中国ソフト産業のいま

<中国ソフト産業のいま>48.構造転換の中での中国進出

2003/12/15 20:43

週刊BCN 2003年12月15日vol.1019掲載

 前号では、ソフト開発のコスト削減だけを求めるならば、何も中国進出や中国企業との提携だけが選択肢ではないと述べた。国内でも雇用の流動化で人件費は下がっている。短期的に見るなら、低コストと中国へアウトソーシングするリスクの兼ね合いを考えれば、国内開発の方が無難に思えるはずだ。ただ、長期的に考えた場合、違った意義がある。中国に現地法人を持つ中堅ソフト会社の幹部はこう話す。「中国に進出したのはコスト削減だけが目的ではない。世界どこでも通用する開発体制を整えるためだ」。(坂口正憲)

 ソフト業界は大きな構造転換を迫られている。最近、開発プロジェクトの失敗が頻発し、一部のユーザーがソフト業界に不信感を抱き始めているからだ。ある建材メーカーは60億円をかけてERP(基幹業務システム)パッケージを導入しようとしたが、システムインテグレータが途中で投げ出してしまった。制御機器メーカーは業務システムの再構築に16億円をかけたが、ついにモノにならなかった。関西の銀行では、50億円で発注した勘定システムの開発が難航。費用が倍の100億円に膨らんだ。

 大型プロジェクトばかりを取り上げたが、中小規模プロジェクトでも同じ状況が散見される。なぜ、このような状況が起きるのか。前出の幹部は「日本のソフト業界のやり方は属人的で場当たり的。案件によって運良く上手くいく時もあれば、大ハズレすることもある。1つの会社の中でさえ、標準化された開発手法がない」と指摘する。つまり、先の中堅企業はソフト開発、それも特に下流工程からは属人的な部分をできる限り排除し、開発の工程や手法を標準化しようとしている。

 標準化された仕組みが本当にあれば、開発が国内でも中国でも完成品の品質は大きくブレなくなる。そうなれば中国へアウトソーシングするリスクはがくんと減り、長期的にはコスト競争力は高まる。逆に言えば、従来体制のままではコスト削減効果は望めない。結局、中国へのアウトソーシングでは、発注する側の国内ソフト会社が自らの開発体制を見直し、標準化を進める覚悟が必要となる。
  • 1