テイクオフe-Japan戦略II IT実感社会への道標

<テイクオフe-Japan戦略II>26.公的個人認証

2004/02/02 16:18

週刊BCN 2004年02月02日vol.1025掲載

 行政手続きオンライン化の基盤となる公的個人認証サービスが1月29日からスタートした。国民と行政機関の間でネットワーク上での本人確認が可能な仕組みが動き出したことで、国税庁の電子申告や外務省の旅券申請などの各種オンラインサービスも相次いでスタート。1月19日から始まった電子納付と合わせて電子政府・自治体はこれから本番を迎える。(ジャーナリスト 千葉利宏)

電子政府の幕開け

 社会生活において署名・捺印をする場面は多い。確定申告など行政への申請・届け出書類はもちろん、民間でも各種申込書や請求書・領収書、郵便や宅配便の受け取りなど、本人確認のための署名・捺印は幅広く使われている。これをネット上で行えるようにするのが電子認証サービスだが、すでに提供が始まっている民間の電子認証サービスの利用料金は、用途によっても異なるが、電子政府・自治体に対応した日本認証サービスのもので2万4000円(有効期間3年)。億円単位の案件を扱う公共工事の電子入札など企業が利用するには問題はないが、個人が行政手続などを中心に利用するにはかなり高い。

 公的個人認証サービスの料金は有効期間3年で500円(今年3月末までは無料)。行政手続のオンラインサービスを国民誰もが手軽に安く利用できるようにするために住民基本台帳ネットワークシステム(住基ネット)を基盤に構築された。ただし、公的個人認証サービスが利用できるのは、原則として行政機関が関わる公的なサービスだけ。民間サービスに直接利用できるようにすると、料金などの面で民間の電子認証サービスは太刀打ちできず、民業圧迫になってしまうからだ。

 そこで民間の電子認証サービス会社が公的個人認証サービスを利用できる仕組みが用意された。電子認証サービスでは、本人確認を行った上で電子証明書を発行、その後も有効期間の間、紛失や本人死亡など何らかの理由で無効となった電子証明書の“失効リスト”を作成して、電子証明書を受け取った側からの問い合わせに有効かどうかを回答する必要がある。

 この失効リストを絶えず管理・更新するのが大変でコストもかかる。公的個人認証サービスの場合、加入者の住民票情報に何らかの変更があると住基ネットから“異動情報”が提供され、失効リストが毎日更新される。この失効リストを民間の電子認証サービス会社も利用できれば、民間電子認証サービスの利用者が公的個人認証サービスにも加入していることが前提ではあるが、失効リストのコスト削減につながり、利用料金の低下も期待できる。

 さらに公的個人認証サービスを活用した新しいアプリケーションの開発も進んでいる。「地域通貨の流通に公的個人認証を組み込んだ実証実験を04年度に実施したい」(牧慎太郎・総務省自治行政局情報政策企画官)。昨年11月に麻生太郎総務大臣が打ち出した「地域再生支援プラン」の1つを具体化。公的個人認証を使うことで安心して地域通貨をネット上でやり取りできる仕組みをつくり、地域経済の活性化策として期待される地域通貨の普及をめざそうというわけだ。

 公的個人認証サービスのスタートは、電子政府・自治体の幕開けであるとともに、これまでIDとパスワードに大きく依存してきたネットワーク社会のインフラが、セキュリティの高い電子認証サービスへと移行していく転換点でもあるだろう。今後は医療などのプライバシー情報のやり取りも増えることが予想されるだけに、民間を含めて電子認証サービスの利用を促進していく必要がありそうだ。

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