OVER VIEW
<OVER VIEW>緩やかな成長期に入った2003年米国IT企業決算 Chapter6
2004/04/05 16:18
週刊BCN 2004年04月05日vol.1034掲載
マイクロソフト、契約受注残減少、経費増対応が課題
■ソフトベンダーとして初の300億ドル企業へ2000年からの世界的IT不況にも、マイクロソフトはデルとともに、その直接的影響を受けずに従来通り、業績を大きく伸ばした。IT不況でウィンテル連合の盟友、インテル売上高はピーク00年から大きく落ち込んでいた。インテルは世界的パソコン出荷低迷による影響を直接受けた。
一方マイクロソフトは、パソコン、インテルサーバーへの全面依存する経営から新ビジネスも徐々に立ち上げた。新ビジネスではXboxを基幹商品とするホーム&エンターテインメント、あるいはCRM(カスタマーリレーションシップマネジメント)などのアプリケーション開発ISV(独立系ソフトウェアベンダー)の米グレートプレーンズなどの買収によって「MSブランド」のCRMパッケージビジネスを始めた。これら新規ビジネスの立ち上がり、あるいは従来のOS、オフィスなどライセンス契約を長期拘束に切り替えるなどの戦略転換によって、マイクロソフトはIT不況を克服した(Figure31)。
マイクロソフトの03年売上高は前年比13.5%伸び、純利益も同27.6%と大きな伸びを見せた。これによって同社はソフトウェア会社として世界で初めて、売上高300億ドル(3兆3000億円)企業の仲間入りを果たした。この結果、マイクロソフトは米国ITベンダーとしてIBM、ヒューレット・パッカード(HP)、デルに続く業界売上高第4位の地位を確保した。
世界的有力ソフトベンダーはマイクロソフト、IBMソフトウェアグループ、オラクルの3社である。第2位IBMソフトウェアは00年からも売上高が若干伸び続けたが、03年売上高は、世界IT投資ピーク00年比で13.6%の伸びにとどまった(Figure32)。
一方、オラクルは03年はピーク00年比で7.4%も売上高が減少している。この間マイクロソフトの伸びは40%を超え、同社は戦略転換も含めて世界ソフトウェア市場ではますますそのプレゼンスを強力にしている。しかし、この強者、マイクロソフトにもいくつかの弱点が決算書から読みとれるようになった。
■既存ビジネス売上構成が依然高いマイクロソフトセグメント
マイクロソフトは商品セグメント多角化戦略によって、従来からのクライアント用OS、サーバー用ソフト、オフィスなどのインフォメーションワーカーに加え、ビジネスソリューションズ、インターネットサービスMSN、組込機器向けモバイル&エンベデッド、それにゲーム機などホーム&エンターテインメントという多くのセグメントを擁するベンダーとなった。しかし、その売上構成は、クライアント、サーバー、インフォメーションワーカー合計が83.2%ときわめて高いままだ。これに対し、最も遅く参入した「MS-CRM」など業務アプリケーションのビジネスソリューションズでは、2%弱の構成にとどまっている(Figure33)。ホーム&エンターテインメントは、ゲーム機Xboxというハードをともなうため、8.5%の構成比となっている。
また、各セグメント売上高の前年度比伸長を見ると既存セグメントがいずれも10数%台となっているのに対し、最も新しいビジネスソリューションズでは、まだ売上高が小さいこともあって84.1%も伸びた。さらに携帯電話なども狙うモバイル&エンベデッドも39.3%伸びている(Figure34)。
しかし、携帯電話は、最もOSシェア争いの激しい分野だ。ここでは世界携帯電話トップのノキアが注力する英シンビアン開発のOS「Symbian」、これにわが国のTronが大きなシェアをもち、さらに直近ではLinuxが大きな注目を集めている。このようなシェア争いのなか、世界有力携帯電話ベンダーや通信サービス事業者ではマイクロソフトのウィンドウズCEを全面的に採用するところはない。マイクロソフトOS採用による同社の利益独占を警戒するからだ。さらに後発となったCRMなどでも、米国ソリューションプロパイダ(SP)のマイクロソフト警戒感は携帯電話同様に強まっている。
既存ビジネスの強さが目立ち、世界パソコン市場利益のウィンテル2社の独占に、世界IT業界が警戒を強めることが、マイクロソフトの新ビジネスの課題となろう。
■2つの課題が決算書で明らかとなる
IT不況にもかかわらず高い伸びを示してきたマイクロソフトにも、いくつかの経営上の問題点が決算書からも明らかとなった。
第1は、大企業向けのソフトウェア長期ライセンス契約「ソフトウェアアシュアランス(SA)」の受注残に相当する未計上売上高が、03年6月を境に減少に転じていることだ(Figure35)。
一方、従来的ソフト売切り方式契約ユーザーのアップグレード時の優遇策「アップグレードアドバンテージ」の売上高も、同社の契約戦略の転換によって大きく低下している。これに関し、米国では、04年夏のアップグレード優遇制終了によって同社SA売上高がどう変化するかに関心が高まっている。この契約方式切り替えに対する米国大企業は「Linux台頭をカードにしてマイクロソフトに対する、ライセンス価格の値下げ交渉が活発になる」と述べるアナリストも多くなった。
第2の課題は、同社社員待遇制度転換にともなう経費増、これにともなって圧倒的高さを誇ってきた同社利益率の低下だ。マイクロソフトはこれまで社員報酬としてストックオプションを活用してきたが、欧米でこの経費を損金算入する動きの強まりとともに同社はストックオプションに替えて、自社現物株式を無償支給する制度を、03年7月以降の04年決算から導入した。
マイクロソフトのこれまでの正式決算(GAAP)ではストックオプション費用未算入であったが、参考としてこの経費算入決算書も公表していた。03年6月決算書でも、ストックオプション経費算入では、営業利益率は未算入の41.1%から28.7%と12ポイント以上低下していた(Figure36)。
同社は04年から株式支給費用算入を正式決算としたため、03年12月の6か月決算で21億7000万ドルの経費が発生して、未算入に比べ営業利益率は11.8ポイント下がって25.2%となった。新しい決算方式で同社がどのように高い利益率を確保するかに、IT業界の関心は高まっている。
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