コンピュータ流通の光と影 PART VIII

<コンピュータ流通の光と影 PART VIII>最先端IT国家への布石 第63回 埼玉県(下)

2004/02/09 20:29

週刊BCN 2004年02月09日vol.1026掲載

 市町村合併によって生じる情報システムの統合が各自治体の課題となっている。埼玉県も例外ではない。特に、2001年に3市が合併し県内最大の人口となったさいたま市のシステム統合には、今も課題が残る。今後、岩槻市との合併も控えているだけに、県内唯一の100万人都市が抱えるシステムの統合問題はさらに大きな懸念材料になるのは必至だ。全市町村が共同で利用予定の電子申請システムなどの稼動にも「影響が出るのでは」という不安がある。一方、共同利用については電子申請などとは別に、一部の市町村が協力し施設予約システムを共同利用する動きが見られる。また、宮代町では人口が少ないにも関わらず、電子自治体の構築に早くから着手し、住民サービスの向上やコスト削減に結びつけるなど、自治体独自の意欲的な姿勢も目立つ。(谷畑良胤、木村剛士)

市町村合併によるシステム統合に課題 一部の市町村は電子自治体構築にいち早く着手

■合併の課題を残すさいたま市のシステム

 2001年に浦和、大宮、与野の3市が合併して誕生した県内最大の人口を誇るさいたま市は、情報システムの統合で多くの課題を残した。合併協議が議会主導で進み合併自体が紛糾した影響で、システム統合の明確な方針がなかなか打ち出せず、「半年という短期間でシステムのデータ統合を余儀なくされた」(さいたま市関係者)という。

 この結果、税関連は旧浦和市のホストコンピュータ(日立製作所製)が、住民記録関連は旧大宮市のホストコンピュータ(富士通製)がそれぞれ担当。“分裂システム”が誕生してしまった。

 03年に政令指定都市となった後も、ホスト間のデータ連携ができていない。県と全市町村が共同利用する予定の電子申請および電子入札システムでも問題が生じる可能性がある。さいたま市は、富士通製の基幹システムを持つ岩槻市と04年中に合併する予定だが、「システム統合による全体最適化への見通しは不透明だ」(システムインテグレータ関係者)という見方が一般的。

 埼玉県は、県内全市町村のインフラ整備に関して、総務省の「共同アウトソーシング・電子自治体推進戦略」と一線を画し、市町村の自主性を尊重。情報通信網も民間の通信事業者による整備を推奨している。それでも、LGWAN(総合行政ネットワーク)の普及は昨年末で90市町村すべてに整備され、全国トップクラスの進捗状況だ。

 各市町村もネットワーク化には積極的だ。30万人以上の人口をかかえる越谷市は、市内の出先機関や学校など合計114施設を今年3月にNTTのブロードバンドサービスを利用し100Mbpsでつないだ。あさひ銀総合システムが受注したが、この回線を使用して議会の動画配信を予定するなど、コンテンツの充実・強化がこれからの課題になっていく。

 電子入札と電子申請システムに関しては、県主導のもと、希望する各市町村と共同利用する方針を打ち出し、結局は県内全市町村が共同利用に参加することを決めた。このほか、共同利用については、一部の自治体で電子申請と電子入札以外のシステムでも、市町村レベルで共同利用しようという取り組みがある。

 越谷市は、吉川市、草加市、三郷市、八潮市、松伏町の近隣の5市1町と共同で「施設予約案内システム」を共同利用する計画で、今年8月からの稼動に向けて準備を進めている最中だ。システム構築は松下電器産業が受注し、NTT東日本のデータセンターを利用する。川上かよ・越谷市企画部事務管理課副主幹情報推進担当は、「システムの共同利用はコスト削減に大きく寄与する」と、住民の利便性向上だけでなく、自治体にとってコストメリットが大きいと強調する。

