テイクオフe-Japan戦略II IT実感社会への道標

<テイクオフe-Japan戦略II>20.電子申告

2003/12/15 16:18

週刊BCN 2003年12月15日vol.1019掲載

 国税庁の電子申告・納税システム(e-Tax)が来年2月から名古屋国税局管内で運用開始されるのに向けて、日本税理士会連合会や税務システムのITベンダーなど関係業界の準備が急ピッチで進んでいる。すでに11月から名古屋国税局管内の納税者および税理士を対象に開始届出書の受付もスタートしているが、本人確認のための電子証明書の公的個人認証サービスや、日税連が独自に設置する認証局サービスともに動き出すのは来年1月から。ITベンダーのシステム対応も含めて準備が整うのは運用開始ギリギリとなりそうだ。(ジャーナリスト 千葉利宏)

04年2月に名古屋でスタート

 電子申告について、BCNの企画連載でも今年5月に1度取り上げているが、改めて概要を整理しておこう。来年2月2日から運用を開始するのは、名古屋国税局管内(愛知、岐阜、三重、静岡の4県)の納税者を対象に、所得税と個人事業主の消費税の電子申告について。3月22日から法人税と法人の消費税の電子申告が追加され、全税目の電子納付もスタート。6月1日からは全国に適用が拡大される。

 電子申告を利用するには、国税庁が認める公的個人認証などの電子証明書を取得するほか、事前に納税地の税務署長に対して住民票などの本人確認書類を添付して開始届出書を提出。税務署から利用者識別番号と仮暗証番号、無償のe-Taxソフトが送付され、このソフトをパソコンにインストールして利用する。すでに開始届出書の受付が始まっており、個人納税者が来年2月16日-3月15日の確定申告期間に電子申告を利用したい場合には、e-Taxソフトが送付されてくる余裕を見て1月中旬ぐらいまでには届出を済ませた方が良さそうだ。

 一方、税務代理を行う税理士事務所・法人にとって電子申告への対応は大きな課題。日税連でも情報システム委員会(委員長・田中一志常務理事)を中心に検討し、早い段階で独自の認証局を設置する方針を決めるなど準備を進めてきた。

 「IT化によって効率化を図ろうというのは社会の大きな流れ。電子申告への対応は、税理士にとっても社会的な責務であり、職域の防衛にもつながる」(田中常務理事)との考えから、啓蒙活動を行ってきた。税理士の中には電子申告の導入によって「仕事が奪われる」との懸念も消えておらず、推進役の田中常務理事などが「積極的に電子申告に対応することがむしろ税理士の職域を守ることになる」と強調しているわけだ。

 税理士は開業時に、各地域の税理士会に会員登録が義務付けられており、日税連では約6万7000人の会員全員にICカードを配布して電子証明書を付与したい考えだ。運用開始が目前に迫った名古屋国税局管内の税理士約7000人をはじめ全ての会員に電子証明書の登録手続きを済ませるよう呼びかけている。さらに、独自の認証局を設置したことで、税理士とクライアントとのデータのやり取りにも電子証明書を利用することや、ネット上で税理士資格のない人間が税理士を名乗ってクライアントを募集することの防止にも役立てていく。

 国税庁は、2004年度予算の概算要求でe-Taxの全国導入を推進するため145億円の予算要求を行い、当面の政策目標として利用者満足度(CS)の向上を図るとともに、金融機関のシステムや認証基盤の整備を前提として、06年度に130万件程度という数値目標を掲げた。130万件の内訳は明らかではないが、予算要求の多くはe-Taxソフトの無償配布費用に充てられ、個人納税者の電子申告の普及に力を入れていくものとみられる。

 現在、確定申告の件数は年約2000万件で、うち半分の約1000万件が医療控除や住宅ローン控除などの還付申告。税務当局が電子申告普及のターゲットとしているのがこの還付申告と指摘する声は少なくない。米国では税を多めに徴収して申告に応じて税金を還付する還付申告方式が中心だ。日本も少子高齢化が急速に進むなかで、従来の年末調整方式から、米国のような還付申告方式への移行が進むとの見方である。

 さらに、消費税の申告も、現在は免除されている小規模事業者に対象を拡大しやすくなると考えられる。電子申告は税制のあり方に今後、さまざまな影響を及ぼすことになりそうだ。

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