テイクオフe-Japan戦略II IT実感社会への道標

<テイクオフe-Japan戦略II>32.電子債権の活用(下)

2004/03/15 16:18

週刊BCN 2004年03月15日vol.1031掲載

 信金中央金庫が開発した「電子手形サービス」は、IT社会における資金決済の方向性を示す新しいサービスだ。前回に続き電子手形サービスの仕組みを紹介しよう。電子手形サービスの基本的な仕組みは、支払人A社が「支払情報」(金額、期日、企業名など)をインターネットで信金中金の電子手形センターを経由して受取人B社に送信することで、支払期日に自動的に資金決済を行うというもの(図)。紙の手形に書かれていた「情報」だけをインターネットで受け渡しして資金決済が行われる。(ジャーナリスト 千葉利宏)



中小企業金融円滑化に寄与

 少し横道に逸れるが、日本初の紙幣が発行されたのが今から400年前の1600年ごろ。日本銀行貨幣博物館によると、伊勢山田地方(三重県)で土地の豪商が発行した紙幣が、信用力が高く、広く流通していたようだ。ある意味、貨幣とは紙や金属などの媒体に支払・信用などの「情報」を載せたものと考えることもでき、媒体を流通させることで貨幣経済が成り立ってきた。同様に、同じ紙でも小切手や手形という媒体も作られ、それぞれ媒体ごとに流通させる仕組みが整備されてきたわけだ。

 しかし、電子決済では「情報」だけが流通すれば良く、その「情報」が載っていた媒体が何であるかはほとんど関係がなくなってしまう。「電子手形サービスは、銀行振込やファクタリングの代替としても利用できる」(信金中金総合企画部・田眞氏)というのも理屈は同じ。支払情報の期日を、手形のように1か月後とか3か月後ではなく“即日”に設定して送信すれば、銀行振込と何ら変わらない形で決済が行われる。電子手形サービスとの名称が付いているが、他の債権にも応用できる汎用性の高い仕組みである。

 信金中金では実用化に当って信用金庫の取引企業の利用が見込める手形サービスに焦点を絞り、用語や使い勝手を紙の手形に似せることで違和感なく利用できる仕組みを構築した。使い方も図に示すように、支払情報の受取人B社がこの「情報」をC社に転送すれば、裏書譲渡と同じとなり、譲渡人C社が期日前にこの「情報」を金融機関に転送すれば、手形割引のように早期の資金化も可能となる。さらに500万円の手形を100万円ずつ5枚に分割するといった紙では不可能だった使い方もできるようになった。

 電子手形サービスは、インターネットに接続できるパソコンと電子署名のためのカードリーダがあれば手軽に利用できる。操作方法も判りやすい。手形を振り出す場合は、サービス画面に入って、メニューから「振出」を選び、振出先企業、金額、期日、決済金融機関を入力すると、画面に紙の手形と同じデザインの画像が表示される。電子署名用ICカードをリーダーに挿入して暗証番号を入力すると、画面上の手形に印鑑を押す画像が表示され、従来の紙の手形を振り出す感覚で手続きできる仕掛けだ。利用料金も、電子手形の金額に関係なく、振出、譲渡、分割など1行為あたりの手数料210円、電子署名の年間手数料1万500円、カードリーダ購入費を5250円に設定した。

 電子化のメリットは他にもある。手形の不渡り情報は、不渡りとなった手形交換所だけで提供されていたが、電子手形サービスではセンターに情報が登録され、参加者は誰でも見ることができる。経済産業省の「電子債権の活用のあり方に関する実証事業」では、参加企業の会社情報と財務情報、決済情報を蓄積したデータベースの構築を進め、これらの情報を参照しながら適切な信用供与が行われる仕組みづくりを検討していく。電子債権市場の構築は、貸し渋りなども発生しやすい中小企業金融の円滑化に寄与することが期待されている。
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