 このほか、越谷市ではコスト削減に向け、これまでのメインフレームからクライアント/サーバー型システムへの変更を検討している。県内の大規模都市が合併問題を抱えているなか、合併の予定がないとあって、「自分達のペースで進めていける」(川上副主幹)という。

■宮代町は独自の戦略でIT化進める

 県南部の宮代町は、人口約3万5000人と埼玉県内では比較的小さな町だが、電子自治体構築に早くから取り組んできた。97年にグループウェアを稼動させ、00年には役場の職員1人1台パソコン環境を整備。01年には総務省の「地域イントラネット整備事業」の補助金1100万円で町内の出先機関などの公共施設間のネットワークを整備した。来年度には統合型GIS(地理情報システム)をテスト稼動させる予定。その取り組みの早さは全国でもトップクラスだ。

 町役場のIT化により、職員の超過勤務時間が激減し、コスト削減に大きく寄与している。99年には約4万5000時間あった超過勤務時間が02年には約2万8000時間に減少。栗原聡・宮代町総合政策課主幹情報政策担当は、「政府のe-Japan戦略の動きを追うのではなく、ITの必要性から独自に戦略を立てていたため、バタバタすることなく進めることができている」と自信を示す。住民サービス向上のためにも、各課が連携をとりタイムリーなホームページ作りに注力してきたという。1日の更新回数は2回を徹底している。

 埼玉県内の自治体と企業のIT化では、“情報化の南北問題”も1つの課題点に挙がっている。県南地域は、東京圏に近く「早くから民間の光ファイバー網が引かれ、IT化が迅速に行われた」(関本建二・埼玉県総務部IT企画室IT企画担当主幹)ため、県北地域との格差が生じた。

 そこで、埼玉県は、群馬県に近い本庄市に情報通信と映像の研究開発拠点都市を整備する。都市内にはインキュベーション施設として、貸し実験室や貸し工場などを整備。大学を中心とする教育・研究施設、IT企業の誘致を図る。すでに早稲田大学の情報系の独立大学院が入居し、今年中に「創業支援施設」が開設する予定だ。

 昨年4月には、県南部の川口市に映像産業拠点施設「SKIP(スキップ)シティ」がオープンしているため、「県内にITの核が2つできる。ITの産官学連携による地域産業の振興に貢献するはず」(関本主幹)と、“情報化の南北問題”の解消に期待を持っている。


◆地場システム販社の自治体戦略

あさひ銀総合システム

■自治体向けIDC事業で活路を

 りそなグループのIT関連会社として、埼玉県と東京都を中心にビジネスを手がけるあさひ銀総合システム(AGS)は、「公共部門をビジネスのコアとして育成する」(吉野曠男・公共事業本部常務執行役員本部長)方針を打ち出している。昨年1月に自治体の業務システムをアウトソーシングする受け皿として、インターネットデータセンター(IDC)の「さいたまIDC」を設立した。

 このIDCを活用した自治体向けビジネスでは、自治体のフロントサーバーなどを預かる「ハウジング事業」を中心にした運用管理サービスなどを手がける計画。

 すでに、埼玉県内の1市1村のLGWAN(総合行政ネットワーク)のほか、県と市町村で共同利用する予定の電子申請システムのサーバー補完・運用を受注している。

 埼玉県内の市町村合併では、人口30万人以上の大都市の基幹系システムに、町村のシステムを統合する動きがある。このため、町村の基幹系を多く導入してきたAGSは、「合併で基幹系ビジネスは少なくなる」(吉野常務執行役員)と判断し、IDCを構築して保守・運用をアウトソーシングする戦略に出たという。

 このため、埼玉県内で約半数の自治体を押さえる富士通やその関連子会社と共同で、市町村合併案件の受注を狙う方針だ。「IDC事業の売上高は、立ち上げから1年間で約1億円に達した。今後3年間で5億円に成長させたい」(吉野常務執行役員)と、攻めの営業を展開する。
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