変貌する大手メーカーの販売・流通網

<変貌する大手メーカーの販売・流通網>第6回 三菱電機 グループが“総力戦”で市場開拓

2004/04/05 20:42

週刊BCN 2004年04月05日vol.1034掲載

 官公庁や自治体、大企業など大規模システムの構築で力を発揮してきた三菱電機がここ数年、中堅・中小企業向けビジネスを拡大している。2001年4月に分社化して以来、グループ企業やビジネスパートナーと得意ワザを持ち寄る“水平分業”により、システム構築の単価を下げ、上流から下流、システム廃棄に至るまで一貫して請け負うビジネスを強化している。その主軸となるのが「3つのチャネル」と呼ぶパートナー。三菱電機系企業をはじめ、独立系ソフトウェア会社(ISV)などとも連携を深め、“総力戦”で市場を開拓しようとしている。(谷畑良胤●取材/文)

上流から下流まで一貫戦略で

■本社組織を再編、情報通信サービス4社設立

 三菱電機は01年4月から、企業向けIT関連事業を強化するため、本社組織を再編して、当時の「情報システム事業本部」を機能別に順次分社化してきた。名称も同事業本部を「インフォメーションシステム事業推進本部」と改め、現在までに、その傘下として100%出資の情報通信サービス会社4社を設立した。

 新設された情報通信サービス会社は、コンピュータに関するシステム構築を行う三菱電機インフォメーションシステムズ(MDIS)、情報通信と情報処理の両コンサルティングサービスを担う三菱電機情報ネットワーク(MIND)、プロダクトの提供やシステム構築、開発、保守を提供する三菱電機インフォメーションテクノロジー(MDIT)、中堅・中小企業向けシステムインテグレータの三菱電機ビジネスシステム(MB)の4社。

 主にこの4社が企業向けシステム構築の主軸となっている。この4社のうち企業向けオープンプラットフォームで“陣頭指揮”を執る立場にあるMDITが、「3つのチャネル」と呼ばれるパートナーと連係した戦略で拡販するほか、大企業の一部を本社が直販している。

 MDITの村野井剛・プラットフォームソリューション事業本部第二統括部長兼技術部長は、「各子会社とグループ全体の情報システム・ネットワークサービス事業をこの事業推進本部が一体運営する。各子会社は、その傘下で顧客サービスの迅速化を図り、企業向けIT関連事業での競争力を強化した」と、分社化の狙いを説明する。

 「3つのチャネル」とは、社会インフラ事業本部など本社の各事業本部と全国の営業所などを含めた「三菱電機グループ」、キャリア系などの「大手システムインテグレータ」10社、「ビジネスパートナー」と呼ばれ三菱電機の連結子会社を含めた100社以上の販売会社で構成されている。

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■3つの戦略で中堅・中小企業獲得へ

 ビジネスパートナーのうち、連結子会社としては、電機機器の資材販売を担う菱電商事やカナデン、萬世電機など10社のほか、各地の三菱電機機器販売会社などがある。また、一部資本が入っているものの連結対象ではない会社として、ビルの電気設備を販売する“老舗代理店”である弘電社やOA機器販売の千代田コンピュータサービス、メルハンコンピュータシステムなどがある。「ビジネスパートナーには、得意な業種・業態を持ち、独自のアプリケーションを持つベンダーが多い」(村野井第二統括部長)と、グループ全体のノウハウを生かし攻勢をかける体制を整えてきたという。

 三菱電機はこの分社化を契機に、他の大手ITメーカーと同様に中堅・中小企業への販売を強化するため、「システム構築をスピーディにし、企業のITライフサイクルを三菱電機の総合力でワンストップで提供する」(村野井第二統括部長)ため、最近、中堅・中小企業市場を狙う上でキーとなっている「3つの戦略」を展開しているという。

 3つの戦略とは、(1)付加価値の提供、(2)ワンストップ体制、(3)マルチベンダー対応──を指している。この基本となるのが「ITマネジメントサービス」と呼ばれるパソコンや周辺機器、ネットワーク機器などをグループ企業やビジネスパートナー向けにMDITが提供。さらに、グループ全体でシステム構築の計画から設計、調達、工事、インストール据付、展開、監視、保守、運用、リサイクル──までのソリューションを提供し、コスト削減という付加価値やワンストップな対応を効率良く行う。

 ワンストップ対応では昨年4月、パソコンやサーバー、周辺機器などを電話とウェブ上でダイレクトに受発注できるシステムも構築し、システム単価の削減に役立っている。

 3つの戦略のうち、特に最近力を入れているのが3つ目のマルチベンダー対応だ。マルチベンダーを志向する企業ユーザーが増えており、システムの中に三菱電機製以外のコンピュータがある場合は、これらを含めMDITなどが保守を行い「顧客満足を獲得している」(村野井第二統括部長)と、自信を見せる。

 三菱電機の企業向けシステムとしては、自社ブランド製品として、パソコン「アプリコット」や、コモディティ化が進むUNIXサーバー市場を狙うオフコン後継機のソリューションサーバー「エントランス」、BIサーバー「ダイアプリズム」、既存のクライアントサーバーシステム資産を有効活用して堅牢なセキュリティ機能を持つシンクライアント「TX110」など、独自技術による付加価値製品を提供している。

■「販売台数は伸びたが価格競争が激しい」

 三菱電機はかつて、1980年代後半からのオフコン時代には、「RXシリーズ」などで企業や自治体関連のシステム導入で業績を伸ばしていた時期がある。だが、企業のオフコンはリプレースが進展。三菱電機でも「エントランス」を投入して企業ユーザーアプリケーション資産を守ってきた。

 三菱電機の企業向けシステム販売は、「販売台数は伸びたが、低価格競争が激しく伸び悩む」(村野井統括部長)状況だ。こうした状況を打開するため、グループ会社のノウハウを結集して、大手ITメーカーが“主戦場”とする中堅・中小企業の市場に躍り出ようとしている。
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