コンピュータ流通の光と影 PART VIII

<コンピュータ流通の光と影 PART VIII>最先端IT国家への布石 第65回 千葉県(下)

2004/02/23 20:29

週刊BCN 2004年02月23日vol.1028掲載

 千葉県浦安市は、GIS(地理情報システム)を庁内すべての課が活用できるように統合型システムを構築し、そのデータベースを市民向けにも双方向型ウェブGISサービスとして提供している。IT化は、庁内の業務効率化だけでなく市民の利便性向上にもつながるため、積極的に取り組むというのが浦安市のコンセプトだ。 一方、船橋市は庁内の基幹系システムをアウトソーシングする方針。庁内のシステム基盤を固め、地域情報化に向けた取り組みを一層充実させる。船橋市は、千葉県の主要な市のなかでIT化への取り組みで若干出遅れたが、デジタルデバイド解消も加味しながら、市民が必要とする行政サービスを提供していくという基本的な姿勢を崩さない。(佐相彰彦)

市民が必要な行政サービスを提供 財政難にIT化で対応

■統合型GISを市民向けサービスに

 統合型GISの導入を積極的に進めている浦安市は、「e-まっぷ」と呼ばれるデジタル地図の共用空間データベースを双方向型のウェブGISとして2002年度に構築し、03年10月から市民向けに行政の情報配信サービスである「e-まっぷ・掲示板」を提供開始した。

 「e-まっぷ・掲示板」は、行政が発信する情報を地図を通してタイムリーに分かりやすく提供するというサービス。公園や図書館、運動場など公共施設の検索や、都市計画法指定状況などの情報を地図を通じて収集できる。醍醐恵二・経営企画部情報政策課電子自治体推進室副主査は、「1日平均で100件のアクセス数がある」と、行政サービスとしてはまずまずの立ち上がりだ。

 情報共有化へ向けた取り組みが本格化したのは、「浦安市行政改革大綱」を策定した96年。醍醐副主査は、「情報システム整備計画を策定するための調査を行ったところ、GISを導入したいという課が多かった」と、統合型GISを構築した背景を語る。97年にGIS検討委員会を設置し、部門間でデータを相互にやり取りできる統合型GISを構築するプランが持ち上がった。

 98年には、当時の自治省(現・総務省)の「異なるシステム間におけるデータ相互流通の実証実験」の対象として浦安市が選ばれ、統合型GISを導入。この実験結果を踏まえ、00年に浦安市情報政策課の主導によって、「共用空間データベース(e-まっぷ)」を整備した。各課で個別に稼働していた既存のGISを情報政策課が必要なデータとして1つにまとめて作成。現段階では、この共用空間データベースを全庁で活用している状況だ。

 市民向けサービスとして地図情報を提供していくのにあたり、01年に電子地図を中学校が活用する実験を行った。浦安市立入船中学校の生徒たちが町づくり学習の一環として違法駐輪状況調査を実施。 また、同堀江中学校では、「バリアフリーマップを作成し、「この場所は段差があって車いすが渡れない」や「急な傾斜になっているため危険」などの注意点を写真付きで表示できるようにした。醍醐副主査は、「このような実験で、市民向けサービスとして提供できるという自信がついた。中学生達が身の回りの社会問題を意識してくれたという点で効果的な実験だったのではないか」と振り返る。こうした実験も踏まえ、「役所内の事務効率化に使われるだけではなく、市民と行政とが情報交流するためのツールとして活用していくことが最適」(醍醐副主査)と判断した。

 e-まっぷ・システムの基本方針は、(1)行政内部の情報基盤だけでなく、市民や事業所、学校などの地域を含めた情報基盤であること、(2)地図の配信が目的でなく、空間データを用いたサービスや空間データ活用機会の提供が目的、(3)行政の高度化を進めて市民に貢献するだけでなく、市民の直接利用により便益を享受すること──などという。そのため、今後も「e-まっぷ・システム」のサービスを充実させる予定だ。

 03年度中には、地図付きメールの送受信サービス「e-まっぷ・メール」を開始する。同サービスにより、市民が市長に対し、中学校での実験のように社会問題に対して地図付きで要望や意見を問い合わせることが可能となる。

