OVER VIEW
<OVER VIEW>オンデマンドで世界市場席巻に挑むIBM Chapter2
2004/01/12 16:18
週刊BCN 2004年01月12日vol.1022掲載
世界的なオンデマンド普及に賭けるIBM
■ビジネスコンサルティングを売上伸長の推進役へIBMのITサービスは、これまでもその守備範囲は広く、売上高も400億ドル超(4兆4000億円)と、第2位のEDSの売上高の2倍で圧倒的強さを誇っている。富士通のサービス売上高は世界第3位だが、その売上高はソフトを含めて2兆円強であり、IBMの半分以下だ。売上高が巨額であるIBMサービスは、とくに米国において多くのサービス分野で強いブランド力をもっている(Figure7)。
システム開発や構築でのブランドシェアは47%で、EDSの12%を大きく引き離す。ITアウトソーシングでもこの分野に強いEDSを引き離す。
また、これまで本業ではなかったビジネスを含めたコンサルティングでIBMは、PwCCを買収したことでブランドシェアが急上昇し、アクセンチュアやデロイトも大きく引き離す。
このITサービスでの強力なブランドでIBMを作り替えるというのが、IBMのサム・パルミザーノCEOの狙いだ。IBMのオンデマンド戦略と相前後して世界有力ITベンダーはいろいろな呼称をもって柔軟なITであるオンデマンドコンセプトを発表した(Figure8)。
しかし、この同じ狙いをもったコンセプトでも、IBMは競合他社と差別化ポイントを明確にしている。IBMのオンデマンドコンセプトは、企業ビジネスと市場変化に対応して敏捷かつ柔軟に変化できるというモデルを提唱し、このモデルを実現するための環境に新しいITを位置づけている。
競合他社のコンセプトは、ITシステム構築や運用管理の領域、即ち従来からのITサービスにおける新しい提案である。これに対しIBMの「e-ビジネスオンデマンド」最大の特徴は、顧客ビジネスのオンデマンドモデルへの転換を推進するビジネスのトランスフォーメーション(転換)コンサルティングがITサービスの出発点であることだ。これはIBMが大手PwCCを買収したことで実現した、コンサルティングと一体化したITサービスである。
パルミザーノCEOはこれを「コンサルティングとITサービスのワンストップショッピング化」という。IBMはこのビジネスモデルの転換に関するコンサルティングをITサービス市場とすることで、全社売上高を大きく伸ばす柱に育成する狙いを定めたと考えられる。
■IT懐疑論でも目立ったコンセプトの強さ
長い間の世界IT不況に業界が疲弊し始めた03年5月、ハーバードビジネスレビューは同誌編集人、ニコラス・カール氏の「ITはもやは重要でなくなった(IT doesn't Matter)」という論文を掲載し、ユーザー、業界に大きな波紋を呼んだ(Figure9)。
IT業界はいっせいに同論文へ反論の狼煙(のろし)を打ち上げた。IBMパルミザーノCEOも、「ITの投資が一時的に減少したとしても、これで企業経営におけるITの重要な役割に変化はない」と業界擁護の論評を行った。
この時、パルミザーノCEOの発言は米国経済統計局の「IT投資額と投資によって顧客が手にするITパフォーマンス価値」の分析が裏付けになっていたようだ。同統計局は、96年の米企業IT投資額と、これによって得られるパフォーマンス価格の比を1として同額の2900億ドルとしている。その後投資も伸びたが、ITはパフォーマンス上昇と価格低下によって、パフォーマンス価値と投資の差は大きく拡大した。投資額ピークの00年の投資額は4500億ドルだったが、そのパフォーマンス価値は96年時換算で5700億ドルとなっていた。
その後のIT投資額削減で、02年にはピーク比10%減の4060億ドルとなったが、この年入手できたパフォーマンスでは00年比下落はみられなかった。投資額が大きく減っても顧客が入手するパフォーマンスが大きく減ることはなかったのだ。従って経済が低迷しても米企業はITの重要性に疑問を抱かなかったとも解釈できる。
しかしパルミザーノCEOは論拠は別としても、「IT懐疑論」が提起されたこと自体に、業界は強い反省を求められているとの自論を展開した。その反省すべきポイントは「ITと経営の乖離」に集約されると同CEOは強調する。これらIT懐疑論にもIT業界は真正面から反論できる新しいITコンセプトの提唱が大切であることをIBMは強調した。
この面でも「オンデマンドビジネス」と一体化したITインフラである「オンデマンドオペレーティング環境」を提唱していたIBMの強さが目立った(Figure10)。
■オンデマンドを支えるソフト力強化へ
03年末、IBMは04年以降に自社オンデマンド戦略普及を支援するため、自社ソフト製品とオンデマンドオペレーティング環境構築の関係を明確にする方針や、ソフト部門開発体制変更を次々と打ち出した。
コンサルティング活動によって顧客ビジネスプロセスのオンデマンド経営へのロードマップが決定され、これに基づいてオンデマンド環境のデザインが描かれると、次の課題はこれを具現化するアプリケーションをどう開発するかに絞られるからだ。ハードでは既に従量課金制にとって処理量に合わせてプロセッサ数を増減できる「オンオフ・キャパシティ・オンデマンド」対応のサーバーなどが発売されている。従ってソフト面でもオンデマンド対応が急がれるのだ。
IBMはオンデマンド環境構築に使われるアプリケーションに求められる特性として、変化への迅速な対応、戦略的優位性確保、高い信頼性とスケーラビリティをあげる。そしてそのインフラアプリケーションとしてはCRM(カスタマーリレーションシップマネジメント)などの4つを指定した(Figure11)。
これと同時にIBMは、これまでWebSphere、DB2など5つの製品別だったソフト部門を、12業種のバーティカル開発体制へ04年から移行することを発表した(Figure12)。
IBMは既に17業種別のオンデマンドビジネスのモデル設計を行っていると説明していた。従って、ソフト部門の再編はこの業種別モデルに沿ったソリューション提供への準備だと考えられよう。こうしてIBMはオンデマンドの世界的普及に賭けたと理解してもよいだろう。
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