OVER VIEW

<OVER VIEW>緩やかな成長期に入った2003年米国IT企業決算 Chapter8

2004/04/19 16:18

週刊BCN 2004年04月19日vol.1036掲載

 ITサービスのEDS、ネット機器のシスコシステムズ、ソフトウェアのオラクル、ストレージのEMCはいずれもIT不況の影響や米大企業顧客の破綻によって業績が低迷していた。しかし、2003年には一斉に回復へ向かい始めた。とくに、年決算が年央近辺のオラクル、シスコは04年度決算で回復への足取りが明確になるだろう。しかし、これら特定のカテゴリーのキラーには、シスコを除くと強い競合ベンダーが存在し、市場が大きく伸びた90年代ように業績が大きく伸びるには多くの課題が立ちはだかる。(中野英嗣)

業績低迷から回復に向かうエンタープライズベンダー

■軒並み不況の影響を受けたカテゴリーキラー

photo EDS、シスコシステムズ、オラクル、EMCはそれぞれエンタープライズ向けITサービス、インターネット関連機器、アプリケーション・ミドルウェア、ストレージ専業のいわゆるカテゴリーキラーのベンダー群である。これらエンタープライズベンダーも00年秋口からの世界的IT不況にそれぞれ大きな打撃を受け、ピーク時に比べると、売上高、利益も大きく減少していた。

 03年7月決算のシスコ売上高は、ピークの01年度比で15.3%減少しているが、最終利益35億7800万ドルは、01年度の赤字10億1400万ドルからは大幅な回復だ(Figure43)。

photo 03年5月決算のオラクル売上高もピークの01年度比で13.6%減少しているが、04年度決算では回復基調にあると同社のラリー・エリソン会長は説明している(Figure44)。

 米国有力エンタープライズベンダーのなかでもストレージのEMCはIT不況の直撃を受けた代表だ。02年12月期のEMC売上高はピークの00年度比で38.7%減と、40%近く減少していたが、03年度にはいち早く回復軌道に乗り、前年度比14.7%増の売上高となり、01、02年と続いた赤字からも脱却した(Figure45)。

photo IT不況の影響よりも90年代後半からの相次いだ米大企業の破綻の影響をまともに受けたのが、世界のITサービス、とくに大企業のITアウトソーシング受託でIBMグローバルサービスと覇を競ってきたEDSである。90年代後半、EDSは米海軍や英国政府などのアウトソーシング受注合戦でIBMを破り、大きく躍進した。

 しかし、90年代後半の不正会計などによるエンロン、ワールドコム(現在MCIに吸収)、USエアウェイの破綻によって、同社がIBMに競り勝ったアウトソーシング受注残が不良債権の山と化してしまった。いずれのエンタープライズベンダーもIT不況の影響を受けたが、早目に業績が底を打ったベンダーほど早く回復軌道に乗ったといえる。

■契約先破綻で大打撃を受けたEDS

photo ITアウトソーシングは、中長期契約で顧客の固定化を図るので、この専業EDS売上高はIT不況下でも大きく減少することはなかった(Figure46)。

 しかし、顧客破綻によって同社総利益は大きく減少している。03年12月期のEDS売上高はピークの01年度比でわずか0.3%しか減少していない。しかし、03年度同社総利益19億7400万ドルは、ピーク01年度比で51.9%減と半減している。これについてEDSは、USエアウェイの破綻、破綻したワールドコムのMCIによる買収などによるコスト増および米海軍アウトソーシング内容変更によって8億ドル以上の総利益が減少したと説明。これらの要因によってもEDS売上高は微減であったが、損益は大きな影響を受け、03年度は16億9800万ドルの最終赤字に陥った。このため同社は、04年3月に自社ソフトウェア開発事業を3社の米国投資会社に売却すると発表した。

 ストレージのEMCはIT不況および大企業のITインフラ投資の大幅削減の影響によって、02年まで売上高減少が続いた。

 とくに、同社売上高では、サービスは大きく伸びていたが、売上構成比の大きい製品の02年度売上高がピークの00年度比で47%減と半減した。この製品売上高も03年に前年度比11.9%増となった。ストレージもサーバー価格デフレにつれ、容量需要は伸びるがシステム単価は著しく低くなっている。このためEMCは、「情報システム・ライフサイクル・マネジメント戦略」を強化し、このため「レガートシステムズ」、「ドキュメンタム」など専業ソフトベンダーを買収した。

photo いずれにせよストレージなどエンタープライズシステムは、IBM、ヒューレット・パッカード(HP)、あるいは富士通以下の国内総合ベンダーが自社開発の自律型、仮想コンピューティング機能で強化しているので、EMCなどカテゴリーベンダーには厳しい時代が続く。シスコの主力市場は設備投資を大幅削減しているテレコムではなく、エンドユーザー企業だ。このためシスコはテレコム主体のノーテルネットワークス、ルーセントテクノロジーズなどのように大幅減収に陥ることもなく、03年7月期に売上高減少は底を打った感が強い。

■カテゴリーキラーに立ちはだかるマイクロソフトとIBM

 オラクル、EDSなどカテゴリーキラーはそれぞれの専業市場でマイクロソフト、IBMと売上高で大きな格差をつけられている。98年度のマイクロソフト売上高152億6200万ドルは同年オラクル売上高76億7600万ドルの2倍であった。しかし、その後マイクロソフト売上高は大きく伸び続け、03年6月には98年の2.1倍、321億8700万ドルとなっている。これに対し、オラクル売上高はこの間、1.2倍にとどまったため、マイクロソフトとの売上高格差は3.4倍となった。世界第2位のソフト会社でもあるIBMのソフト売上高も、この間横ばいに近かったので、マイクロソフトとの売上高各差はきわめて大きくなった(Figure47)。

 一方、ITサービス専業最大手であるEDS売上高は01年度から横ばい状態が続き、03年度には総利益の大幅喪失で、EDSは赤字に陥った。

photo サービスでEDSを圧倒してきたIBMのノンハード部門は、IT不況の間にも業績好調で03年度同部門売上高は、世界のIT投資ピークの00年度比で24.5%も伸びた(Figure48)。

 これはIBMグローバルサービスが伸び続け、さらに02年IBMはコンサルティング大手のPwCコンサルティング買収によって、これまでIT企業の市場ではなかったビジネスコンサルティングを取り込んだことによる。これで、IBMは強いITインフラ構築とコンサルティングのワンストップショッピングを実現し、世界の2番手EDS、3番手富士通と圧倒的な差をつけた。EDSは大企業顧客の破綻処理がほぼ決着した04年以降、業績立て直しが問われている。いずれにせよエンタープライズベンダーのEMCには、複数の総合ITベンダー、オラクルにはマイクロソフト、EDSにはIBMグローバルサービスという強者が立ちはだかる。カテゴリーキラーのシスコだけには当面際立って強い競合が見当たらない。
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