OVER VIEW
<OVER VIEW>緩やかな成長期に入った2003年米国IT企業決算 Chapter4
2004/03/22 16:18
週刊BCN 2004年03月22日vol.1032掲載
独走体制を固めるデル
■IT不況の直撃を受けなかったデルIT不況を脱しても、米国有力ITベンダーの多くは、好調とはいえない03年決算となっている。このなかにあって、全製品カテゴリーで、ウィンテル製品、Linuxだけによる商品コモディティ化に成功しているデルは、さらに業績を大きく伸ばした(Figure19)。
売上高は前年度比17.1%伸び、営業利益、純利益ともに同24.6%増となった。デル決算で目につくのは常に研究開発費や販管費の増加が売上高と総利益の伸びを下回っていることだ。これがデルの誇示する「ローコスト・ビジネス・モデル」の証だ。売上高17.1%、総利益18.9%の伸びに対しR&Dは2.0%、販管費は16.2%の伸びにとどまっている。デルは競合ベンダーより低く価格を設定するため、製品コストを徹底的に削減するとともに、総利益率もベンダーとしてはきわめて低い17-18%台にしている。
さらにデルは毎決算期、総利益率と経費率を連動させ、常に営業利益率を8%台に維持している。総利益率が低くなれば、R&Dや販管費率もそれと連動して下げるのがデルの特徴だ。00年秋口からの世界的IT不況でもデルはマイクロソフトとともに、不況の直撃を受けなかった(Figure20)。
マイクロソフト、インテルのウィンテル、そしてウィンテル商品が主力のヒューレット・パッカード(HP)、デルの決算推移を見ると、これが明らかになろう。パソコンの世界的不況によってインテル売上高は00年をピークに大きく落ち込んだ。またコンパックコンピュータの買収で混乱を生じたHP売上高も、00年の両社合算売上高から01年、02年は大きく落ち込んでいた。
この両社とは対照的にデルは01年に若干2.3%の売上高減となったが、02年以降は再び大きな伸びを示していた。デルはIT不況で競合他社売上高が減るなか、独りパソコン、インテルサーバー出荷台数を伸ばし続けた。とくにデル躍進でパソコン市場でHPとIBMは世界的に苦戦し続けている。
■世界パソコン市場は2強時代へ突入
90年代後半まで世界パソコン市場では、コンパック、デル、HP、IBMの4強時代が長く続いた。しかし、コンパックコンピュータがHPに買収され、IBMパソコン事業も低迷すると、世界パソコン市場はデル、HPの2強時代となった。両社は僅差でトップシェアを争うが、03年もHPはコンパック買収目的の1つであった世界パソコントップの座をデルから奪うことはできなかった。03年になると、デルとHP2社だけのパソコンシェアが大きく伸びたため、3位IBMシェアは2強に大きく引き離された(Figure21)。
わが国でもデル躍進はめざましく、デルはシェアを前年より2ポイント伸ばし、前年の4位からNEC、富士通に次ぐ3位となった。しかし国内ではデルと国産の2強シェア格差はまだ大きい。デルはハードの激しい価格デフレに対抗するように、全世界の地域、全製品カテゴリーにわたって前年同期比で出荷実績を大きく伸ばしている(Figure22)。
これがデルの「デフレ抗体」である。地域別では北米の伸びが低い。これは北米においてはすでにデルのシェアが2位HPを大きく上回っていることと、同市場ではノンブランドのホワイトボックスがパソコンとインテルサーバーでデルに拮抗するシェアを有しているからだ。
地域別ではわが国を含むアジアでの伸びが大きく、製品カテゴリーではストレージの伸びが際立って高い。これはEMCと提供してストレージ販売にデルが注力しているからだ。カテゴリーのソフトウェア・ペリフェラルには新規参入したプリンタ、薄型テレビなどが含まれるので、今期大きな伸びを期待していると同社ケビン・ロリンズ社長は語っている。
■デルの躍進要因は複合的
デルの売上高の伸びはきわめて高い。このため低迷するわが国NEC、富士通全社の売上高がデルと僅差になってしまった。このようなデル躍進の要因は複雑に絡み合っている。数字の面からは、デルの強さはHPとの各種経営指標の比較から読みとれる(Figure23)。
両社ともパソコン、プリンタなどハード構成比が高く商品構成も類似しているからだ。HPと比べるとデルの販管費率、R&D費率がきわめて低いことがわかる。総利益率ではHPと大きな格差があるデルは、経費率が極端に低いことから、営業利益率では大きく逆転している。R&D費率が極度に低いことも、標準部品だけにこだわるデルモデルの大きな特徴だ。またSCM(サプライチェーンマネジメント)の徹底したデルの少ない在庫も同社の大きな特徴だ。ITサービスはエンタープライズにも注力するHP構成比はデルに比べると高い。
戦略的に見ると、デルの強さは(1)自社業務プロセスとITシステムの一体化、(2)他社と明確な差別化ポイントをもつビジネスモデル、(3)顧客満足度(CS)向上による顧客への浸透度、にあるだろう(Figure24)。
世界最大の量販店ウォルマートから転じデルCIOとなったランディ・モット氏は、「業務プロセスと一体化するようITをカスタマイズすることが企業競争力の源泉」と断言し、これをデルで徹底している。デルのSCMは部品ベンダーはもとより、顧客までも包含することが大きな特徴だ。SCMに顧客を含むことで、デルは自社工場内でCFI(カスタム・ファクトリー・インテグレーション)と呼ぶITインフラサービスのコモディティ化に成功しCS(顧客満足度)を大きく高め、多くの顧客をパソコンやインテルサーバーのベンダーをデル1社へ絞り込ませることに成功している。
CFIでデルは各パソコンの顧客指定ソフトのインストールを行ってから出荷する。デルは顧客のパソコン、インテルサーバーTCO削減に大きな努力を払って、顧客の他社への発注を阻止し、IT不況下でも出荷を大きく伸ばした。こうした独自モデルで成功したデルは、ITだけでなく、今後大きな市場拡大が期待されるデジタルAV(音響・映像)へ、部品を他社から調達して製品を組み立てる水平分散モデルで参入した。同じモデルでHPもAV市場へ参入した。AV市場で垂直統合型の松下電器など日の丸ベンダーとデルの争いが04年から始まる。
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