コンピュータ流通の光と影 PART VIII
<コンピュータ流通の光と影 PART VIII>最先端IT国家への布石 第61回 山梨県
2004/01/26 20:29
週刊BCN 2004年01月26日vol.1024掲載
まずは県内の情報ネットワーク整備から 県主導で電子自治体構築へ
■2004年度から高速情報通信インフラ整備に着手山梨県は、来年度から10年間におよぶ情報化推進計画である「やまなしITプラン」の実施を決め、その基本案をまとめたばかり。
基本案では、IT化の目的として「県民生活をより便利にするために」や、「産業のIT活用を推進するために」などの基本指針を7つ設定した。この基本案をたたき台にして今後、実施案を随時、決定していくことになっている。
「情報通信基盤の整備」と「県民・企業・市町村のIT化支援」の2項目を重点施策として捉え、まずは来年度から3年間で光ファイバーによる高速情報通信インフラの整備に着手する。
山梨県では、これまで防災行政無線を中心に、県内56市町村中34市町村が地域公共ネットワークで接続されている。これに加えて、光ファイバー網を県が自前で整備することにより、県内の情報インフラの整備強化を図る。光ファイバー網の民間開放も予定しており、ITベンチャーの事業支援やASPなど、IT関連企業の育成と集積を促進する手段としても期待している。
電子自治体構築に向けては、電子申請システムを県と県内全56市町村が共同で構築・運用を行うことで合意しており、来年度の稼動に向けてシステム開発の真っ最中だ。
具体的には、県と各市町村で構成された共同運営組織である「市町村総合事務組合」内に「電子自治体推進室」を設置。県と各市町村の担当者で構成する電子自治体推進室が、共同運営のスキームを作る。システム自体は、来年度から5年間、民間企業にアウトソーシングする計画だ。
申請システム構築をNEC、施設予約システムは富士通、コールセンターはトランスコスモスがそれぞれ受注。これら3社をまとめる役回りとして、NTTコミュニケーションズが代表企業としてプロジェクトマネジメントを請け負った。
山梨県は、サービス提供を開始する業務について、身体障害者手帳の交付申請や旅券発給申請など34業務を計画。一方、各市町村では、印鑑登録証明の交付申請や住民票の申請など15業務に絞った。電子申請は来年度スタートの4月1日から開始し、順次範囲を拡大させていく予定だ。
古屋金正・山梨県企画部情報政策課電子自治体推進プロジェクトチーム副主幹は、「週1回のペースで研究会を開き、5か月弱で計画をまとめ上げた。各市町村が協力をしてくれたおかげで、スムーズに進んだ」と話し、各市町村との連携の強さを強調する。
電子自治体の構築は、「住民サービスの向上がメイン」(守屋守・山梨県企画部情報政策課電子自治体推進プロジェクトチーム課長補佐)としており、行政サービスの充実の施策を優先的に取り組んでいくとしているが、電子県庁構築について、文書管理や財務会計システムなどの活用により、「庁内の効率化にも大きく寄与する」(守屋課長補佐)と期待する。
■甲府市、独自のガイドラインを策定
一方、甲府市役所では、電子自治体構築に向けて電子調達ガイドライン策定を積極的に進めている。
2002年7月に「IT推進本部」を設立し、現在、情報システムの調達に関するガイドラインがほぼ完成した。「良質な製品を安価に調達できる枠組みが必要になっている」と話すのは、甲府市総務部情報管理課情報化推進係の土屋光秋係長。「市役所の職員は、ITベンダーの社員と同様のスキルや知識を持っているわけではない。だが、仕様書だけでは不明確な部分が多いのも事実。もし動かなかった場合はどうするのか、各種の機能にしても、基本機能かそれともオプションなのかなど、漠然としていた部分を明確に示すことで、コスト削減と効率化を図ることができる」と、ガイドラインの策定の理由を説明する。
例えば、文書管理システムでは、180以上の機能の概要項目を設定し、その機能は基本機能なのか、カスタマイズが必要なのか、カスタマイズであれば費用はいくらかかるのかなどをすべてITベンダーに入札の際に明記させる。
また、供給先であるITベンダーと甲府市の間にシステムインテグレータを仲介人として設置し、システムインテグレータにベンダーの選定やプロジェクト管理を任せる。もし、稼動しなかった場合などの不具合が出た場合は、システムインテグレータにその分の費用などを保証させるなどの規約を細かく策定している。「システムインテグレータを中間に配置することで、費用がかさむと思われがちだが、ガイドラインを策定したことで、費用は従来に比べ2割程度は削減できている」と、土屋係長は調達コストの削減に自信をみせる。
計画では、情報システムの調達以外にも「企画構想」、そして「運用」の分野においてもこのような独自のガイドラインを策定する予定だ。
◆地場システム販社の自治体戦略 |
システムインナカゴミ
■地場企業による情報化を促進年商約30億円のうち、公共関連事業が約半分を占めるシステムインナカゴミ(SIN)。
情報システム構築やソフト開発などといった法人向けの情報サービス事業のほか、携帯電話やパソコンのコンシューマ向け店頭販売事業も手掛け、売り上げの約35%を占めるなど、事業領域は広い。
ここ数年は、ハードウェアの単価下落の影響を受け、減収を強いられているものの、サポートサービスやセキュリティ事業が伸長しており、増益を確保している。
同社の収益の中心となる公共関連事業では、市町村合併関連で案件は増えるとの予測もあるが、「東京の大手ベンダーが元請けとして受注し、その下請けとして当社をはじめとした地場のIT企業が請けるケースが大半。下請けでは利益率向上は難しい」(中込裕社長)と単純に楽観視できる状況ではない。
中込社長は、山梨県内のIT企業が集まる業界団体「山梨県情報通信業協会(YSA)」の副会長も務めており、県の情報化推進施策立案にも一役買っている。
県では、県内を網羅する光ファイバー網を来年度から3年間で構築する予定だが、「とりあえず引くというだけで、利活用の見通しが全然立っていなく、他府県に比べて遅れている。これでは、真の情報化推進施策と言えない」と、企業から見て、県の施策に辛口の評価を下している。
民需の需要喚起、自治体案件の利益率向上が、SINの業績拡大の至上命題だ。しかしその一方で、県内IT企業の実力をアップするためには、地元企業が「案件を元請けとして取れる体制と、県のITプランにシンクタンクとして関わるような実力を持つことが重要」と説き、山梨県内の情報化推進や情報サービス業全体の底上げのために、YSAを中心として勢力的に動いている。
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