コンピュータ流通の光と影 PART VIII
<コンピュータ流通の光と影 PART VIII>最先端IT国家への布石 第64回 千葉県(上)
2004/02/16 20:29
週刊BCN 2004年02月16日vol.1027掲載
庁内システムの外販に乗り出す 「総務ステーション」設置で23億円の経費削減
■「しょむ2」導入で業務を効率化千葉県は、2001年度までに1人1台パソコンと庁内ネットワークを整備を完了した。次いで02年12月には、24時間稼動を可能とした「庶務共通事務処理システム(しょむ2)」を導入し、時間外勤務や特殊勤務などの申請・決済・集計・支払の事務手続きについて、職員の業務効率化およびペーパーレス化を図ってきた。そして来年度から同システムのこれらの機能をパッケージ化し、全国の自治体を対象に販売していく方針だ。販売促進用にCD-ROMを配布するほか、システム運用における助言や支援も実施。共同開発した富士電機システムズが製品のインストールや設定、カスタマイズ、維持管理なども行う。
渡邉和男・千葉県総務部情報政策課副課長は、「国や県、市町村とも、人事給与制度やその運用については同じ公務員で基本的に共通の仕組み。ほかの自治体が内部事務のIT化で遅れているのであれば、すでに開発・運用している千葉県のシステムを活用したほうがコスト面や安心感の点で、個々に開発するよりもはるかに効率的だと判断した。実際に見学したいという、他の自治体からの要望も多い」と、ほかの自治体が千葉県のシステムを導入するメリットを語る。
企業内でシステムの構築が進んでいるのに対し、多くの自治体で、事務処理が煩雑であるにも関わらず、財政難でシステム化ができないなどの理由で、いまだに手作業で行っているのも事実。千葉県が実際に活用しているノウハウや利便性を基に導入を呼びかけるのもうなずける。
パッケージ化する機能は、時間外勤務や特殊勤務、宿日直勤務、週休日の振り替えを含む休暇申請、配属先・氏名・住所の変更といった職員の基本情報、勤務予定表、勤務実績表、予算管理など。04年度中には、旅行命令および旅費請求、住居手当、通勤手当、扶養手当も追加する予定で、これら機能についてもパッケージ化する予定だ。
千葉県がIT化を進めているのは、02年度に歳入欠陥を生じ、「赤字自治体」に転落するなど財政難に悩んでいることも理由の1つ。抜本的な事務プロセスを改善し、経費削減を図るために2億円を投じて、「しょむ2」を開発、導入したのもそのためだ。同システムへの視察や照会が全国の自治体から相次いだため、「財政悪化の打破に貢献する」(渡邉副課長)ための県収入アップと2億円の投資を少しでも軽減するためにも、パッケージ販売に乗り出すわけだ。
渡邉副課長は、「県民サービスに直結しない人事給与などの内部事務については、コストをできる限り圧縮し、適正かつ統一的に執行していく必要がある。県民に利便性の高いサービスを提供することが最終的な目的」と強調する。
04年4月から、事務処理データの一元化や共有化を図るために各課所属の庶務担当職員が行っている人事給与や福利厚生の内部事務を集中的に処理する組織として、「総務ワークステーション」を千葉市美浜区のワールドビジネスガーデン内に設置する。設置当初は、千葉県庁各課、県立病院を除く出先機関、議会、選挙管理委員会、監査委員会、人事委員会、地方労働委員会、海区漁業調整委員会、収用委員会の庶務担当職員を集約。05年度以降は、04年度の運用実績を踏まえ対象機関や対象業務を拡大する予定になっている。総務ワークステーションの設置により、05年度までに県職員約250人の削減、23億円の経費削減を狙う。
県と市町村が電子自治体を円滑に推進していくため、電子申請および届け出オンラインシステムを共同運営する組織の設置に向け、「千葉県電子自治体共同運営協議会準備会」を03年8月28日に設置した。04年度上期中には、共同運営の組織を設置する意向。高田泰光・千葉県総務部情報政策課地域IT推進室副主幹は、「市町村のなかには、合併問題を解決することが先決で、なかなかIT化の取り組みができない状況にある。しかし、電子自治体のサービスを県民が幅広く受けられる環境を作ることが先決。早急にシステム開発に着手したい」としている。
■市川市は「電子市役所」を開設
江戸川を挟んで東京都に接する市川市は、市役所の最寄り駅であるJR総武線・本八幡駅前に、最新のブロードバンド技術を備えたビル「いちかわ情報プラザ」を03年5月に建設し、同ビル内に電子行政サービスのモデル窓口「電子市役所」を開設した。井堀幹夫・市川市情報システム部長は、「ITを活用してワンストップで行政サービスを提供できることが重要。それを実現したのが電子市役所」と県内でも先進的な取り組みに胸をはる。
地下1階から地上6階建ての同ビルは、ビルの管理・運営を行うNPO(民間非営利団体)と市川市の情報システム部をはじめ、ITベンダーやベンチャー企業、SOHO事業者などが入居している。一般利用者向けのミーティング・ルームやインターネットカフェも設けており、産・官・民のオフィス兼コミュニティスペースとして、地域ビジネスの拠点として注目を集める新しいタイプの公共施設だ。
「電子市役所」では、行政情報を核にした地域データベースを構築し、それをパソコン端末利用型のテレビ電話会議システムと連動させることで、本格的な電子窓口を実現している。これにより、利用者はパソコンの前で市の各種情報にアクセスしたり、必要に応じて市の担当職員とコミュニケーションができる。行政が、データベースとテレビ電話を連携させ、なおかつ窓口を作ったというのは、全国でも例がない試みだ。
利用できるサービスは、住民票や印鑑証明など各種証明書の「オンライン交付申請」のほか、市役所や病院などの専門担当員への「オンライン相談」(市政・教育・民事・IT・病院案内の5分野)、公民館やテニスコートの「施設予約」、地域ポータル機能の「市川市電子窓口サービス」など。証明書については、同じフロアに発行窓口があり、その場で受け取ることもできる。
同市は、電子市役所に先駆けて、行政サービスとして「市川市360+5情報サポート」を00年4月から提供している。同サービスは、施設予約、ボランティア、福祉、生活環境、こども、市政の窓という6種類のカテゴリーに分類した市の情報サービスをコンビニエンスストアに設置した端末やパソコンから利用できる。井堀部長は、「24時間365日、ノンストップで行政情報サービスが受けられる」と自信を見せる。
利用可能な端末は、03年2月の段階で東京都や千葉県、埼玉県などに点在する約600店舗のローソン。今後は、セブンイレブンでもサービスを提供する予定で、「収集した情報をプリントアウトできるサービスも追加する」ことを検討している。
行政にとってコンビニ店舗でのサービス実施には狙いがある。売れない商品があっと言う間に棚から消えてしまうように、だれも利用しないような情報であればすぐにでもコンビニがそっぽを向く。当初、利用者からは「使いにくい、欲しい情報がない」などの声もあったが、職員が街に出て午後9時過ぎまで利用者に聞き取りを行うなどして改善。最近では、「便利、という声が多い」というところまできた。
そんななか、市川市の施設予約システムを東京都江戸川区がASPで導入した。江戸川区では今年2月20日からサービスを開始する。井堀部長は、「市川市が実際に活用しているという信頼性から江戸川区でも導入を決めたのではないか」とみている。「本当に必要な情報を提供するために、市民に利用してもらっているという視点が大切。これが行政の意識改革にもつながる」と行政サービスを充実させるために、独自に情報化を進めていくという。
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