コンピュータ流通の光と影 PART VIII

<コンピュータ流通の光と影 PART VIII>最先端IT国家への布石 第68回 東京都(上)

2004/03/15 20:29

週刊BCN 2004年03月15日vol.1031掲載

 人口1200万人を抱える大都市「東京」。東京都庁の職員数は5万2000人を上回る。その大企業並みの人員をカバーできる「電子都庁」構築は、一筋縄の事業では済まない。東京都は2001年3月に、05年度末を見据えた「電子都庁推進計画」をまとめているが、財政上の問題やIT技術革新などを理由に、毎年度改訂を加えている。情報インフラ整備や住民のITリテラシーの問題など、他県に比べればはるかに条件の良さそうな首都・東京だが、電子都庁構築には未だに問題が山積している。(川井直樹)

財政難などで難航する「電子都庁」構築 優先順位明確化やプロジェクト淘汰も

■電子都庁構築に50の施策

 東京都に限らずとも、電子自治体構築に必要なメニューは極めて多岐にわたる。電子申請や届出、それにともなう組織や個人の認証基盤構築など、新規の項目もあれば、公立病院をネットワーク化した医療情報システム、図書館や博物館などをネットワーク化しそれぞれの蔵書や収蔵物のデータベースを公開するシステム、防災関連、環境関連など幅広い。

 庁内業務でも財務会計から庶務事務、文書管理、情報公開など、挙げればキリがないほどだ。完全な電子自治体構築には当たり前のことだが、全ての業務の電子化が求められる。しかし、全国の各自治体では財政問題などから大幅に変更を強いられるケースが相次いでいる。東京都も例外ではない。

 東京都は、電子都庁構築のために必要な基盤システムなどの整備計画で目標を4つに分け、その方向と施策を明確に示している。

 全体での施策数は、「都民や事業者が実感できるサービス向上の実現」で申請・届出の電子化など13項目、「分かりやすく身近な行政の実現と都民参画の拡充」では情報公開用システムの構築など13項目、「業務の抜本的な改革と行政運営の高度化・効率化」では文書事務の電子化を中心に16項目、「都庁の情報基盤整備と既存OAシステムの改善」についてはTAIMS(東京都高度情報化推進システム)の展開など8項目などとなっており、電子都庁を構築するための4つの目標に対して、総計50の施策が関係することになる。

 こうした電子都庁推進計画も都財政の制約やIT技術革新、政策の変更などによって少しずつ変更を余儀なくされている。50項目のうち変更となった施策は16。このうち、都立の動物園や植物園でのインターネットを使った動植物観察の実現や消防活動支援システム構築、医療画像伝送システムの構築など4項目については、「計画期間内での実施見送り」となった。

 その他では、「計画内容の変更」が6項目、組織認証や個人認証のような「国事業による実現」が3項目。わずかに庁外ネットワークの構築だけが、TAIMSの個人端末配備が進んだことで通信回線整備が急務になり、「計画完了時期の前倒し」となった。

 また、会計事務合理化の“目玉”の1つである電子審査については、現在メーンフレームで稼動中の財務会計システムを前提とした開発では、当初の目的を達成できないことが判明し、2006年度に予定する財務会計システム再構築で再度検討することになった。

 現在、都庁の情報システム運用や新規システム導入に関わる年間予算は約60億円という。これらには各局が独自に構築する業務システムも含まれる。もっとも、「財政状況が厳しいなかで、各局の予算にシーリングがかかっており、電子都庁と言えども増やせない環境」(田口裕之・総務局IT推進室電子自治体連携担当課長)というように、予算の制約も厳しい。

 当然、優先順位の明確化やプロジェクトの淘汰も起きてくる。「動物園や植物園のシステムなど、緊急性や政策として実効性に乏しい」(野口真孝・総務局IT推進室業務改革担当)ものは確実に先送りされるわけだ。

■各課でIT化による業務評価を実施

 その一方で、電子化を進めた効果についても厳しくチェックされる。来年度からは、「業務改革の効果をはっきり示すために、IT化の事業ごとに評価・採点し、都庁内部だけでなく都民、議会向けに公表していく」(野口・業務改革担当)と、政策の実効性を明確にする。これにより電子化による業務改善について、名目だけでなく、実際の業務効率アップにつなげていく。

 庁内電子化の基盤である職員へのパソコン配備は、01年度に約9500台、02年度に約1万1000台、03年度に2300台を導入。これにより、本庁では職員1人1台体制を実現した。TAIMS端末となるパソコン配備が本格化した02年度からは、各課に1人のITリーダーを置き、全庁で約1200人に上るこれらITリーダーを中心に定期的にIT研修会を実施し、内部事務管理の改革も進めてきた。

 こうした教育・啓蒙を行ったことで、03年度には文書管理システムも電子決裁と併せて導入している。もともとTAIMSには「ノーツ」によるグループウェアがあり、「文書管理の導入にも、グループウェアの経験から違和感はなかったはず」(野口・業務改革担当)と、スムーズに導入が進んだという。

 東京都は、基幹ネットワークにNTT東日本の通信回線サービス「スーパーワイドLAN」を導入している。東京・西新宿の第1・2庁舎をはじめとして、出先機関などはほとんどがこのネットワークで接続されている。

 問題は、島しょ部の出先機関とのネットワーク接続。もちろんADSLなどブロードバンドネットワークを活用できるところならば問題はない。だが、東京港から1000キロメートル離れた小笠原諸島では、ブロードバンド接続は不可能だ。

 「都庁の業務的には、小笠原と本庁の間でのトラフィックはそれほど大きくないが、端末が1人1台体制になったことで、本庁間以外へのトラフィックが増えることも考えられる」(野口・業務改革担当)。このため04年度に、島しょ部に対しては、シトリックス・システムズの「メタフレーム」を活用したサーバーベーストコンピューティングを導入することにしている。

 日本の首都であっても、東京都が群を抜いて先進的なITを取り入れているわけではない。都内の区部・市ではさらに先進的な取組みを進めているところもある。

 東京都庁の場合、その職員数や業務の多さといった“巨大さ”ゆえにコストも莫大に膨れ上がる、という弊害がある。そのため、他の自治体にみられるように、電子申請については、区市町村との共同運営方式を採用し、来年度から本格的に運用を開始する計画だ。
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