コンピュータ流通の光と影 PART VIII

<コンピュータ流通の光と影 PART VIII>最先端IT国家への布石 第67回 神奈川県(下)

2004/03/08 20:29

週刊BCN 2004年03月08日vol.1030掲載

 横浜、川崎、横須賀の神奈川県内主要3市は、市民本位の電子自治体づくりに向けて具体的な取り組みを始めている。横浜市は全国自治体の中では2番目の導入となるコールセンターを開設。川崎市は、県内自治体に先駆けて電子申請システムを一部立ち上げた。横須賀市は、有効で柔軟な情報システムにおける共同利用の在り方を模索している。(安藤章司)

横浜市など主要3市、電子化着々と進む 市民の満足度向上を目指して

■横浜市、住民サービスのコールセンター開設へ

 横浜市は、電子申請・届出システムを2004年度後半から一部稼働させる予定だ。その他の図書貸出予約や電子申告、電子入札の各システムについては05年度以降、順次稼働させる。いずれも、システム開発の山場は03年度-04年度となり、横浜市では、これら電子市役所推進関連の予算として03年度に約2億4700万円を予算化。04年度は約8億3100万円を予算案に盛り込んでいる。

 横浜市の電子申請・届出への着手は早く、03年度にシステム開発を始めた。04年度後半には、年間利用件数の多い手続きや、電子化に対する要望の多い手続きなどのなかから50件程度を選定して先行的に電子化する。その後、05年度末までの計画期間中に、住民票の写しの交付請求などを含めた859件の手続きについて電子申請・届出を可能にする。

 これにより、横浜市の申請・届出の年間件数約1800万件のうち、約1050万件(約6割)が電子化できる見込みだ。

 また、横浜市では、05年2月からの本格実施に向けて、コールセンターの「市政問合せセンター」の拡充を急ぐ。まずはモデル事業として04年3月15日から港南区、旭区、青葉区の住民を対象に試験的に始める。03年度は同事業に2900万円を計上、04年度は7900万円の予算を予定している。

 市役所の代表番号にかけて担当部門に転送するこれまでの方式では、担当者が不在だったり、問い合わせによって業務が中断したりしていた。だが、コールセンターを開設することで、引っ越しの手続きや土曜日の住民票の取得場所など一般的な質問に対して、コールセンターで答えられるようになる。

 横浜市の寺村行生・総務局IT活用推進部電子市役所推進担当課長は、「自治体でコールセンターを開設するのは、札幌市に次いで横浜市が2番目」と、市民と行政とのコミュニケーションを重視した自治体づくりを目指す。

■電子申請や電子入札などが稼働

 川崎市は03年4月から2年間の予定で「電子申請実証実験システム」をスタートさせた。サービス名称は「ネット窓口かわさき」。実証実験期間中は、「粗大ごみの収集申込」、「水道の使用開始届・休止届」、「公文書の開示請求」、「住居表示に関する建築物の新築届出」、「屋外広告物除却届、新設・変更・改造の完了届」、「講座・イベント・各種申込」の6種類の申請・届出を電子化した。

 川崎市が重視しているのは、電子申請・届出と基幹系システムとの連携、およびリアルタイム処理である。

 「粗大ごみの収集申込」では、ウェブで申し込むと同時に、リアルタイムで収集日と値段が表示される。川崎市の大阿久克己・総務局情報管理部システム企画課長は、「電子申請・届出は、市民の利便性と満足度が高まってこそ、投資する価値がある。単なる電子化だけでは市民の満足度を高めるのは難しい」と、基幹系システムや業務手順そのものの見直しが必要だと指摘する。

 つまり、申請・届出が電子化して24時間受け付けられるようになっても、実際の業務が従来通りの対応のまま変わらなければ、市民にとって、逆に業務の速度が遅いと感じるようになるケースも出てくる。先の粗大ごみのケースでは、電子的に申請することで収集に来るまでの時間をこれまでよりも短縮できれば、電子化した利点をより明確にできるわけだ。

 現在使っている基幹業務用のメインフレームについても、将来的にはリアルタイム処理に適したオープン系に切り替える方針。「システム連携基盤の構築事業」として、UNIX系のサーバーを使ったピーク時の負荷試験などをすでに02年度から実施しており、将来のシステム連携の基盤づくりに着手している。

 横須賀市は、01年度に電子自治体パイロット事業を始め、いち早く電子入札システムを稼働させた。02年度には、山口県下関市が横須賀方式の電子入札システムの共同利用の第1号となり、04年度までには三重県松阪市、福井県福井市、長崎県佐世保市と長崎市、栃木県宇都宮市の計6市が横須賀方式の電子入札システムの共同利用に加わる見込み。

 全国3000あまりの市町村のなかで、規模や方針が似ている自治体と共同利用することで、投資対効果を高めるのが狙い。横須賀市の秋本丈仁・企画調整部情報政策課総括主幹は、「横須賀の仕組みを他の市町村に共同利用してもらうばかりではなく、たとえば、横浜市が始めているコールセンターの仕組みが良いならば、貸してもらうこともあり得る」と、柔軟に共同利用を捉える。

 秋本主幹は、「横須賀市は電子自治体への取り組みが進んでいるとされているが、市民の実感はまだそこまで進んでいない。今後はITで利便性が高まったと実感してもらえる施策を打ち出す」と、電子自治体に向けた基盤整備がほぼ終了した横須賀市では、次のステップに向けた研究を進めている。


◆地場システム販社の自治体戦略

都築電気神奈川支店

■支店売上高の7割が公共関連

 都築電気(都築東吾社長)神奈川支店は、売上高の約7割を自治体・医療機関など公共分野が占める。全国8支店のなかでも、突出して公共分野の売り上げが大きい。10年前のバブル経済崩壊のあおりで、民需の売り上げが下がったときに、それまで手つかずだった公共分野の開拓に力を入れ始めたのが、公共比率が高まるきっかけだった。

 また、富士通のビジネスパートナーとして、富士通の営業担当者との連携などによって得られた案件を通じて、結果的に公共比率が高まったという背景もある。

 自治体向けには、自社開発した「高額医療費支給管理システム」や、富士通エフ・アイ・ピーが開発した「住民税申告支援システム」、医療機関向けには、電子カルテシステムの販売が比較的好調だという。

 神奈川支店の磯部浩次長は、「自治体や医療機関の電子化は、国の方針で進めていることもあり、ここ2-3年で大いに伸びる可能性がある」と、ビジネスチャンスを最大限に生かしていく方針を示す。


ティー・エム・シー

■パソコン教室が定着

 ティー・エム・シー(TMC、千葉直樹社長)は、市民の情報化に役立つパソコン教室を手がけている。今から約10年前に、横須賀市から3か月契約の委託で始めたパソコン教室は、規模を拡大しながら現在も続いている。市内4つの教室を10人のスタッフで運営し、月間延べ200人が受講している。横須賀市内ではパソコン教室=TMCとの認識も定着しつつあるという。

 1988年に起業した当初は、ソフト開発会社として事業を進めてきたが、「横須賀市民の1人として、横須賀市のIT投資をより有効なものにして欲しい」(富田理恵子専務取締役)という考えから、横須賀市へパソコン教室の企画書を持参したのが、そもそもの始まりだった。

 パソコン教室の売上高は全体の約3割を占めるまで拡大したが、ここ数年は本業のソフト開発にも力を入れ始めている。これまで受託・出向開発が大半を占めていたが、独自に開発した営業支援システムなどを、今年2月、県内の工業技術見本市に初めて出展した。今後は、こうしたオリジナル商材の拡販を通じて収益力を高める方針。
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