米国流通最前線を行く
<米国流通最前線を行く>第5回 PCリチャード・アンド・ソン 地域密着の店舗展開
2004/03/08 20:42
週刊BCN 2004年03月08日vol.1030掲載
出店はニューヨークエリアに限定
■地域に根ざした商品構成PCリチャードは、ニューヨーク市近郊に展開する中規模の家電チェーンである。創業は1909年。初代創業者であるピーター・クリスティン・リチャードはオランダからの移民である。
1940年代のテレビの急速な普及とともに順調に業績を伸ばして来た。現在の店舗数は42。いずれもニューヨーク市近郊に位置する。各店舗はショールーム型で、米国の大手チェーンに多い倉庫型店舗ではない。
同社の株式は非公開で、経営の実権は同社の創業者一族が保有している。現在の社長は創業者から数えて4代目。93年に上場を検討したが、市場の反応が期待できないと判断され延期。そのまま現在に至っている。
同社の強みであり弱点でもあるのは、ニューヨーク市近郊という、比較的狭い地域にのみ店舗を展開している点だ。従って、多くのライバル社よりも地域に根ざした商品展開が可能であり、また商品構成や価格の変更なども迅速にかつ容易に実行できる。
また、ニューヨークエリアは高額所得者が多く集まっており、商品の嗜好に関してもやや特殊なエリアであることから、このエリアに特化することは、マーケティング上有利であると言える。
同社は現在、ニューヨーク中心部から40kmほどの場所にある65万平方フィートに及ぶ敷地に、本社と自社流通センターを配備している。このため、各店舗への配送は迅速であり、不足する在庫の充当や返品、修理などの発送も短時間で済み、そのコストも低く維持できる。
また、広告宣伝費やマーケティングコストなども、エリアを狭く限定できるために効率良く行うことができる。ローカルチェーンとしては異例なほど大規模なテレビコマーシャルを活用することなどが可能となっている。
地元志向ということもあり、販売前後のサービスには熱心だ。同社の広報によれば、ゲーリー・リチャード社長のコメントとして、「当社が85年もの間業務を継続できたのは、顧客に信頼されてきたからであり、サービス面での経営努力が顧客の満足を勝ち得た要因と考える」という。
例えば、90日後の支払い開始システムや、40日の商品保証、家庭向けのデリバリーなどを独自に設定し、地元客の関心を高めている。
■コスト競争力が課題
一方、その地域性が足を引っ張っている面もある。その1つは全米でも特に地価が高いニューヨークに店舗を構えることにより、地価の問題から大型店を持つことが難しい点だ。その結果、倉庫型店舗をあきらめざるを得なくなっている。
また、商圏の狭さと高コストを余儀なくされる立地条件から低価格の維持が難しく、競争力を維持するために全米に販売網を持つ大手家電量販店に比べ、ブランド力の劣る商品を仕入れざるを得ないことなどもマイナス要因である。
ニューヨーク州は全米で最も消費税が高いエリアの1つであり、同額の商品を購入する場合、それが高価であればあるほど競争力を失う。特に事実上免税となるオンラインショップとの比較では、価格面での優位性は全くない。
取扱商品や客層などから、現在の最大のライバルはサーキット・シティである。以前は、家電量販店の「WIZ(ウィズ)」が直接のライバルと見なされていたが、ここは03年夏に業務を停止。ニューヨーク市近郊に点在していたウィズの26店舗は全て閉鎖された。その商標や顧客リストはPCリチャードに譲渡され、今ではeコマースサイトとしてその名を留めている(http://www.thewiz.com/)。
もちろん自社名でのオンラインショップもあり、いずれのブランドネームもニューヨーク都市圏では広く知れ渡っている。シアーズなどの一般消費財の大手チェーンとは一部で競合すると思われていたが、客層の違いや、ニューヨーク都心部中心に展開するPCリチャードと郊外の超大型店舗が中心のシアーズなどとは明確な棲み分けができており、お互いがシェアを食い合うことにはならずに済んでいる。
■知名度が大きな武器に
現在ではニューヨーク都市圏においては、サーキット・シティを駆逐するのは時間の問題ではないかと見られており、少なくとも自身の商圏をライバル達に大きく明け渡すことは当分はなさそうである。
店舗展開を狭いエリアに集中することは、販売戦略をそのエリアに特化することができるため、商品構成で独自路線をいくことが可能だ。この点は同社の優位点の1つである。しかし、実際の店舗を見る限り、展示の中心はDVDプレーヤーや液晶テレビ、各種のゲーム機器などであり、ライバル各社と大きな差はない。商品構成の独自路線では、まだ具体的な現状打開の解決策は見い出せていないようである。
しかし、いずれの家電量販チェーンもこの傾向は同じ。従って、長年ローカル色を生かした経営を続けてきたことと、そのエリアでの知名度、さらには地元客が望む商品構成をその長い経験から実現していることから、急速な成長は見込めないものの、一気に急落という可能性も少ないとの見方が一般的だ。
【会社概要】 |
■ 企業名:PCリチャード・アンド・ソン (P.C. Richard & Son) |
■ 社長:ゲーリー・H・リチャード(Gary J.Richard) |
■ 企業形態:株式非公開 |
■ 決算月:1月 |
■ 2003年度売上高:9億9330万ドル |
■ 過去1年間の売上げ伸び率:7.4% |
■ 従業員数(2003年度):2200人 |
■ 過去1年間の従業員数の伸び率:3.1% |
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