 また、04年度中をめどに、利用者が意見交換を行える「e-まっぷ・ひろば」を立ち上げ、サイト上で交わされる市民の意見や情報を踏まえ、最適な各種施策案の策定につなげる。将来的には、市民がGIS機能で独自の地図を作成することが可能な「my-まっぷ」のサービスを開始し、「事業者が作成した地図を自社ホームページで活用するなどで利益につなげることに貢献したい」意向だ。

 ITを活用した情報化について、醍醐副主査は、「あくまで目的を遂行するためのツールとして活用することが重要だ」と言い切っており、「統合型GISを導入したことにより、全庁内の情報交換が図れるようになったこともメリット」と強調する。

■基幹系のアウトソーシングを検討

 船橋市では、財務会計など基幹系システムをアウトソーシングする方向で検討を進めている。04年度末まで調査・検証を進め、05年度中に実施する予定だ。千葉県の中で主要な市の1つであるにも関わらず、自ら「IT化に関しては遅れているのが現状」(今井進・企画部電子行政推進課課長補佐)と判断し、アウトソーシングで一気に遅れを挽回する。しかも、「財政難に対応してコスト削減につなげていく」方針だ。

 03年度におけるIT化の予算は約10億円弱。相川健一・企画部電子行政推進課副主幹は、「経済環境が先行き不透明な点から、年を追うごとに予算を10-20%程度削られた」と、シーリングによりIT化が進まなかったという。

 電子行政推進課の職員は約30人。「基幹システムの運用・保守という業務を委託すれば、30人という人員は必要なくなる」(今井課長補佐)と、人件費削減という点からもアウトソーシングに踏み切る背景を語る。

 「もともとは、電子自治体を推進するために保守・運用を行う部門と電子市役所に向けた取り組みを企画する部門が結集した組織。定年退職が出ることを考慮した上で、さらに新規採用の抑制により適正な人数になる」と試算する。具体的な人数やコスト削減効果については、「今後詰める」(今井課長補佐)予定だ。

 船橋市は、77年からの大型汎用機の導入による電算化で、現段階でも電算業務の自前処理を行っている。しかも、「システムは船橋市で独自のものを構築している」という。アウトソーシングの発注の際は、「使い勝手の良さを重視したシステムにしたい」(今井課長補佐)意向だ。

 周辺の市町村との連携については、市川市や市原市、浦安市、松戸市、木更津市、君津市の6市とIT化に向けた協議会を昨年2月からスタートさせている。6市で取り組む具体的な内容は、1年を経た現在でもまだ決まっていないものの、システムの共同利用など県の取り組みに合わせて6市連携の内容を詰めていく。

 千葉県では、電子申請・届出システムの共同利用に向けた取り組みを行っており、これに関しては、船橋市でも「準備会に参加した」(相川副主幹)と、共同利用によるコスト削減効果を期待する。

 市民向けサービスは、図書館内にある書物の検索や予約などが可能なシステムを提供。「行政サービスは、市民のニーズに合ったものから取り入れる」(相川副主幹)としており、04年度中に施設予約システムの導入を計画する。住民基本台帳カードを活用した公的個人認証サービスは、「市民が求めているサービスなのかを検証し、06年をめどに開始する」(相川副主幹)としている。

 地域情報化について、「市民が本当に必要なサービスを提供しなければならない」と今井課長補佐は強調する。市役所がJR船橋駅から徒歩で約10分の場所にあることや駐車場が充実していることから、「不便を感じさせないように、インターネットを活用した行政サービスを提供したとしても、従来通り市役所に直接来る市民も多いだろう」(今井課長補佐)とみている。

 船橋市は今年2月1日時点で人口が56万5651人、23万485世帯になっており、「古くから居住している世帯が多い」(同)と、高齢者の増加によるデジタルデバイドも頭の痛い問題だ。「いつでも、どこでも、誰でも、簡単で便利に使えるサービス」の実現に向けた行政サービスをどう構築していくかに頭を悩ませているという。
  • 1