視点
残業手当
2003/12/15 16:41
週刊BCN 2003年12月15日vol.1019掲載
例えば、優秀なプログラマとそうでないプログラマの2人に同じ仕事を依頼した場合を考えてみよう。1人は残業をすることもなく3日間でシステムを完成させたが、もう1人は毎日残業をしてようやく1週間後に完成させた。おまけに、より多くの時間をかけて作られたシステムがバグだらけでまともに動かず、一方の優秀なプログラマのシステムにはバグがなく、処理に要する時間も短いといったことが起こるのである。
もし、残業手当を支給していれば、仕事時間は長いけれど、こなした仕事が少ないプログラマの方が収入が多くなってしまう(「優秀なプログラマはそれだけ高い給与をもらっているはずだ」という反論もあるだろうが、この調査によれば、経験年数や年齢がほぼ同じなら給与水準の差はおおむね20%程度に収まっている)。IT先進国の米国ではそうではない。例えば『コンピュータの名著・古典100冊』(石田晴久&青山幹雄編集)にも選ばれている名著『ピープルウェア』(トム・デマルコ&ティモシー・リスター著)には「アメリカのソフトウェア業界では、年俸やプロジェクトベースで給与を払うため、通常は残業手当はつかない」という記述がある。
米国の研究によれば、ソフトウェア技術者の生産性は2倍から10倍の格差がある。また、実際にこの分野で働く何人かの知人に話を聞いたのだが、全員がソフトウェア技術者に大きな能力差があることを認めている。そうだとすれば、給与水準は、その技術者の能力と成果に応じて決定されるべきである。生産性の低い技術者が残業をして優秀な技術者より高い報酬を得ているようでは、優れた人材が集まるはずがない。こんなことでは日本はIT後進国になってしまう。もっとも、これはソフトウェア技術者だけでなく、ほとんどの知的労働者に共通の話なのだが、それはまた別の話。
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