テイクオフe-Japan戦略II IT実感社会への道標
<テイクオフe-Japan戦略II>31.電子債権の活用(上)
2004/03/08 16:18
週刊BCN 2004年03月08日vol.1030掲載
「電子手形サービス」開始
電子債権市場の構築は、昨年7月のe-Japan戦略IIで掲げられた重点7分野「中小企業金融」の主要課題だ。先月、IT戦略本部が策定したe-Japan戦略II加速化パッケージでも「電子的手段による債権譲渡の推進を検討し、2004年中に結論を得る」と明記され、既存制度の見直しも含めた基盤整備が推進されることになった。この電子債権市場の基盤となるサービスが、信金中央金庫が開発した「電子手形サービス」である。昨年12月から静岡県の信用金庫でサービスを開始しており、今後全国約300の信用金庫へと拡大していく計画だ。この仕組みに都銀、地銀などの全ての金融機関が参加すれば、信金の取引企業だけでなく、全ての企業間での決済が可能になり、電子債権市場が構築されていくというシナリオである。
電子手形サービスの仕掛け人が、信金中金総合企画部の田眞氏。「印紙や事務経費などを考えると手形のコストは思った以上に高い。電子化すれば、印紙はいらなくなるし、事務も大幅に効率化できる」というのが発想の原点だった。手形の印紙代は額面によって異なるが、200万円の手形で600円。手形の流通額は年々少なくなってきているとはいえ年間705兆円もあり、その印紙代はバカにならない額だ。しかも、最近では手形交換所の数も減ってきて、電子手形サービスが始まった静岡県では、浜松市の信金が手形を持ち込むのに静岡市にある手形交換所まで新幹線を利用していたという。
もちろん手形を電子化するアイデアは大手都銀などでも考えられていたが、なかなか実現していなかった。電子手形を最初に振り出したA社、受け取ったB社、それを譲渡されたC社へと流通させていくには、A社、B社、C社の取引金融機関すべてが電子手形サービスに対応している必要があり、大手都銀でも単独ではメリットを出すのが難しいからだ。しかし、信用金庫であれば約300信金のネットワークがある。信金中金を核とした信金業界であればサービス実現は可能と判断した。
「電子手形は、いわゆる手形法に基づく手形ではありませんから…」。田氏から開発経緯を取材していて、まず驚いたのがこの点だ。紙の手形には、もちろんそれを規定している法律があり、手形法に基づいた手形を電子化しようと考えるのが通常の発想だろう。ITにはBPR(ビジネスプロセスリエンジニアリング)を促進させる効果があると言われるが、役所はもちろん民間でも紙時代のやり方をそのまま電子に置き換えるケースが圧倒的。「電子手形を実現するために既存の法律を改正していたのでは時間がかかりすぎる」との問題意識もあり、インターネット上で“手形”に類似した債権を取引するのに最も効率的なビジネスモデルを構築。あとから法律との整合性を考慮しながら手直しするやり方で、短期間に画期的な電子手形サービスが実現できたと言えるだろう。
電子決済は、個人と企業との間では実現しているが、企業間の電子決済を実現したのは電子手形サービスが初めてだ。電子手形サービスとはどのようなサービスか。次回、その仕組みや可能性について紹介することにするが、疑似体験サイト(http://www.e-saiken.net)にアクセスすることをお勧めする。
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