OVER VIEW
<OVER VIEW>変革へのターニングポイント迎えた、世界ハイテク産業 Chapter4
2004/02/23 16:18
週刊BCN 2004年02月23日vol.1028掲載
起きるか、米国と日欧の主役交代
■2004年以降、ベンダーの大型M&Aが加速2000年秋口からの世界的IT不況は回復の途上にあるが、「IT業界はもはや90年代までの急激な市場成長は期待できない」というのが米国業界首脳の一致した見方だ。04年2月にシスコシステムズは好業績を発表した。その席上、同社のジョン・チェンバースCEOは、「顧客経営者は新たなIT投資に慎重だ」と発言して、ニューヨーク株式市場に「シスコショック」を起こしたことも記憶に新しい。回復プロセスにある市場動向で、米国IT市場で04年以降注目されるのは、新しい基盤技術が主導する新しいIT製品ではない(Figure19)。
デジタルコンバージェンスは新しい業界構造の変革であり、ユーティリティコンピューティング、オートノミックコンピューティング、ビジネスプロセスインテグレーションなどはいずれも、ユーザーの利用環境改善を狙う技術やサービスだ。さらに顧客の一品仕様に対応するホワイトボックスなどカスタムシステムへの需要増も、ユーザー要求の変化を裏付ける。米国ほどではないものの、国内パソコン市場でも04年にはホワイトボックス出荷が年間100万台を超えると報告されている(マルチメディア総研)。
一方、多くの米国業界関係者が発言するのが、IT業界における大型M&A(合併・買収)の動きだ。米国では01年秋のHPのコンパック買収発表以来、特にソリューションプロバイダ(SP)同士のM&Aが極めて活発になった。顧客はIT構築を任せるSPの経営的安定を求める。従って米国SPでは広域にわたるサービス展開、経営規模拡大や損益分岐点を下げるため中堅SP間のM&Aが盛んになり、ベンチャーキャピタルも資金面で支援している(Figure20)。
わが国ハイテクでは事業統合が目立つが、米国ではIBMのPwCコンサルティング買収やピープルソフトのJ.D.エドワーズ買収のように、丸ごとの企業買収が多い。さらに04年以降も、有力ベンダーやサービス事業者のM&Aの噂は絶えない。大型M&Aの相手企業としては、サン・マイクロシステムズが長引く赤字経営から常に噂の中心にある。モルガン・スタンレーのアナリスト、レベッカ・ランクル氏は、「低成長のIT市場で市場寡占化を狙うには、大型企業の買収しかない」と断言する。
しかし、超大型のHPのコンパックコンピュータ買収も、その成果には疑問符がついたままで、この効果の行方は米国業界の注目するところでもある。一方、IBMのPwCコンサルティング買収は翌年からIBMに大きな成果をもたらした。従って米国業界では両方の買収ケーススタディが盛んだ。
■日本のミクロ経済回復をデジタル家電が牽引
世界的に有力な家電ベンダーが顔を揃える日本では、デジタルコンバージェンス潮流によって、デジタル家電出荷の急増がミクロ経済回復の牽引車の役割を担っている(Figure21)。
日本の家電業界は高い技術開発力を誇り、いずれも巨額の研究開発投資をしている。これによって、好調な家電は国内半導体業界を活性化し、国内半導体消費も米国を初めて抜いて世界のトップになったようだ。家電やITベンダーの研究開発投資は国内の有力システムLSIベンダーを潤している。国内のハイテク産業は国自体が「垂直統合」の型であるため、最終商品の主要基幹部品もほとんどが国内で開発・生産され、デジタル家電市場の活性化は、影響の及ぶ範囲が極めて広い。
しかし、このデジタル家電市場に、パソコンの水平分散型経営モデルで成功したデル、HPなど有力米国ITベンダーが参入した。デル、HPなどは間違いなくパソコンと同じように、主要部品を他の専業部品ベンダーから調達して、薄型デジタルテレビなどを組み立てる。ここに初めて、世界の家電業界にもITと同じように、垂直統合型と水平分業型ベンダーの競争が起きる。
さらにインテルなども家電部品への参入を表明し、この市場に「ムーアの法則」を持ち込むという。これはデジタル家電にもパソコンのような短い商品ライフサイクル化をもたらす。これまで家電商品ライフは3年程度であったが、これがパソコン並みの3か月となれば、国内家電ベンダーに大きな影響を与えることになる(Figure22)。
さらにデジタル時代には家電にも、家庭を対象とした大きなサービス市場が開拓される。このサービス市場の健全な育成も、家電業界にとって、極めて大きな課題となる。
■米国ハイテク危機に、パルミザーノレポート
デジタル家電がITに代わって、その基盤技術が市場拡大を牽引することが明らかになって、米国ではハイテク業界に危機感が漂う(Figure23)。米国の有力AV(音響・映像)ベンダーは既にすべて市場から退場し、米国AV市場では日本をはじめ、韓国、欧州勢がほとんどのシェアを握っているからだ。
さらにこれからのAV、携帯機器、ホームネットワークなどのデ・ファクト・スタンダードの発信も米国の役割ではなくなり、日欧ベンダーが主役になる。さらにハイテク危機感に追い打ちをかけるのが、米国IT業界のサービスにオフショア(海外発注・調達)の強い波が押し寄せていることだ。
IDCは米国オフショア開発投資は04年以降、年率40%以上の伸びを見せると予測する(Figure24 A)。
さらにインテルのアンドリュー・グローブ会長は2010年にソフト開発、ITサービスの要員数が米国とインドで逆転すると説明する(Figure24 B)。
ITサービスのオフショア化は産業のグローバル化で生産拠点の途上国移管に次ぐ大きな動きだ。80年代米国は日の丸半導体ベンダー躍進で危機感をつのらせ、当時HP社長のジョン・ヤング氏による「ヤングレポート」を基盤に復権を目指したという経緯がある。当時ヤング氏は米大統領産業競争力委員会の会長を務めていた。この流れを汲むのがIBMサム・パルミザーノCEOが民間代表委員長となった米競争力評議会で、当会議で米国産業強化の提言「パルミザーノレポート」を起案している。ヤングレポートを必要とした80年当時と同じような危機感をもつのが米国ハイテク業界の現状だ。デジタルコンバージェンスという世界ハイテクの新しい時代に、米国と日欧の間に主役交代が起きるのか。世界産業界が大きな関心を寄せている。
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