コンピュータ流通の光と影 PART VIII
<コンピュータ流通の光と影 PART VIII>最先端IT国家への布石 第62回 埼玉県(上)
2004/02/02 20:29
週刊BCN 2004年02月02日vol.1025掲載
ITを活用した政策評価システム構築へ 2004年度前半でほぼ運用段階に
■ITを活用した県庁の“経営改革”「IT革命」を提唱して、森喜郎首相(当時)が政府の「情報通信技術(IT)戦略本部」を立ち上げたのは2000年7月。全国知事会会長だった埼玉県の土屋義彦・前知事はこれを受け、「埼玉県が自治体のIT化で範を示す」と大号令。そのわずか3か月後にIT活用の基本方針「埼玉県情報技術活用総合対策」を策定した。
当時、知事の秘書を務めていた関本建二・総務部IT企画室IT企画担当主幹は、「国と地方が一緒に動く、先鞭を切る素早い動きだった」と述懐する。しかもその翌年10月には、02-04年度3年間の具体的な実施計画として「IT推進アクションプラン」ができたこともあり、「04年度前半で、電子県庁の主要な施策が運用段階に入る」(関本主幹)と、進捗度の早さを印象づける。
しかし、その土屋前知事が長女の汚職事件に関連して辞職した。03年9月には、改革派の上田清司知事が誕生する。だが、「IT戦略は土屋前知事の施策を継承する」(関本主幹)と当初計画は継続され、その一方で上田知事が選挙中のマニフェスト(政権公約)で打ち出した「政策評価制度の改善」に基づいて、ITを活用した県庁の“経営改革”に着手した。
県では今年に入り、情報政策や財政担当らによる「電子県庁情報高度利用研究会」が組織され、現行の日立製作所製のメインフレーム(大型汎用機)をダウンサイジングする方策についても検討を進めるなど、「経営計画のツール」としてシステムの全体最適化が検討段階にある。
電子県庁の主要施策のうち、電子申請は押印や本人認証を必要としない簡易な行政サービスを昨年4月から一部で運用開始した。今年1月の「公的個人認証法」施行を受け、7月には自治事務関係など電子申請の対象が広がり、ほぼフル稼働することになっている。それに向けて、現在は電子申請の対象となる手続きの掘り起こし作業の真っ最中だ。
また、県庁内の文書管理システムは、電子決裁を除き昨年6月にスタートしていたが、起案文書のシステム管理や稟議書を決裁して保存するシステムなどを加えて今年4月に全面稼動する。特徴的なのは、このシステムと「情報公開支援システム」をリンクさせたこと。「個人のプライバシーに関する公文書以外、情報公開請求が不要な公文書は、県のウェブ上で自由に閲覧できるようにした」(関本主幹)という。
■全庁の財務管理を「総務事務センター」に集約
電子県庁のシステム再構築で特に大なたが振るわれたのは、20年間以上も旧来の財務パッケージを活用してきた「財務会計・旅費システム」。分掌の変更と人員削減を含め、大幅に刷新される見込み。富士総合研究所に委託して庁内のBPR(業務プロセス再構築)を進め、総務事務の「集中と分散」を実施した。今年4月からは、出先機関を含め、旅費や予算執行など全庁の財務管理を新設の「総務事務センター」に集約する。
各部門に配置していた庶務担当員は廃止され、その業務を事業部門別の出納員が行う。このため、日立製作所の統合運用管理ソリューション「JP1」を改良してシステムを構築。出納手順のナビゲートがつき、出納員が簡単に入力できるようにした。旅費などは、原則として職員個人が入力処理する。これにより、140人の職員削減につながり、行政職員の削減を公約とした上田知事のマニフェストを一部実現する。
関本主幹は、「財務会計は、民間のノウハウを存分に生かす。県の予算書は単式簿記と複式簿記の両面で記載し、行政機関としてのバランスシートを作成する」という。国の地方交付税措置がいつまで続くか不透明な状況下で、財務データをデータウェアハウス(DWH)に構築して、民間企業と同様に、次の“経営戦略”を練る「サブ・システム」を05年度以降の次期アクションプランに盛り込もうとしている。
県庁の基幹システムでは、06年度1年間で中央省庁が検討する業務・システム最適化計画「エンタープライズ・アーキテクチャ(EA)」に基づく共通基盤の青写真を作成。メインフレームに代わる基幹システムの構築を急ぐ。
電子県庁に関しては、国のIT戦略を具現化すべく、拡充を図ってきたが、こと県内の情報インフラ整備では、総務省の「共同アウトソーシング・電子自治体推進戦略」と方針を異にする。例えば、他県では高速・大容量の情報通信網を整備する動きが盛んだが、「光ファイバー網など情報インフラは、民間の通信事業者による整備が進み、格安のADSLも普及している」として、県主導によるIDC(インターネット・データセンター)の設置やネットワークは築かず、市町村も民間回線を使う。ただ、電子入札と電子申請に関しては、県と市町村で共同利用を行う。
一方で、ITによる産業・地域振興策として、県主導の拠点作りが積極的に進められている。昨年4月には、川口市に映像産業拠点施設「SKIP(スキップ)シティ」がオープンした。施設内にはIDC事業を展開するクロスウェイブコミュニケーションズ(CWC)が入居している。
埼玉県でも電子自治体を推進する上で、障壁となっているのが、市町村合併だ。1月末までに2か所の合併協議会が決裂した。「政令指定都市となったさいたま市の対等合併で生じた懲りが、影響しているのでは」(関本主幹)と、3市の情報システム統合では課題を残しただけに、心配そうに状況を見守る。
◆地場システム販社の自治体戦略 |
ティー・アイ・シー(TiC)
■合併案件のシステム構築分野狙う自治体向けアプリケーション開発で、県内でトップレベルにある富士通系ディーラーのティー・アイ・シー(TiC)は、埼玉県内を中心とした北関東などで実績を積み上げてきた。
2001年に資本提携した富士通システムソリューションズ(Fsol)の業務ソリューション「WebSERVE(ウェブサーブ)」に組み込まれた「公文書管理システム構築サービス」は、TiC開発のアプリケーションを基に機能強化された製品だ。
最近の市町村合併案件では、Fsolや内田洋行などと連動して受注活動を展開。そのなかで、TiCはシステム構築分野を担う。「当社がエリアとする北関東地区は、もともとは富士通ユーザーが多く、合併案件は逃したくない」と、荻野仁社長は意気込む。
TiCが開発した自治体向けアプリケーションは、住民記録や学齢、水道検針など13種類のシステムに及ぶ。「自治体向け事業で蓄積したノウハウが、当社の独自製品として誕生した」(荻野社長)と強調する。
これらの製品は、6割近くが北関東エリアに納入されているが、富士通のチャネルなどを通じ全国からも引き合いが来る。
埼玉県については政令指定都市に移行したさいたま市の情報システム統合に参加した。
「旧浦和と旧大宮の両市に導入されていたシステムは、業者が違い混乱した。結局、良いアプリケーションを選別して組み合わせた」(荻野社長)と、この案件が他の市町村合併に悪影響を及ぼさないか懸念している。
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