米国流通最前線を行く
<米国流通最前線を行く>第8回(最終回) ステープルス 事務用品からパソコンまで
2004/04/12 20:42
週刊BCN 2004年04月12日vol.1035掲載
大口顧客とSOHOの両方をカバー
■創業後10年で売上高100億ドル突破ステープルスは、オフィススーパーストアと呼ばれる、事務用品全般を扱う大手チェーンだ。取扱品目は多岐に渡る。ペンやノートなどの一般事務用品からコピー機やパソコンなどの電子機器類まで網羅する。SOHOと呼ばれる小規模オフィスの需要を満たすとして人気を呼び、2003年度(04年1月期)は131億ドル以上の売り上げを約1500の店舗で達成している。
創業は同業他社のオフィス・デポやオフィス・マックスなどと同じ1986年。当初はプリンタのインクリボンを扱う業者としてスタートした。創業後10年で100億ドル以上の売り上げを達成。現在は業界トップの座を維持している。
各店舗は、倉庫型の陳列と集中型レジ、メーカー直販スペースの設置や、自社流通機構による徹底的なコスト削減など、非常にオーソドックスな手法を採る。オフィス・デポとの違いは、同社が郊外中心の店舗展開であるのに対して、ステープルスは都心部への出店が多い点である。
ステープルスは95年にオフィス・デポの吸収合併を計画したが、公正取引委員会の介入により断念。現在は海外進出に積極的で、イギリス、ドイツ、オランダ、ポルトガルなどに出店している。カナダでは「ビジネス・デポ」という名称で約200店舗を展開中だ。標準的な店舗の床面積は約2万平方フィート。一部の店舗では24時間営業も行っている。
■パソコン関連商品の扱い増える
取扱品目は膨大だが、特に近年はパソコン関連の扱い比率が増え続けている。ステープルスは大口の顧客に対するサービスが好評で、早くからフォーチュン1000社などの大口顧客に積極的に営業展開を行っており、パソコン関連の販売についても競合他社より有利な条件が揃っていた。
例えば、プリンタとファクシミリの機能を併せ持つ複合機(MFP)がSOHOで人気だが、これらの商品の売上比率は同業他社のなかでも高い。
ブラザー・インターナショナルの藤本智之・プリンタ製品マネージャーは、「ステープルスは大口顧客との契約も多く、安定して大量の販売契約が期待できる魅力的な取り引き相手だ」と話す。小規模オフィス用会計アプリケーション「ターボタックス」を発売しているインテュイットも、「ステープルスを含めたオフィススーパーストアーでの販売を非常に重要視している」という。
98年からはオンラインショップも運営している。運用開始以降、売り上げは順調で、現在では1万社以上、50万人を超えるユーザーに利用されているという。こちらでも大口の顧客に対して発送料金をディスカウントするなど、競合他社に対して少しでも魅力あるものとするために積極的な営業努力を続けている。
■オフィス製品は堅実な市場
ステープルスは業界トップを維持しているとはいえ、競合他社との差はわずかだ。しかし、顧客のニーズにマッチした販売戦略や、都市部への出店が功を奏し、しばらくは安定した経営が望めると見られている。他の大手家電販売チェーンとは違い、流行に左右されない商品が主力であることも強みだ。
今後さらにIT化が進むオフィスで、いかに時流に乗り遅れないか、あるいは自身の手でオフィスの慣習を打ち破る新分野の主力商品を生み出すことができるかどうかが、今後の成長のカギとなる。堅実な経営とそれを後押しする積極的な戦略、良好な企業イメージをもたらす新分野の商品と、安定した利益を生む旧来の事務用品群を両方兼ね備えるステープルスは、企業経営としては理想に近いといえる。
また、ステープルスの名前を冠したスポーツアリーナ「ステープルス・センター」は、バスケットボールチームのロサンゼルス・レイカーズの本拠地としてNBAファンにも有名だ。
ステープルスのロナルド・サージェント最高経営責任者(CEO)は広報を通じて、「当社は全ての顧客と一緒に成長するために、多くの計画を実行している。スポーツ分野だけではなくチャリティなどへも積極的に活動中だ」と話す。
【会社概要】 |
■ 企業名:ステープルス(Staples,Inc.) |
■ 社長:トーマス・G・ステンバーグ (Thomas G. Stemberg) |
■ URL:http://www.staples.com/ |
■ 企業形態:株式上場済み、NASDAQ:SPLS |
■ 決算月:1月 |
■ 2003年度売上高:131億8120万ドル |
■ 過去1年間の成長率:13.7% |
■ 2003年度収益:4億9020万ドル |
■ 過去1年間の収益の伸び率:9.9% |
■ 従業員数(2003年度):6万633人 |
■ 過去1年間の従業員数の伸び率:4.9% |
これまで8回にわたって、パソコン関連商品を取り扱う代表的な販売会社を取り上げてきた。そのいずれもが有名な企業であり、IT市場の急成長で、これまでは順調に推移してきた。昨年のクリスマス商戦も米国経済の復調で、売り上げは好調だったようだ。
しかし、先行きは不透明だ。当連載第2回で紹介したサーキットシティのマンハッタン店(米ニューヨーク)は、ハードウェアの陳列を減らし、DVDソフトや音楽CDなどを中心としたソフトタイトル中心の品揃えに移行した。
これらの商品は詳細な商品知識や面倒なアフターフォローが不要で、人件費や付帯経費の削減が可能だ。各社とも、液晶テレビ以降の具体的な主力商品を見つけることができないまま、他社との競争が続いている。どこがいち早く次の主力商品を見つけることができるのか。この点が今後を占う上での大きな焦点となる。
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