WORLD TREND WATCH

<WORLD TREND WATCH>第182回 IBM、MS冷静な対決

2003/12/15 16:04

週刊BCN 2003年12月15日vol.1019掲載

 世界のIT市場では、これから主力対象はこれまでの大企業に代わってSMB(中堅・小企業)であるという認識は、わが国を含めて共通になった。2003年には、この世界SMBを巡って、マイクロソフトとIBMの戦略発表も目立った。現在約9000億ドル(100兆円)の世界IT市場で、SMBの占める割合は30%以上といわれている。世界には大企業が3万社、中堅企業40万社、そして小企業は1億社以上あるとIBMは発表している。1社当たりの取り扱いは小さくても、世界BtoB(企業間電子商取引)取引高の42%はSMB間で行われているとの報告もある。

SMB巡り異なる戦略

 マイクロソフトはSMB向けCRM、ERP(基幹業務システム)などアプリケーションパッケージ開発のため、ISV(独立系ソフト会社)のグレートプレーンズやナビオを巨額で買収。これらのアプリケーションを基盤にマイクロソフトは「MSブランド」のCRMを欧米で発表し、ERP発売準備も進めている。一方IBMも、SMBを狙って低価格の自社ミドウエア「Express版」などを、わが国を含めて発売した。マイクロソフトは03年10月、SMB向け「SBS(スモールビジネスサーバー)」のスタンダードとプレミアムの新しいバージョンを欧米で発表した。これらソフトは999ドル(11万円)からの値立てで、マイクロソフトのソフトとしては極めて安い。

 一方IBMはマイクロソフトとは異なり、自らはアプリケーションパッケージは手掛けず、SAP、シーベル、ピープルソフトなどISVソフトと自社ミドルウェアによるソリューションを販売する。さらにIBMはマイクロソフトの新SBS発表と同時期に、中小の小売り、金融、製造業向けパッケージを開発するISVとの協業を強化する「ISVアドバンテージプログラム」を公表した。これで米市場では、両社のSMBでの競合はさらに本格的になったとの見方もある。

 しかし両社のSMB戦略を仔細に分析すると、同じSMB対象でもそれぞれの特技を打ち出すため、大きな違いもあるようだ。ソロモン・スミス・バーニーのアナリスト、リチャード・ガードナー氏は次のようにいう。「マイクロソフト、IBM両社はともに、同一市場で真正面からぶつかることは得策でないと考えている。両社はそれを考えるだけの余力があるといえよう」

 IDCのアナリスト、レイ・ボグ氏は、「IBMのいうSMB戦略のターゲットは、世界の中堅企業であって、従業員数10人、数人の小企業攻勢は考えていない。これに対してマイクロソフトは従業員数1ケタの小企業までを狙っており、対象も異なる」と分析する。あるアナリストは匿名で次のように分析する。「SMBでの両社の対決は、メディアの創り出すした伽話かもしれない。対決はおもしろい話だからだ。IBMも、マイクロソフトがわざわざIBMがシェアを獲得するため巨額を投資した市場で、IBMの後追いをするとは考えていない。IBM自身も世界SMBで自社の手が及ばない膨大な市場があることを十分認識しているからだ」(中野英嗣●文)

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