白根町、櫛形町、甲西町、若草町、八田村、芦安村の6町村が合併して2003年4月1日に新市に移行した。

 もともと、これら6町村は広域事務組合を組織し、消防や清掃など広域事業を行っていた。地元の高校などの同級生がそれぞれの役場に就職している場合もあり、以前から合併の話は当たり前のように出ていた。こうした状況が、「南アルプスの合併がうまく運び、情報システムの統合が順調に進んだ要因」(新津岳・南アルプス市企画部情報政策課情報化推進担当)という。

 そうした背景があったとしても、情報システムの統合は役所各部の業務形態そのものにかかわる部分が多いために、対等合併の場合には議論百出が当たり前。そうしたケースが多いなかで、NECの鹿島康平・公共ソリューション事業部事業推進部長は、「合併プロジェクトのなかでも、南アルプス市の情報システム統合は順調に進んだモデルケース」と太鼓判を押す。その中心となったのが新津氏だ。

 南アルプス市の住民記録など、基幹システムはNECが受注した。合併した6町村は「それぞれ異なるベンダーのシステムを使っていた」(新津氏)という状態で、NECに決まったのは単純に「人口で決めた」と新津氏は事も無げに言う。もとより新津氏自身、櫛形町のシステム担当者として富士通のオフコンを使い、COBOL(コボル)を駆使して庁内システムを作り上げてきた。「櫛形町は80年に電算システムを自己導入した。それからCOBOLを使って、自らシステムの拡張を行ってきた」という。

■データコンバートで合理的な判断

 櫛形町以外でも、それぞれ地元のシステムインテグレータなどとシステム構築、運営を行っており、〝使いやすさ〟や〝親しみ〟という点では合併する町村にとって、「捨て難い」システムになる。それを、「人口で決める」という決断に至った理由を新津氏は、「どの町のこの機能はマル、この町のこのシステムはバツ、といったように○×で機能を評価していったら、それこそ時間がいくらあっても足りない。もっと誰もが納得せざるを得ない理由で決める必要があった」と語る。

 過去、各町村はそれぞれコンピュータを導入し、カスタマイズを繰り返して、庁内で使いやすいシステムを構築してきた。「電算小委員会に集まる面々は、それぞれの町村の〝看板〟を背負ってきているわけで、自分たちのシステムが少なくとも一番使いやすい、と信じている。それぞれの自治体のプライドにもかかわる」問題でもあり、反論しにくいような理由が必要だったという。

 その〝決め手〟になったのが人口だ。6町村のうち、当時最も人口の多かったのが白根町で1万9500人。これで、白根町が活用していたNECのシステムを、新市で活用することに「決めた」。

 櫛形町の情報システム担当として、自ら構築してきたシステムに愛着はなかったか。こう新津氏に聞いてみると、ちょっと言葉を置いてから、「それを言い始めたらキリがない」と笑い出した。合併の情報システム統合という難題を乗り切るためには、それぞれの思い入れは不要というわけだ。

 市町村合併にかかわる多くのITベンダーが、「多くの合併協それぞれで自治体のシステムの長所短所をどうしようか、という問題に突き当っている」という。ベンダーが異なれば、システムの構成やデータの作成方法、住民コードなどの作り方も異なる。それを1つ1つ新市のシステムに合わせてデータをコンバートしていくという膨大な作業が、システム統合には待っている。人口の多い自治体に合わせてしまうのは、合理的な判断だ。

 白根町1万9500人に対して櫛形町は1万9300人と、差はわずか200人。それでも、「人口の多い白根町に合わせる」ことを決めた。市町村合併をスムーズに進めるためには、何より妥協も必要と言うことかもしれない。

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