OVER VIEW

<OVER VIEW>緩やかな成長期に入った2003年米国IT企業決算 Chapter1

2004/03/01 16:18

週刊BCN 2004年03月01日vol.1029掲載

 2000年からのIT不況に終止符が打たれた03年、米国の多くの有力IT企業業績は回復に転じた。米国GDP(国内総生産)の伸びも大きくなるにつれ、企業利益も伸び、IT投資も増加に転じたからだ。しかし90年代のような急成長は望めず、緩やかな低成長時代となった。この市場を背景にウィンテル陣営の勝ち組だけは再び売上高を大きく伸ばし始めた。しかし、エンタープライズ市場全体の明暗を分ける主体となるIBM売上高は大きく伸びたが、サンは低迷を続ける。ヒューレット・パッカード(HP)はわずかの成長にとどまった。(中野英嗣)

低成長のIT市場へ

■明るい兆しを見せ始めた米国経済

photo 米国IT有力企業は、00年秋口からの長引いたIT不況から市場が緩やかな成長軌道に戻るとともに、その年間決算にも明るい兆しを見せ始めた。

 今回のIT不況は、世界的経済低迷と、ITバブルの弾け、そして01年秋の9.11テロなど多くの要因が絡み合ったものだった。米有力IT企業は、全世界を市場にするものの、米国への依存度は依然として高い。従って米国の深刻なIT不況に多くのIT企業は苦しみ続けた。

 特に米国企業は90年代後半からのITバブルに踊って、新興のドットコム企業だけでなく、多くのオールドエコノミーも過剰なIT投資を行い、これが経済不況と重なって過大なIT設備の調整に長い期間を要した。これらの調整も終わってようやく、03年中盤から米国IT市場にも明るさが戻ってきた。米国商務省などによると、米国の実質GDPの前年比成長率は01年がほぼ横ばいであり、02-03年は2%台の成長であったが、04年には4%台の成長に戻る(Figure1)。

photo 過剰IT設備の調整が終わり、さらに経済も活発になれば、従来は10%に近い高いIT投資の伸びが期待できた。しかし、このIT不況期に米国企業は、ITコストの削減に注力し、さらにIT-ROI(投資対効果)も厳しく追求するようになって、無駄なITコストは徹底的に削りとられた。

 ITの価格デフレはパソコン、サーバーなどハードウェアだけでなく、ソフト製品価格、さらにITサービスの価格にも影響し始めた。従ってパソコンなどは出荷台数が伸びても市場規模は縮小し続け、これもIT市場回復の阻害要因となっている。さらに米国ではITの開発、ITサービスもインドなどへ発注するオフショアが活発になって、企業のIT投資を削減するベクトルとして働くようになった。

 いずれにしても、景気回復とともに米国企業の最終利益も緩やかに伸び始めた(Figure2)。

 顧客の利益増大は、緩やかであってもIT投資意欲を刺激する。

■先行指標の半導体市場が再び2ケタの成長へ

photo 世界的にIT市場状況の先行指標となるのは、半導体市場動向だ。現在の半導体市場は従来からのIT製品だけでなく、デジタルAV(音響・映像)や携帯端末などの需要にも大きく依存する。

 しかし、やはり世界的に半導体市場の動きは、パソコンの出荷台数との相関は高い。世界半導体市場は00年をピークにして大きく落ち込んでいた(Figure3)。

 01年、02年はピーク時比30%以上の落ち込みであったが、03年後半より回復軌道に戻り、04年には前年比20%以上の成長も期待されている。しかし、仮に期待通りの高い成長が実現しても、半導体市場はやっとピーク時に戻る状態だ。

 これからの半導体はAV、携帯機器への依存をより一層高めるので、半導体の伸びがIT製品の成長指標にはならないようになるかもしれない。米フォレスターリサーチは広義の米国IT投資額を発表した(Figure4)。

photo この対象は企業や、官庁などで、さらにユーザー通信費やテレコム企業の設備投資なども含み、これは広義の米国IT市場規模と考えることができる。

 当投資ピーク00年には8050億ドル(85兆円)だったが、01年から大きく落ち込んで03年まで、ピーク比11%減の市場規模となっていた。この投資もやっと04年にはプラスに転じる。

 しかし、その成長率は90年代後半の10%近くには遠く及ばず、3-4%台にとどまる。これが低成長時代のIT市場である。

 米国では民間の大きなIT投資削減を補うため、米国中央、地方の官庁はe-Japan計画を見習って、IT投資を大幅に増やしたという経緯もある。

 いずれにせよ、フォレスターの数字は01年から03年にかけての長かったIT不況に回復の兆しが出てきたことを示す。

■全ベンダーが急回復とはならないIT市場へ

 米ビジネスウィーク誌なども成熟期と表現する現在のIT業界では、市場回復期にあっても、その恩恵は全ベンダーに及ぶものではない。

photo 例えばパソコンを主体とするマイクロソフト、インテル、デルなどの勝ち組は、売上高を大きく伸ばしている(Figure5)。

 マイクロソフトはパソコン、サーバーのソフトだけからエンターテインメントのXbox、企業基幹業務アプリケーションのCRM(顧客情報管理)へも手を延ばし、さらにOSやマイクロソフト・オフィスのライセンス契約方式の変更も行ってIT不況期も高い成長を維持してきた。

 しかしインテルは世界的パソコンの落ち込みによって、01-02年はピーク比20%以上の売上減を続け、03年には大きく回復したものの、ピーク時の売上高には及ばない。

 一方、パソコン、インテルサーバーで独り勝ちをしてきたデルは、IT不況にも大きな打撃を受けることなく04年1月期には再び急成長となった。

photo しかし、デルの伸びは他社とのカニバリズム(共食い)に勝つことによるもので、デルの伸びはHP、IBM、ゲートウェイなどのパソコン売上高の伸び低迷に大きな影響を与えている。

 一方、エンタープライズ製品主力のベンダー決算売上高に目を転じると、そこでは強弱が明確に現れている(Figure6)。

 IBMは01年、02年とIT不況で低迷したが、03年には前年比10%近く伸び、同社史上最高の売上高となった。IBMと対照的なのはUNIXサーバーの雄サンで、同社は01年に売上高ピークを迎えているが、その後の低迷から脱却できておらず、03年もピーク比37%減の売上高だ。業績がIBMとサンの中間にあたるのが、コンパックコンピュータを買収したHPである。合併前のHP、コンパックコンピュータの合計売上高は911億ドルで、当時のIBM を上回っていた。しかし、合併発表の01年以降、業績は大きく落ち込み続け、03年もわずか前年比1%増にとどまった。この結果、HPとエンタープライズ市場で強いIBM売上高の格差は20%近く開き、エンタープライズ市場でのIBMプレゼンスはさらに大きくなった。
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