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<OVER VIEW>緩やかな成長期に入った2003年米国IT企業決算 Chapter2

2004/03/08 16:18

週刊BCN 2004年03月08日vol.1030掲載

 長い間の世界的IT不況からIBMはいち早く脱出し、2003年売上高は前年比10%増の891億ドルでIBM売上高記録を更新した。とくにITサービス、大型サーバー、ミドルウェアなど同社中核ビジネス伸長が大きく、IBMは世界エンタープライズ市場でのプレゼンスを強固にしている。当市場で競合する米HP、サン・マイクロシステムズ、そしてわが国の富士通以下のエンタープライズプレーヤーの低迷が続くと、IBMの独り勝ちとなってエンタープライズユーザーは、再びIBMの囲い込みを警戒しなければならなくなる。(中野英嗣)

IBM売上高10%増、利益は前年2倍の好決算

■ノンハード利益構成比は76%でハードの5倍に

photo 米国エンタープライズ市場の有力プレーヤーであるHPの03年決算は売上高がわずか1%増、サンは売上高低迷が続き赤字から脱却できていない。即ちIBMはエンタープライズ市場で垂直統合経営による総合力を発揮して、独り勝ち体制を固めつつあるといえよう(Figure7)。

 同社のサム・パルミザーノCEOは自社決算について次のように語る。

 「IBMは堅実な歩みで自社売上高記録を更新した。とくにサービス、大型サーバー、ウェブスフィアなど中核ミドルウェアの3本柱が揃って大きく伸びたことが心強い。わが社のオンデマンド戦略の具現化の成果を顧客が高く評価し始め、IBMビジネス伸長を力強く後押ししている。当戦略はこれから世界IT市場の牽引力になることも明確になった」

photo 03年の売上高、税引前利益に占めるITサービスとソフトのノンハード構成比はきわめて大きくなり、93年に就任した前CEOルイス・ガースナー戦略が10年を経た現在のIBMを支えていることがわかる(Figure8)。

 売上高構成比でサービスは47.9%、ソフトは16.1%でノンハード合計比は64%に達し、システムズ(サーバー、ストレージ)、パーソナルシステムズ(パソコンなど)、テクノロジーのハード合計比31.7%の2倍以上となった。さらに税引前利益ではハード合計比15.4%の5倍に達する。

 IBMハードではシステムズが利益構成比18.8%と健闘するが、パソコン、OEM(相手先ブランドによる生産)などテクノロジーが赤字でハード構成比を下げる要因となっている。ノンハード、ハード以外にIBMでは、ファイナンスなどの利益も8.5%と大きく無視できない。

 IBMオンデマンド戦略の主力である、データ処理量増減に合わせて稼動プロセッサ数を増減する「キャパシティオンデマンド」サーバーや、ユーティリティコンピューティングの顧客料金は従量課金となるので、IBMの強いファイナンス力がオンデマンド戦略を財務面から支えることになるといえるだろう。

■売上高、サービス17%増、システムズ11%増、ソフト9%増

photo IBMの商品力セグメント情報を分析すると、サービス、大型サーバー、ソフトという3つのIBM主力ビジネスが大きく伸びていることがわかる(Figure9)。

 グローバルサービスはPwCコンサルティングの買収によってビジネスコンサルティングや戦略的ビジネスプロセスアウトソーシングがIBMグローバルサービスの柱となり、サービス全体売上高伸長は17.3%となった。

 PwCコンサルティング買収時、同社パルミザーノCEOは、「IBMの主力ビジネスをコンサルティングとIT構築・運用とのワンストップショッピング化に求めている」と説明した。

 03年決算はパルミザーノCEOの狙いが大きな成果を生み出しつつあることの証ともなる。さらにUNIX、大型Linuxサーバーとなった新メインフレームなど大型サーバーが好調であったシステムズ売上高も前年比10.7%増となった。

 一方パソコンは3.1%増となったが、価格デフレで赤字に陥っている。OEMなどテクノロジーもハードディスクドライブ(HDD)事業の日立への売却以来、売上高が低迷し、パソコン、テクノロジーがIBMのアキレス腱となっている。

photo またIBMグローバルサービスはIBM売上高の柱となるだけでなく、世界のITサービス市場でのIBMプレゼンスを高める役割も担っている。ガートナー発表の世界ITサービス市場に占めるIBMのシェアは01年の6.5%から、03年には7.7%までに高まった(Figure10)。

 パルミザーノCEOは、「IBMサービスの世界シェアを早期に10%まで高めたい」と発言しているが、それも数年内に実現する勢いだ。

 IBMサービスビジネスの活性化によって、売上高伸長だけでなく、長期にわたる売上高源資となるアウトソーシングを含めたIBMサービス受注残も年々大きくなり、03年末にはIBMサービス売上高の3倍近い1200億ドル(13兆2000億円)となっている。

■サービスが売上伸長を支え、ソフトが利益基盤へ

photo IBMでは売上高構成で64%となったノンハードのうち、サービスが売上高伸長を支え、ソフトが巨額の利益を稼ぎ出すビジネス構造がはっきりしてきた。IBM前CEO、ガースナー氏就任1年前の92年、IBMサービスの売上高は150億ドルで、構成比も23%にすぎなかった(Figure11)。

 ガースナー前CEOは就任すると、IBM戦略をそれまでのハード偏重からサービスへと舵の切り直しを決断した。その後、IBMサービスは順調に伸びて、03年には92年の3倍近くとなった。

 同期間のIBM売上高伸長は、ハードの落ち込みなどでわずか33%にとどまっている。従って、サービスがIBM売上高を支えていることがはっきりする。

 一方、IBMソフトはミドルウェアやメインフレーム、UNIXサーバーのOSが主体で、ミドルウェアが全体の80%を占める(IBMソフト部門、スティーブ・ミルズ上級副社長)。

photo IBMソフト売上構成比は03年でも16%と大きくはない。しかし、IBMミドルウェアやOSは商品ライフが長いことが特徴で、年々総利益率が高くなっている。03年のIBMソフト総利益率86.5%はマイクロソフトの79.2%(03年12月)を大きく凌駕している(Figure12)。

 さらにIBMソフトの税引前利益率も20%台を維持しており、03年には26.6%となり、IBM全利益の34.9%を占めるまでになった。

 こうしてノンハードのうちサービスが売上高を、そしてソフトが利益を支える車の両輪の役割を果たしていることが、IBMビジネスの強さの要因といえるだろう。IBMは04年1月から世界的にミドルウェアソフトの業種別開発体制を採用し、自社オンデマンド戦略を支える重要な部門に位置づけており、当戦略の進展によってソフトはますます重みを増すと考えられている。
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