テイクオフe-Japan戦略II IT実感社会への道標

<テイクオフe-Japan戦略II>25.電子投票

2004/01/26 16:18

週刊BCN 2004年01月26日vol.1024掲載

 従来の不在者投票にあたる「期日前投票」を含めて電子投票を初めて全面的に採用した青森県六戸町の町長選挙が今月18日に実施された。投票機の故障ゼロ、開票作業は開票宣言から結果発表まで25分、データを読み込んで集計するだけの時間はわずか4分だった。これまで紙による不在者投票分の開票作業がネックとなっていただけに、改めて電子投票による効率化のメリットを示した。(ジャーナリスト 千葉利宏)

焦点は国政選挙への導入

 2002年2月の「電子投票特例法」施行で地方選挙での電子投票が可能になって間もなく2年が経過する。しかし、来月8日に行われる京都市長選挙を含めて電子投票を導入した地方自治体はまだ9団体と少ない。もともと電子投票は、地方自治体からの強い要望で地方選挙に限定して導入されたという経緯があり、総務省自治行政局選挙部でも技術ガイドライン策定や補助金制度の導入などは行ったものの、他の電子自治体システムのような、国による普及促進策を展開してきたわけではない。ITベンダーが提案する電子投票システムの評価からトラブル時の対応を含めた契約内容まで、各自治体が自ら費用とリスクを背負って導入を進めてきた背景がある。

 電子投票も当初は順調に滑り出した。10年以上前から電子投票システムの研究・開発を進めてきた電子投票普及協業組合(EVS)を採用した新見市が、投票機2台の故障はあったものの無事に成功して一躍有名に。かつてはEVSのパートナー企業だった東芝を採用rした白石市も大きな問題は発生せず、鯖江市の選挙は投票機の故障ゼロを達成した。

 しかし、5番目の可児市で、全ての投票所で一時的に投票ができなくなり、最長1時間15分、止まったままの投票所が出るという大トラブル。海老名市でも、投票記録媒体の原本と複写で票数が異なることが判明して開票作業が遅れるなどの混乱が発生。2つの選挙とも「異議申し立て」の手続きが取られ、現在審議中で、電子投票の導入を検討していた自治体も当面見合わせる動きが相次ぐなど波紋が広がった。ハ=ドの設計ミスで停止した富士通・ムサシ連合、「システム的には問題はなかった」というNTT東日本ともに電子投票システムの商談はほぼストップしてしまっている状況で、巻き返しには時間がかかりそうだ。

 EVSと東芝の電子投票機はスタンドアローン型で、タッチパネルで投票したデータを記録媒体に直接書き込む直接記録方式。紙の投票用紙を投票箱に入れる従来のやり方をそのまま電子化したもので、選挙運営も従来の慣れたやり方を踏襲できる。しかし、記録媒体を開票所に運び、1枚ずつ読み込んで集計するのでは、大都市以上の選挙では時間がかかると考えられ、大規模システムを狙う富士通・ムサシ連合はネットワーク経由で集計できるサーバー方式を、同じくNTT東日本はネットワークを想定した暗号方式を開発したが、作戦が裏目に出た印象もある。

 一方、今回の六戸町の選挙でEVSは一段と優位に立った。

 会員数も増え、「集計作業を効率化でき大都市での選挙に対応できる次期システムも今年夏までには完成する予定だ」(宮川竜一理事)。来月の京都市も成功すれば、尻込みしていた自治体が再び動き出す可能性もあるだろう。今後の最大の焦点は、国政選挙への導入だ。これまで自治体に任せていたシステムの評価や運営体制の整備などを国自らが行う必要が生じ、環境が整備されれば地方選挙への導入も進むという好循環が期待できる。今年7月の参院選挙に向けて公職選挙法改正の検討が進んでいるが、国政選挙での電子投票についても本格的な議論が望まれる。

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