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<OVER VIEW>緩やかな成長期に入った2003年米国IT企業決算 Chapter3

2004/03/15 16:18

週刊BCN 2004年03月15日vol.1031掲載

 コンパックコンピュータ買収から2年経過した2003年決算でヒューレット・パッカード(HP)は、2年間続いた赤字経営からようやく脱し、営業損益、純損益ともに黒字転換した。しかし、米国のエンタープライズ市場主役の一角であるHPは、IBMと売上高、利益の両面で大きな格差を付けられた。HP商品構成は圧倒的にハードの比率が高く、IBMよりむしろデルに近い。それにもかかわらず経費率などはIBMに近いのがHP経営の実態である。HPにはデルのローコスト、IBMのコンサルティングと一体化したITサービスのような差別化戦略が見えない。(中野英嗣)

IBMとの格差広がりつつあるHP決算

■売上高と利益で、IBMに離されるHP

 HPが01年秋にコンパックコンピュータ買収を発表した席で、同社のカーリー・フィオリーナCEOは、「合併でデルを抜く世界最大のパソコンベンダーが生まれる」と説明した。

photo しかし、合併手続きを完了してから1年半経過した03年も、HPは世界パソコン出荷台数トップの座をデルから奪取することができなかった。米ハイテク調査会社IDCによると、03年世界パソコン出荷台数シェアはデルが16.9%で、HPは僅差ながら2位の16.4%であった。「HPの03年までの決算では、コンパックコンピュータ買収成果がはっきりしない」というのが、ウォールストリートの大方のアナリストの見方だ。

 HP売上高は前年より1%増となり、最終損益も前年の赤字9億4800万ドルから、03年は黒字25億3900万ドルと大幅に改善した(Figure13)。

 現在世界市場を対象とするエンタープライズベンダーはHPとIBMの2社に絞り込まれたが、決算数字を見ると、HPはIBMに大きく引き離されつつある。世界IT投資がピークであった00年、HPと旧コンパックコンピュータの売上高合計はIBMの884億ドルを大きく上回る911億ドルだった。その後IT不況でIBMも減収減益となったが、03年IBM売上高は891億3100万ドルと同社売上高最高記録を更新した。

photo これに対し、03年HP売上高はコンパックコンピュータ合算最高時の00年より19.8%も減少している。IBM、HPの経営指標を比べると、IBM総利益率はHPより10ポイント以上高い。販管費率については、合併後の経費・人員削減でHPがIBMより約5ポイント低くなったが、営業利益率、純利益率ではIBMとは大きな格差がついた(Figure14)。

 HPのフィオリーナCEOは、IBMとの大きな利益率格差はIBMより大幅に低い総利益率に問題があると認識している。このため同CEOは、03年中盤より利益率向上のため社内的には直販重視を命じている。HPは米国に2万、全世界では10万社のチャネルパートナーがあるが、HPチャネル戦略は常に揺れ続けてきており、今後市場の中心がSMB(中堅・中小企業)に移るIT業界では、HPのチャネルコンフリクトを懸念する声は強い。

■プリンタで利益の大半を稼ぐHP

 03年米国におけるプリンタ出荷台数でHPは、セイコーエプソン、キヤノン合計シェア35%を上回る43%のシェアをもつ。イメージング&プリンティング事業はHPの中核で、売上構成は31%であるが、営業利益では全社の74%を稼ぎ出す(Figure15)。

 セグメント情報を見ると、03年HP売上増を支えたのも当事業であることがわかる(Figure16)。

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 HPのパソコン、エンタープライズシステムズ、HPサービスの03年度売上高は前年度比マイナスであったが、イメージング&プリンティングだけが10.6%伸び、全社売上高前年度比をプラスに転じた。またセグメント営業損益でも、イメージング&プリンティングは利益が6.7%増加したが、エンタープライズシステムズは赤字が続き、サービス利益も横ばいにとどまった。パソコンは減収ながら、売上高比0.1%というわずかの黒字となった。このようにHP経営はプリンタへ大きく依存している。このため米国アナリストのなかには、「コンパックコンピュータ買収の成果がいつまでも見えないと、株主からプリンタ事業の切り離しが要求されるかもしれない」という発言も聞かれる。

 エンタープライズで競合するIBMが大きく業績を伸ばすのは、主力であるITサービス、ソフト、エンタープライズシステムズの3事業業績が大きく向上しているからだ。これに対しHP売上高増は1%にとどまったが、損益は前年より35億ドル近く改善された。この改善は総利益の8億6800万ドル増と、リストラ費などが23億6500万ドルも減ったことによる。即ちIBMが市場プレゼンスをより大きくする戦略が功を奏しているのに対し、HP損益改善は直販重視など社内戦略の転換によるところが大きいといえよう。

■ハードに偏重するHPの売上高

photo いち早くIT不況から脱したIBMの売上構成を見ると、グローバルサービスが47.8%、ソフトが16.1%で、この2つのノンハード合計が63.9%となり、ハード合計31.7%の2倍となっている。

 これに対しHPの売上構成は、パソコン28.8%、プリンタ30.7%、エンタープライズシステムズ20.8%で、合計は80.3%となる(Figure17)。

 即ち同じエンタープライズベンダーでもIBMはノンハード依存型であるのに対し、HPは完全にハード依存経営でもある。エンタープライズベンダーでもHPの商品構成は、パソコン、IAサーバーが90%以上を占めるデルに酷似している。

 それにもかかわらず、HPの販管費率、研究開発費率などはデルとは大きく異なり、ずっとIBMに近い。デルはローコストビジネス、IBMはコンサルティングとITサービスの一体化など、それぞれ他社と明確に差別化できる経営戦略があるのに対し、HPには他社と差別化できる戦略がよく見えない。

photo 世界IT市場では、パソコン、サーバー、ストレージなどハード製品の価格デフレはとどまることを知らず、台数が伸びても金額がこれに追いつかない状況が続く。このため、これから世界IT市場の牽引役としては、どこもITサービスを最重視する。特に世界有力ベンダーのIBMがオンデマンド、HPがアダプティブエンタープライズなど、顧客経営と一体化するITシステムを提唱し、ITにおけるコンサルティングを含むサービスはますます重要となる。このITサービスで、世界業界売上高2位のHPは、サービス専業のEDS、売上高でHPの60%程度の富士通にも大きく引き離されている(Figure18)。

 このようにHPにはまず、IBMと競合できるだけの明確な差別化戦略と強力なITサービス力が要求される。HPが現在のようにプリンタなどハード主体であると、ローコストのデルとの競合力もさらに弱くなる。デルはパソコンで成功した独自モデルで、HPの牙城であるプリンタ市場にも揺さぶりをかけているからだ。
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