テイクオフe-Japan戦略II IT実感社会への道標

<テイクオフe-Japan戦略II>22.福岡―宮城のIT連携

2003/12/29 16:18

週刊BCN 2004年01月05日vol.1021掲載

 電子自治体の構築に向けて情報システムの技術基盤の共通化をめざす取り組みが、福岡県、宮城県を中心に動き出した。福岡県が開発した技術標準「TRM(技術参照モデル)」を普及してシステムの共同利用を実現するのが目的。昨年12月には岩手、岐阜、鳥取、佐賀を加えた6県で「電子自治体アプリケーションシェア推進準備会」が発足。電子自治体の実現に向けた新たな動きとして注目される。昨年7月に新たに策定された「電子政府構築計画」では、情報システムの最適化を実現するために「エンタープライズ・アーキテクチャ(EA)」に基づく見直しが中央府省で進められることになった。同様に地方自治体でもEA導入によって情報システムの最適化と調達効率化を実現しようというのが今回の取り組みだ。(ジャーナリスト 千葉利宏)

地方と中央の協調が重要

 キッカケは2002年7月に地方から構造改革を実現しようと当時三重県知事だった北川正恭氏(現・早大大学院教授)など5人の県知事(現在の知事メンバーは8人)を中心に発足した地方分権研究会。教育や医療、公共事業など各県が問題を抱える分野をテーマに選び、学界、経済界からも識者が参加して研究を進めており、ITもテーマのひとつだ。「電子自治体を推進するのは、地場の産業振興も大きな狙い。しかし、従来の発注方法では大手ITベンダーの陣取り合戦で終わってしまい、地元にITが残らない」(溝江言彦・福岡県企画振興部高度情報政策課情報企画監)。地域経済の活性化が共通課題の地方にとって、情報システム調達を一括して大手に出すのではなく、分割して地元の中小IT企業に発注できるようにしたいとのニーズは強い。

 一方で02年度から総務省が電子自治体を推進するために取り組んでいるプロジェクト「共同アウトソーシング事業」について、福岡県では早い段階で問題点を抱えているとの認識をもっていた。共同アウトソーシング事業は、自治体の情報システム調達を効率化するために、各自治体が分担して洋服の型紙となるような標準的なシステムを開発して相互利用することでシステムコストの削減を図るのが狙い。03年度から統合連携システム、電子申請受付システムなど4つの基盤システムの開発がスタートしているが、技術標準を策定しないままに各システムを構築した場合、全体のシステムの中核となる文書管理システムの仕様が変更されるたびに、他のシステムに影響がおよび、手直しが生じる懸念もある。

 福岡県では、これらの課題に対応するためEAの導入を決断し、独自にTRMの開発を進めることにしたわけである。こうした福岡県の取り組みにすぐに反応したのが宮城県だ。地方分権研究会の活動を通じて、03年3月には両県で研究会を発足、10月には宮城県でも、福岡県のTRMを導入してシステム基盤の共通化を図ることで正式に合意した。「他の自治体に比べて早い段階からメインフレームからの脱却を進め、マルチベンダー環境でオープンソースを推進していく方向性をめざしてきた。福岡県との提携は自然な流れだった」(広島和夫・宮城県企画部理事兼次長(情報政策担当))。

 さらに昨年12月には、準備会に4県が加わるなど広がりを見せており、地方自治体でもEA導入の流れが強まっているのは間違いないだろう。ただ、総務省が、過去2年間進めてきた共同アウトソーシング事業の成果を踏まえながら、こうした自治体の動きにどう対応するかが今ひとつはっきりしていない面がある。「地方のニーズと中央の政策とのギャップが広がっている印象がある」(大手ITベンダー)との指摘もあるだけに、電子自治体の実現に向けて、地方と中央との協調が今後ますます重要になっていると言えそうだ。

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