変貌する大手メーカーの販売・流通網

<変貌する大手メーカーの販売・流通網>第3回 日本IBM 「自立型パートナー」体制に移行

2004/01/05 20:42

週刊BCN 2004年01月05日vol.1021掲載

 事実上、2001年にパソコン量販店向けのコンシューマ事業から撤退した日本アイー・ビー・エム(日本IBM)は、従来ハードウェアを販売・流通するだけの企業向け「特約店」制度を改め、「1次店」に「自立型のパートナー」を揃える戦略転換を図っている。「1次店」には、厳しい登録基準を設け、既存の「特約店」を半分以下に絞り込むほか、新たなパートナー開拓を進めている。そのために、ここ1-2年で技術開発や人材育成の支援体制も強化するなど、日本IBMの姿勢をパートナーにアピールしている。(谷畑良胤●取材/文)

技術開発・人材育成支援を強化

■新「1次店」約120社が誕生

 企業向けでは、直販のフォローで同社ハードウェア・ソフトウェアの販売代理店に過ぎなかったかつてのパートナーである同社の「特約店」を、過去400社前後まで拡大した。だが、「今、必要なのは自らビジネスを開拓して、案件をクローズ(契約)するパートナー」(橋本孝之・取締役BP&システム・PC製品事業担当)として、02年から「専門性をもちエンドユーザーに価値を提供できる“自立型のパートナー”を開拓する」(矢花達也・理事ビジネス・パートナー事業部長)方針に切り替えた。

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 現在、「特約店」制度は廃止され、受託ソフト開発やハードを売る独自ソリューションなどのノウハウや開発能力を持つパートナーを中心に開拓し、「ソリューション・プロバイダ」制度と呼ぶ新パートナー制度を走らせている。02年には、新規のアプローチを含め新制度傘下の「1次店」として、これまでに約120社が誕生している。

 「1次店」には、業種・業態別に専門性をもつソリューションプロバイダが顔を並べる。その中の代表的な例としては、過去に自社ブランドのハード売りから、IBM製品のほぼ専業ベンダーに移行してきた日本ビジネスコンピューター(JBCC)、銀行業務系ビジネスに特化したソリューションを持つニイウス(NIWS)のほか、アイ・ティ・フロンテイア、日本オフィス・システム(NOS)、日本情報通信、兼松エレクトロニクスなど、業種や技術に専門性のある「1次店」が多いのが特徴だ。最近では、松下電器産業グループ内企業のシステム構築を担う子会社のパナソニックソリューションテクノロジーなどが、「特約店」時代を含め、初めて「1次店」に登録している。

 また、他の大手ITメーカー製品と合わせてIBM製品も販売する「2次店」は、現在約360社。日商エレクトロニクスやシャープシステムプロダクト、オービックビジネスコンサルタント(OBC)など、ソフト会社や通信系会社、コンサルティング会社など、「独自ソリューショを持ち、IBM製品と連動できる企業」(橋本取締役)を「2次店」として登録。IBMのロゴを使うことでビジネス的にプラスと認識するパートナーの開拓を進めている。

 ただ、パソコンやIAサーバーの「2次店」販売は、東がキヤノン販売、西はダイワボウ情報システム(DiS)など、4社のディストリビュータに集約されている。

■パートナーの技術力アップも支援

 日本IBMは、新パートナー制度の発足で、「自立型」のパートナー企業をバックアップする支援体制を強化した。パートナービジネス担当は六本木(東京都港区)、直販部隊は箱崎事業所(東京都中央区)と、完全に分離させている。

 新パートナーの支援策としては昨年9月、ハードの「IBM Linuxサポート・センター」を晴海(東京都中央区)に、ソフトの検証施設を渋谷(東京都渋谷区)に開設し、技術開発やベンチマークテスト、他のプラットフォームとの接続性検証などの提供を開始した。

 矢花事業部長は、「機器やソフトの貸与だけでなく、当社が持つ事前システム検証やベンチマークテストなどの既存データベースを、現在までに全体の約70%を公開できる体制を整えた」と、今後は検索ポータルなどを開発して情報公開をスピーディに行う方針だ。

 新パートナーの技術力アップに関する施策としては5年前から、「IBMサーティファイドプロフェッショナルビジネスパートナー(ICPBP)」と呼ぶ営業やSE(システムエンジニア)、コンサルティングスキルなどの技術者認定制度も開始し、「1次店」の中にこれまで約7000人の認定者を輩出した。技術・人材育成など一連の支援体制により、日本IBMの「1次店」は、“手厚い保護”の下で販売力を効率良く底上げしている。

 中堅・中小企業向け販売の中核を担う「1次店」については、「120社に競争力が備わり活性化している。今後、新たなパートナー開拓では、領域や専門性を重視し慎重に検討する」(矢花事業部長)方針だ。

■直販は6事業部で展開

 日本IBMには、企業向け販売で別のチャネルとして直販部隊がある。直販は、大企業向けの金融、製造、流通、通信メディア、公共の5事業部と、地域のSMB(中堅・中小企業向けビジネス)を狙うゼネラルビジネス事業部の計6事業部で展開している。直販は、主に自動車業界など支店・営業店を全国に持つ大企業向けの営業だが、「地域のシステムインテグレータや『1次店』と協業して市場開拓やシステム構築をするスキームもできている」(矢花事業部長)という。

 さらに、ゼネラルビジネス事業部は全国の4支社2事業部を中心に、地場のソリューションプロバイダと協力して地域の中堅・中小企業をサポートしている。

 一方、コンシューマ向けパソコン販売では、01年1月にパソコン量販店向けに出荷した春モデル「Aptiva(アプティバ)Eシリーズ」の発売を最後に、事実上撤退した。現在は、企業向けの「ThinkPad(シンクパッド)」を加賀電子などディストリビュータを通じて販売。日本IBMが直接的に量販店向け販売の戦略を練ることはなくなった。

 一昨年にIBMが打ち出した「eビジネス・オンデマンド」戦略の実現に向けて、ハード販売中心の体制からシステムインテグレーショに比重を置いた戦略に変革中だ。
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