OVER VIEW
<OVER VIEW>オンデマンドで世界市場席巻に挑むIBM Chapter4
2004/01/26 16:18
週刊BCN 2004年01月26日vol.1024掲載
世界IT市場への影響力強まるパルミザーノCEO
■自社をオンデマンドのプロトタイプにIBMは市場動向に敏捷に対応して変化できるオンデマンドビジネス戦略の狙いが2つあることを明言している。1つはIBM顧客に自社ビジネスをオンデマンド型へ転換させる意向をもたせることで、その転換にともなうビジネスコンサルティングを行いながら、これが必要とする新しいITインフラである「オンデマンド環境」を提供することにある。
このコンサルティングと一体化するITサービスは競合他社が追随できない領域で、IBMの強さを発揮でき、今後のIBM成長の柱にすることだ。もう1つの狙いはIBM経営自体をオンデマンド型へ転換することだ。この自社がオンデマンドへ転換する狙いも2つあると、社内でこのプロジェクトを推進する「IBMエンタープライズオンデマンドトランスフォーメーション」担当リンダ・サンフォード上級副社長は次のように語る。
「1つはIBM自身がオンデマンド経営のプロトタイプになることで、顧客経営者に当社提唱のオンデマンド概念をよく理解してもらうことだ。第2はオンデマンドモデルによってIBM社内、とくに生産コストを中心に年40億ドル(4400億円)程度削減し、利益増大に奇与することである」
IBMはガースナーCEO時代の1997年、eビジネスコンセプトを提唱し、この時もIBM自体を世界最先端のeビジネス企業に転身させ、市場のeビジネスに対する関心を高め、世界市場に「eビジネス=IBM」という図式を定着させた。
IBMサム・パルミザーノCEOは、オンデマンドの市場受け入れによって、高い成長軌道に乗るIBM像を描く。しかし、ここには当然クリアしなければならない課題は多い。IBM最高財務責任者(CFO)ジョン・ジョイス上級副社長は率直にその課題を公表している(Figure19)。
これは先のサンフォード上級副社長の発言内容を裏付ける。いずれにせよIBMでは93年に前任CEOルイス・ガースナー氏就任以来、一環してITサービスの高い伸びがIBM再生を支え、高利益IBMを復活させた。しかしガースナーIBM時代全社売上高伸長は年平均4%にとどまった。一方、領域を拡大し続けたITサービスは、ガースナー氏就任前年の150億ドルから、退任の02年には2.4倍の364億ドルまで増大した(Figure20)。
■影響力の大きいトップとしてパルミザーノCEOを
米誌CRNは03年、世界IT産業に最も大きな影響力を与えたITベンダートップとしてIBMパルミザーノCEOを選定した。米誌ビジネスウィークなど有力経営誌もパルミザーノ特集やIBM特集を組み、米産業界が寄せる同CEOへの期待を報道した。米ソロモンスミスバーニーなどの報告書がパルミザーノCEOに注目する点は、オンデマンド戦略によって高い成長を実現することおよびその柱となるコンサルティングと一体化するITサービスである(Figure21)。
もちろん、現在世界の大企業は70年代まで続いた世界コンピュータ界の「IBM一極支配」再来を懸念している。従ってIBM1社に自社ビジネスのコンサルティングからITインフラ構築運用までを任せてしまうことへの懸念も強い。
しかし、ビジネス改革からITインフラ構築までにマルチベンダー方式を採用することは、コスト負担増になりかねないことも一方では懸念する。「従ってIBMが過去のようにユーザーを囲い込むのではないかという警戒を抱かせない配慮も重要になる」と、フォレスターリサーチのアナリスト、トム・ポールマン氏は語っている。
IBMパルミザーノCEOも自ら提唱したといわれるオンデマンド戦略の本質を、顧客経営層に十分理解してもらうため、この戦略が顧客にもたらすメリットを再三述べている(Figure22)。
パルミザーノCEOは、「市場動向に敏捷に対応してビジネスプロセスを変化できるようにするには、自社内はもとより自社のサプライヤーや販売網などパートナーを含めたITシステムの連携・統合が最も大切である」ことを強調する。そこではIBMはいち早く技術開発に着手したITシステムの自己管理機能を強める「オートノミック(自律型)」が重要になることもパルミザーノCEOは主張する。
■マイクロソフト、HPとIBMの競合激化
米ITアナリストの多くは、これからの低成長時代の世界IT市場でIBMが最も注目する競合者は、マイクロソフトであるという。ザ・エンダール・グループ主幹、ロブ・エンダール氏はその1人で次のようにいう。「マイクロソフトとIBMの競合はこれまでも注目されてきたが、本当に両者がぶつかり会うのはこれからだ。しかし、それは.NetとJavaのシェア争いのように目に見える形ではなく、どちらがどこまで顧客経営者の願うITを提供できるかという、水面下の争いで結末がわかりにくくなる」(Figure23)。
いわゆるユーザーの心をつかむ、長い間のマインドシェア争いが起きるという予想だ。IBMもマイクロソフトを強く意識し、パルミザーノCEOの右腕といわれる同社技術戦略担当アービング・ラダウスキーバーガー副社長も、「IBMはマイクロソフトを背中を見えないまで引き離さなければならない。それの成否はオンデマンド戦略にかかっている」と発言する。さらにコンパックコンピュータ合併から約2年経過しやっと業績が回復し始めたHPのカーリー・フィオリーナCEOも、日頃IBM戦略を痛烈に非難し、とくにIBMがPwCCを買収してコンサルティング領域に参入したことに関し、次のようにいう。
「コンサルティングはITベンダーの本来の市場ではなく、HPはこの点でIBMとは明確に異なる戦略を採った」(Figure24)。
しかし、フィオリーナHPは、IBMがPwCCを買収する2年前にIBMの買収金額35億ドルの5倍の180億ドルで買収を試みたが自社業績低迷で断念したという経緯もあって、このフィオリーナ発言は米業界では評判が悪い。IBMパルミザーノCEOは、マイクロソフト、HPを真正面の敵として、再度世界市場席巻へと大きく踏み出した。
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